AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とレイドラリー前篇 その11
そもそもの大前提だが……俺はあらゆる条件を無視して、神殿にある魔法陣を起動させることが可能だ。
ズルいとか意味不明とか、何でもクレームは受け入れるつもりだが……その事実だけは決して変わらない。
しかし、それはある意味不正なコマンドの入力みたいな感じでもあるため、やってしまえばバレてしまう可能性がある。
──そこで、彼女たちの出番なのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
神殿から飛ばされた専用のフィールド。
少し空気の薄い高い山、とても懐かしい雲海が俺の足元に広がっている。
ティンスとオブリはそれぞれ武器を握り締め、最大限の警戒を行っていた。
「『シンフォ高山』か……ということは、ワイバーンに挑むのか」
「ええ。『竜殺し』なら二人とも持っているし、ちょうどよかったわ」
「ふふーん、凄いでしょー」
「眷属に竜種が四人……いや、イア込みで五人居る俺に言うか? 特にシュリュとかソウから得た称号はもっと上位だぞ」
AFOスタート時の地点から北にある、適正レベル30以上のエリアであるシンフォ高山には、ドラゴンモドキが待ち構えている。
それが俺の『はじめて』を奪った相手でもあるのだが……あのときはまだまだ弱く、足掻きに足掻いてようやく勝ったんだっけ?
そんなボスとこのイベントで再戦する条件は──竜に関する称号を持っていること。
竜と友達になっているでも、逆に敵対関係にあるでも良し──殺しの証拠でも良し。
その中でこの二人は、俺と同じく殺すことで得られる『竜殺し』を手に入れたようだ。
「何と戦うかは二人に任せたけど、どうしてコイツとやることになったんだ?」
「まずは肩慣らしってところね。本当なら、最初にリョクさんモドキか猪とかとやっておくべきなんだろうけど……後者はともかく、前者はできないわよ」
「……ああ、問題ない。本人が決別としてサクッと殺してたから」
「何させてんのよ……」
事情を知らないので、ジト目でこちらを睨むティンス。
それも困らない範囲で情報を開示してやれば、自然と元に戻る。
「まあ、そういうわけだからな。……それよりも、猪もやってないってなんでだ? 今はレベルも高いんだし、余裕だろう」
「単純に最初は、他の人たちが挑む場所を手伝っていたのよ。宝珠の確定ドロップの剣もあるし、競争率の高い場所は止めておいて、多少難易度が高くとも、確実に手に入る場所にしておいたわ」
「そっか……なら、それでいいだろ。それよりも、頂上に着いたわけだし」
いつもの文面は出現せず、結界が構築されて俺たちは逃げられなくなった。
そこに追い打ちをかけるように、空から舞い降りてくる銀色の亜竜……って、銀?
「……なあ、ティンス。ワイバーンって、たしか何色だったっけ?」
「……少なくとも、銀色ではないわね」
「オブリ、鑑定してみてくれ」
「えっとねぇ……『プライドワイバーン』、だってお兄ちゃん!」
プライドワイバーン。
直訳すると傲慢亜竜……つまり、大罪を名に冠する個体ということか。
大きく息を吸い込み、そこに練り上げた魔力と気力を混ぜ込む。
二人の準備が整った瞬間、一気にそれを吐き出した──
「レアボスじゃねぇえええかぁあああ!」
「ああもう、まだここのレアボスが討伐されたなんて聞いてないわよ!」
「お兄ちゃんって、運がいいのかなー?」
運はかなり悪い方です。
オブリの問いには口で答えず、心の中で呟くだけにしておく。
先ほどのなんちゃって咆哮の効果なのか、怯んだプライドワイバーン──以降亜竜に向かってティンスとオブリが襲い掛かる。
「ハァッ!」
「“妖精幻弓”!」
血を纏わせたリストブレードを振るい、傷つけた部分から亜竜の血を吸うティンス。
オブリは遠距離から魔法の矢を放ち、その効果によって相手に幻覚をもたらしていく。
五感+αを騙すその魔法によって、接近したティンスの場所を正確に掴むことができない亜竜は、そのまま彼女を逃がしてしまう。
「良いコンビネーションだな。うん、全然連携とかしたことないから、善し悪しなんてさほど分からないけど……なんか凄い」
「あまり無理しなくて良いわよ。どこかの自称偽善者さんは、これだってサクッと突破したじゃない」
「いやいやまあまあ、自称かどうかはあとでじっくりと話すとして……俺も少しぐらい、戦わせてくれよ」
「そう、なら好きにやってちょうだい。下手に指示しても、メルスだと逆効果になっちゃいそうだし」
何を言うか、俺だってその気になれば命令な従順な狗のように……と言おうと思ったがさすがに自粛し、大人しく自由に動く。
もちろん可能と言えば可能だが、全能ではない縛り状態の俺では、ティンスというリーダーの注文に応えられそうにないからな。
「なあオブリ、何かやってほしいことはないか? 足止めでも瞬殺でもやるぞ」
「えっと、お兄ちゃん独りで倒しちゃうのはともかく、少し動きを止めてくれるかな?」
「了解、任せておけ」
魔力と気力を効率よく循環させ、肉体の強化を行い勢いよく駆ける。
ティンスの邪魔にならないよう、いちおう後ろに回り込んでから──魔法を放つ。
「──“串刺血杭”!」
触媒は仕舞っておいたシュリュの血液。
最高位の『劉』が流す血によって生みだされた真っ赤な杭は、次々と亜竜の肉体に食い込んでいく。
足掻こうとする亜竜も、物理的拘束と魔力的拘束──そして『劉』という上位種の力による拘束の三重縛りで動きが取れなくなる。
「二人とも、やれ!」
思いのほか魔力を使ってしまったので、これ以上は何もできない。
二人がかっこよくトドメの一撃を決めるいい場面を、俺は視界に焼き付けるのだった。
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