AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とレイドラリー中篇 その04



「生命力の致死到達を確認──:万夫不当:を起動」


 一度死んだことがトリガーになったのか、偽者の戦闘力がはるかに高まっていく。

 完全に個人を相手に使うようなものではないと思うのだが……その分、俺に期待してくれていると考えれば、少しは気が楽になる。


「俺の方の箱は、あっちとはたぶん逆になっている……つまりは死亡確定」


 偽者を包む白い箱は、内部で死んだ者を蘇らせることができる箱だった。

 では俺を包む黒い箱は? 先ほど言っていた名は“黒き穴昏き闇”……名前が白い方とは逆なので、なんとなく予想は付くだろう。


「たぶん、普通に使うなら不死鳥とかに対する策なんだろうな。けど、この場合は化け物退治のため……ってか?」


 まったく認めたくはないが、世界を管理している運営神からすれば、俺は予想不可能な化け物なんだとか。

 自分たちのやってきたことをことごとく邪魔され続けた結果、リソースを裂いて活動の妨害をしようとするほどだしな。


「負けるわけにはいかないわけだ──なあ、『無槍』よ」


 俺の意思に呼応するように、召喚した透明な槍はキラリと輝く。
 言いたいことはだいたい分かった……要するに、すべてぶっ壊すということだ。


「やろうぜ、『無槍』。お前とならどこまでもいける──“神突き”!」

「:武芸之才:」


 夢現流武具術に登録された神殺しの武技。
 その槍版を発動して、勢いよく刺突してみるものの──大盾に形状を変えた『模宝玉』モドキによって、それは防がれてしまう。


「いや、まだだ……夢現流武具術槍の型──“力槍・三叉破槍トリシューラ”!」


 籠めたエネルギーによって槍の先が三つ又になる幻像が現れると、それぞれの部分から異なる属性の力が溢れだす。

 元となる神の槍は属性がそれぞれ定まっていたらしいが、俺の夢現流武具術に収められたこの武技は、その属性をそれぞれ好きなモノへ変更可能だ。

 籠めた属性はそれぞれ──火・水・虚空。
 真ん中に注いだ虚空のエネルギーだけは、まだ解放しないように火と水が少し前に突き出ている……逆の『山』みたいな感じだな。


「行くぞ──“疾風突ブラストチャージ”」


 宣言と共に纏いだす風の力。
 敏捷力を高めて進むと、大盾を構えた偽者がそれをあっさりと防ぐ。

 だが、火と水の力が影響を及ぼす。
 温めたり冷やしたり、その急激な温度差によって本来は不壊でもある神器に、少しずつ耐久度という概念をもたらしていく。


「まだだ──伸びろ!」


 短槍や長槍もあるのだから、当然長さの調節ができる。

 本当の穂の部分を使っていた虚空属性を纏う部分のみを伸ばし、速度を付けて盾に捩じり込んでいく。


「──ッ!」

「おっしゃぁあ!」


 初めはピキッという小さな音だった。
 それはやがてビキビキという音になっていき……最後にそれは砕け散る。

 神器が不壊なのは絶対に壊れないからではなく、壊しても直るから不壊なのだ。
 しかしそれには時間が掛かるし──俺はその時間を与える気が無い。


「ついでに行くぞ──『殺せ』!」

「:即撃対応:」

「『降り注げ』!」


 魔力を<久遠回路>で増幅させつつ、必要な魔力に余裕ができたら『無槍』へ回す。

 極力エネルギーの消費は抑え、余剰分はすべてさらなる供給のために炉へくべ、増殖させていく。

 相手は俺の動きを解析し、成長するAIのようなもの。
 対応されることは想定済みなので、今はまだ手札を使い潰して時間を稼いでいる。

 そして、一つ目の準備が整う。


「魔導解放──“普遍在りし凡人領域”!」


 白も黒も呑み込む、半透明な空気。
 両方を同時に潰すために消費した魔力は、俺の持つ魔力の九割を喰らった。

 しかしそれだけの価値がある。
 俺のオリジナル魔導によって、このフィールドそのものが完全に支配された。


「言って虚しいが、俺ってモブだからな。そのままの初心を保たないとって考えたんだ」

「解析……」

「できないぞ。あらゆるスキルが使えなくなる、そのうえで能力値の恩恵がいっさい無い状態になる……過去の低スペックな肉体を使うお前に、勝ち目ってあるのか?」


 ちなみに、俺はいちおう筋トレしていた。
 リーで能力値に偽装を施して1と0だけのステータスにすれば、いつでも環境を整えられたしな。


「全能力使用不可、状況確認……神気の行使による強制自爆──」

「だから無駄だ。前にも同じことをしたんだから、それも封じれるようにするのが当然だろう? 神にも通じる魔導を消しているんだから、そうなるに決まっているだろうに」


 ただし、あくまで魔導名が示す通りモブ化するだけの魔導だ。
 回復効率が人並みになり、動きが一般人ほどになるだけ……行使することはできる。

 空間魔法……は使えないので、嵌めていた『挑戦者の指輪』の[アイテムボックス]を起動し、そこから異なる武具と魔石を大量に用意していく。


「この状況でステゴロなんてナンセンスなことはする気がないぞ。お前は圧倒的不利な状況で、ただ一方的に蹂躙されればいい。なーに、そもそも後腐れない勝ちなんて最初から期待していない……もうお前は用済みだ」


 眷属による解析も済んでいるだろうし……また用があるなら呼びだして、もう一度叩き潰せばいいだけだしな。

 ──さて、フルボッコの時間だ。


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