AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とレイドラリー前篇 その14



「おーい、そっちはどうなってるー? 助けがいるなら貸すぞー」

「必要無いわ。……というか、全滅って異常よ異常。いったいどうやったの?」

「シャインがくれた【剣製魔法】だ。あんまり試してなかったんだが、今は省エネ重視でやっているからな……わりと便利だった」

「それでよくもまあ……ワタシも暇潰しに試したことがあるけど、それって明確なイメージが必要でしょ? 創ってみてもすぐに壊れたわよ」


 それこそ、同調して構成材質を解明しておかなければ難しい。
 だが俺にはそれを解決する方法チートがあったので、あっさりと投影ができたのだ。


「いや、俺には{夢現記憶}があるから」

「……そういえば、そんなのがあったわね。ワタシたちにも貸しなさいよ」

「俺専用のスキルだからな。閲覧は眷属でもできるらしいが……ああ、もちろん編集済みのだけど」

「ふんっ、別に見ないわよ」


 本にせずとも記憶を観ることができる。
 それでも本にしているのは、眷属以外にもいちおう開示できるようにだ。

 リーンで行われる研究や生産に、俺の記憶が参考資料として使われているらしいし。


「それで、そっちはどうだ? 従魔たちが必死に戦っているように見えるけど」

「ならその目で見た通りよ。土以外の属性のゴーレムはそっちで片付けてくれたけど、さすがに現れた瞬間に取り込むゴーレムの方は対処できなかったわ」

「……やっぱり、そっちのヤツの方が面倒臭かったんじゃないのか?」

「……舐めないで。これくらい、どうとでもなるわよ」


 闇を操り感覚を狂わす狼、炎の羽を振り撒いて範囲攻撃を防ぐ鷹、光系統の魔法を巧みに操る狐、補助魔法で戦線を支える天使……図体だけはデカい前線で戦う龍。


「ねぇ、さっきからルビにだけ変な目を向けないでちょうだい。そんなにナースって子と戦ったのが嫌だったの……過保護ね」

「そんなんじゃねぇよ。ただ、今のソイツは進化的にどの段階なんだろうなって」

「それは……って、不味い!」

「ああ、はいはい──“剣器創造クリエイトソード吸収剣アブソーブ”」


 記憶から呼びだした短剣を設計図に、堅固な剣を生みだして射出する。
 ちょうどそこで行われていた、魔法を放とうとするボス傀児ゴーレムに命中した。


「どうする、俺も戦うか?」

「まだやれるわ──“追加召喚エクストラサモン”!」

「へー、人形か……ソレの兄妹機か?」

「たぶんね。それで、もう少し素材があれば改良ができるからここに来たのよ」


 ボスもイアが召喚した傀児も、人型の範疇に収まっている。

 ボスは他の個体を取り込んでいるため一部異形化しているが、もう一体の方は意識しなければほぼ人のように思えた。


「周回するのか? それなら昨日のうちからやっておけばよかっただろうに」

「他の場所へ先に行っていたから、あの子たちが万全じゃなかったのよ。普通は、ちゃんと休息させるわ」

「……おい、人のことを普通じゃないみたいに言うんじゃない」


 人形が戦線に加わったことで、少しだけ戦況は好くなった。
 土属性である泥や岩、そして一部の金属を操るボスに対して、人形は砂を操っている。

 地面を変形させたり、砲弾としてそれらの属性を撃ちだしたりとしているボス。
 人形は大量の砂塵を生みだし、攻防の両方で扱っている……砂縛とか言うのだろうか?


「なあ、お前は闘わないのか?」

「思いのほか魔力供給に持っていかれているから、戦いたくても戦えないのよ」

「戦いたかったのか……なら、それこそ俺に任せておけ。イアを介してアイツらにも魔力が届くようにするから、思う存分戦ってくればいいさ」

「まさか……」


 一度やっている様子を見せたので、すぐに理解してくれるだろう……と思ったのだが、なぜか俺から後退ずさるイア。

 ノアがやっているとき、そういえば怒っていたっけ……なんでだろう?


「ひ、必要ないから! ポーションもちゃんとあるし、わざわざ手を借りなくても──」

「消耗品を使わないで回復できる手段があるのに、それをやらない理由があるのか?」

「くっ、メルスのクセに正論を……け、けど嫌よ! あんたの力が無くても、やれるってところを──」

「問答無用──そいやっ!」


 俺の魔力を消費するのはもったいない。
 なのでここは工夫し、大気中の魔力を掻き集めて注ぎ込む方法を取った。

 イアの魔力経路を傷つけない範囲で、その魔力をゆっくりと流し込む。
 そして一時的に経路を開くように調整し、取り込める量を強引に増やす。


「~~~~~ッ!」

「あれ、失敗だったか? けど、魔力はたしかに補充されてるし……マックスになる前に使った方がいいんじゃないのか?」

「わ、分かってるわよ──“追加召喚”!」


 従魔を増やせば増やすほど、その魔力消費量が増大する召喚魔法。
 魔本がサポートをしていても、大量に召喚するのであれば下準備が必要なのだろう。

 前の従魔特訓の時は、修練場が回復速度を高めていたので問題なかったのだが……ここは普通だし、仕方ないか。


「……これが終わったら、覚えてなさいよ」

「何をか、はまったく見当が付かないが……とりあえず気にしてはおくよ」

「──“龍ノ血潮ブラッド・オブ・ドラグン”!」


 龍魔法における強化魔法を唱え、提げていた片手半剣バスタードソードを握り締めて駆け抜ける。

 まるですぐに終わらせて、次の用事を始めたいと言わんばかりに。


「あとで俺もやってみようかな? 最初の吸収を妨害したらどうなるか……気になるし」


 俺も俺で、やることを見つけた。
 そのためには……イアのするナニカから逃げ切らないと。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品