AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とレイドラリー中篇 その09
「とりあえずレミル、アレは記憶の方で見たことある?」
「はい……レイヴン。メルス様が倒した、偽りの邪神を崇めていた男ですね」
「その通り。分かっていると思うけど、偽物とはいえちゃんと機能は邪神と同じ。流れているのも邪気だから、防御だけは絶対に欠かさないでね」
「承知しました」
このタイミングで、レミルを頼らないという選択肢は無い。
そうするだけの余裕があまりないというのもあるが、そうしないと怒られるからだ。
「おいおい愚者。そんなチンケな姿になったうえ、女におんぶに抱っこかよ……ずいぶんと堕ちたものだなぁ!」
「ふーんだ、堕ちたんじゃなくて堕としたんだもんねぇ! だいたい、そっちだって偽邪神に縋ってるじゃん!」
「ハッ? 仕える神様の加護を授かって何が悪いんだよ。テメェはアレか、目に見えないモノも許せねぇって性質の悪いヤツか?」
「なら問題ないね。レミルは使徒、神様の使いみたいなものだし。……あっ、そういえばあなたはそういう存在になれずに死んだ可哀想な人だったっけ? ごめんごめん、ちょっと配慮に欠けていたかもしれな……ぶふっ」
ちなみにレイヴン、前回のようにいちいち儀式をせずとも最初から邪神の使徒を肉体に宿している状態である。
体がその状態で死んだからなのか、強化されているからなのか……まあ、どちらにせよ肉体に馴染んでいる状態なことはたしかだ。
そんなレイヴンだが、なぜか俺の失言にわなわなと拳を握り締めると──瘴気に形を与えて俺に向けて解き放つ。
「テメェだけは……殺す」
「レミル、よろしく~」
「はい──“飛武具装”!」
レミルの指輪は改良され、『武創の指輪』として今なお彼女の薬指で輝いている。
その能力の一つ“飛武具装”は、ほぼ消費ゼロで自分の用意した装備を一定領域内で好きなだけ装備できるというものだ。
「“無手武起”──“防守”!」
今回展開したのは大量の盾。
それぞれが“無手武起”によって武技の発動を可能とし、防御性能を高める。
一方、瘴気が模るのは無数の武具。
剣や槍などの定番はもちろん、斧や槌なども飛んできている。
それらは次々と俺に向けられて放たれてくるが、そのすべてがレミルの展開した盾の防御によって撃ち落されていく。
「あれあれ? やっぱりそんなに強くなってなかったかな? いや、強くなっているのかもしれないね……それ以上に、うちのレミルが強すぎるだけか。ごめんね、そこまで弱いとは思っていなかったんだ」
「──────。し、死ねぇええ!」
「あ、あの、メルス様。その、あまり挑発をしない方がよいのでは……」
「挑発? いや、普通に思ったことをそのまま口に……ああ、そういえばそうだったね。無自覚だったよ」
自分でも分かってはいる、思ったことをそのまま口にすると人がキレると。
だがそれ以上に、こうも思う──いや、お前たちがキレやすいだけだろうとも。
もちろん、眷属に怒られました。
自分の才能をちゃんと自覚しろと……こういう台詞って、もっと使いどころがあると思うのは俺だけじゃないだろう。
「けど、今はレミルが守ってくれるよね?」
「もちろんです。ですが……その、倒せる相手をあえて怒らせるのは、少しやりすぎなように思えまして」
「あっはははっ、レミルもやるね。倒せるって、思いっ切り言ったよ!」
「えっ? ……あっ!」
あーあー、怒ってる怒ってる。
一瞬レミルが庇ってくれると思ったのに、全力でカウンターを喰らったんだからそりゃしょうがないか。
だが仕事はバッチリやってくれるレミル。
レイヴンがさらにキレて増えた攻撃を、俺と会話しながらテキパキ捌いていく。
眷属にとってこれは朝飯前。
並列思考を使えない眷属は、成り立ての者しかいないぐらいだし。
「いいよ、大丈夫。レミルは私の眷属。その発言も全部、私の意思に沿って言ってくれたものなんだから」
「メルス様……って、それでは何も状況が変化していませんよ!」
「あれ、バレちゃった? まあ、レミルが私の護衛をしてくれたお蔭で、一つ目の魔導の準備ができたよ。少しレミル自身は後ろで待機していてね」
「分かりました」
相手が邪気を操る存在なので、通常よりも多くの魔力を消費してしまう。
保険分も用意せねばならない状態なので、練り上げるのにも時間を掛けてしまった。
「念のため訊いておくけど、レイヴンに降参する気はない? 大人しく自害してくれるなら、私から何かする気はないよ?」
「自害なんてするわけないだろ。テメェの命は奪う。それが俺に与えられた天啓だ」
「天啓ねぇ……ちょっと前に戦った相手も、天啓を授かれるってスキルを持っていたよ。まあ、何も授かれなくて死んだんだけど。もしかしたらそれ、同じじゃないの?」
「そう何度も同じ手は喰らわねぇよ。頭に流れてくるんだよ、ガンガンと。テメェを殺して、恨みを晴らせってな」
恨みか……レイヴンは最後、本当に恨んで死んで逝ったのだろうか?
自分の大好きな邪神の使徒と一体化できたまま、死ぬことができたのだから。
「まあ、それはどっちでもいいか。とにかく始めさせてもらうよ」
「……何をだよ」
「決まってるじゃん。終わりをだよ……魔導解放──“旋律源永奏楽団”」
けどまあ、鎮魂歌でも奏でてやりますか。
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