AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とレイドラリー前篇 その10



 翌日のことだ。
 やはり主人公(候補)たちは優秀というかなんというか……少しずつクリアされていくたびに、イベントエリアは殺風景な場所ではなくなっていく。


「と言っても、自由民はいっさい登場しないけど。あくまで建物が自動修復されたり、新しい機能が結晶に搭載されるだけだ」


 それはそれで、便利ではあるが。
 すでに安全にログアウトできる建物、商品売買ができるエリアなど……新たな街としてこのエリアは賑わっている。


「元の街で食べ物を買ってこないと食事ができないことは問題だが、それ以外は割と快適な気がする……自炊しないヤツでも、ボッタクリ価格ならいいみたいだけど」


 自由民が一人もいない、その点で少々揉めているのだ。
 定価という概念が失われ、祈念者プレイヤーたちだけでそれを決めることになったからである。

 嫌なら通常エリアに戻ればいいと、本来の額の二、三倍で吹っ掛けるなど当たり前。
 装備の耐久度を回復させるアイテムなど、数十倍の額になっている。


「それでも効率を求める者には購入される。わざわざ買いに行く暇があるなら、この街の中ですべてを済ませた方が速い」


 初回報酬が確定ドロップであることは、すでに判明しているため、そこを狙おうとする者たちは多いだろう。

 だが相手は上位種の魔物なうえ、強化されているボスなので、しっかりと準備をしたうえで挑まなければ勝てない。


「──って、またか。それじゃあ起動っと」

『ぐぎゃああああああああ!』

「はい、お疲れ様」


 何があったかを説明するのであれば……わざわざ遠隔起動式の魔道具を盗んでいった祈念者が、痺れて悲鳴を上げただけだ。

 俺もそんな準備をするため、回復した魔力で術式を整えたうえで、再度魔力が回復する時間を街の中で潰していた。

 そして俺は<畏怖嫌厭>の呪いが絶賛稼働中の身──嫌いな相手にちょっかいを出すのは定番で、荷物を隠すのは定番であろう。

 だが、俺の[アイテムボックス]と手荷物は防犯アイテムで埋め尽くされている。
 起動用のスイッチは対策済みなので、奪われるのは魔道具だけ──そしてこうなった。


「今の街だと、そういう防犯システムもバッチリ起動する。牢獄で監禁されてろ」


 どこからともなく、光が俺のアイテムを盗もうとした祈念者の下へ降り注ぎ──そのままラッピングするように梱包し、一時的な収容所へ運んでいった。

 犯罪プレイヤーからすれば、溜まったものじゃないだろう。
 しかしこれも頑張ったご褒美なので、今回は諦めてもらいたい。

 というか、そのシステムが解放されるまでにかなりいい思いをしていたとナックルが愚痴を零していたし……もう充分だろう。


「……っと、そうだったそうだった。そろそろあそこに行かないと」


 わざと見せていた隙を隠し、目的としていた場所へ急いで歩く。
 ……うん、別に走るほど急な用ってわけでもないからな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 とある神殿で、二人の少女が待っていた。
 片や鋭い犬歯が生えた中学生ほどの少女、片や背中から小さな翼を生やす小さな少女。

 二人はそれぞれ俺を見つけると、正反対な態度で迎えてくれた。


「遅いじゃないの、何をしていたの?」
「お兄ちゃん、やっときたー!」


 祈念者の眷属、一番目と二番目である少女たち──ティンスとオブリである。
 今回、とあるボスをいっしょに討伐しようと誘いを受けていたのだ。


「悪い、ちょうど道端でスリに数十回単位でアイテムを盗まれてな。その度その度に罪を改めさせていた」

「……それ、盗む側が不憫よね」

「はっはっは、そもそも俺が弱そうだからと侮ってアイテムを盗もうとする方が悪い。とまあ、そんな理由があったんだよ」

「うーん、それなら仕方がないのかなー?」


 首を傾げて悩むオブリだが、ジト目を浮かべるティンスを見るに──アウトだろう。

 初めから魔力を節約しないで移動していれば、こんなことにならずともすぐに目的地へ辿り着いていたのだから。


「……まあ、いいわ。それよりもほら、さっさと中に入るわよ」

「はーい」
「はいはい」


 ティンスに急かされて神殿に入る。
 中では大勢の祈念者たちが魔法陣の上に乗り、闘いの場となるフィールドへ次々と転移していた。

 オンゲーでよくあるように、レイドとして組んでいない場合はパーティー単位で分けられて転移が行われる。

 ……ただし、弱い相手に対してレイドパーティーを編成した場合、すべてのアイテムのドロップ率が下がるんだとか。

 徒党を組むのは強者が相手のときだけ。
 雑魚相手に集まってリンチにするというのは、どうやらお気に召さないようだ。


「そういえば、メルスはパーティーが組めたのかしら?」
「あっ、そういえば……」

「自由民ともパーティーが組めるんだから、俺とだって組めるさ──ほら、そっちに申請しておいた……って、拒否るな」

「私がリーダーをやるんだから、逆に受け入れなさいよ。メルスがここをクリアしたかどうか、こっちは分からないし……何より、バレないようにしているんでしょ?」

「あー、すっかり忘れてたな」


 リーダーがクリアしていないパーティーの場合、宝珠が出ないときは欠片が確定ドロップになるらしい。

 そのことをティンスは言っているうえで、さらに運営神云々のことも考えて隠れ蓑になると言っている。

 ──我ながら、いい眷属を持ったものだ。



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