AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤帝の墳墓 その08



 この世界を統べし者──『赤王』。
 今はその在り方が歪んでしまったソレに求められるのは、人族も魔族も関係なく、生きとし生きる生命体を統制することだ。

 悪意を善き方向から導く『勇者』とも、悪意を悪しき方向から導く『魔王』とも、神々と連絡を取る『聖女』とも、世界を外部から見守る『賢者』とも、世界を内部から防衛する『守護者』とも──まったく異なる役目。

 世界のためではなく、人のための役割。
 言い方を変えるのであれば、制御できない生命という存在を管理するために生みだされた特殊権限保持者のことだ。


「頑張ってくれー」

『! 死──ッ!?』

「どこを見ている。貴公の相手は私だ」

『グッ……』


 俺の方に視線を向けようとするが、ウィーの放った飛ぶ斬撃によってその行動を強制中断させられた。

 先ほど吹き飛ばされた騎士の一人がそれを受けようとするが──再び弾かれる。


「継承条件はただ一つ、王に敗北を認めさせること。王を継ぎたい者が保持者に直接接触しなければ、継承は成されない。暗殺などの手段で殺した場合は、何らかの方法でまた異なる存在へ継承される」


 だから、ウィーをこの場へ直接連れてこなければならなかった。
 俺は別に『赤王』になりたかったわけじゃないし、何より最低条件である赤色の世界の上位階級──王やそれに準する者たち──からの承認をされていない。

 だいぶ前のことだが、商人のルーカスさんと出会った際のことだ。
 彼の伝手を頼りに情報をバラ撒き、紅蓮都市の存在を宣伝した。

 ウィーゼル・フォナ・セッスランスによる『赤王』の座の継承について──その承認をさせるためだ。

 彼らにとっても悪い話ではない……現状よりは、はるかにマシだからである。


「“波動斬ウェーブスラッシュ”!」

『グゴォオ! ──“王断オウダン”!』


 先ほどまでの斬撃と異なり、武技としての効果が付随した飛ぶ斬撃。
 振動し、波を生むその斬撃は切断力を増し騎士たちの核を断つ──はずだった。

 いつの間にやら剣を握り締めた『赤帝』が放った一閃が、その斬撃を相殺する。

 禍々しく乾いた血のようにくすんだ輝きを魅せる褐色の剣は、ウィーの持つ王剣にとても酷似していた。


『いつまでも調子に乗るな……『赤王』の座は誰にも渡さん!』

「やーいやーい、死んでもその地位に固執するとかバカじゃねぇの? お前のことを王様だなんて誰も思ってねぇんだよ。というか、そもそも今じゃ普人とも思われてねぇよ!」

『! ……このっ!』

「…………二度目は隙を見せないか。あまり挑発しないでくれるか、メルス」


 挑発……したか?
 俺は思ったことをそのまま口に出しただけで、そんな挑発とかを考えていたつもりはないんですけど……。

 まあ、眷属に言われてはいるさ。
 どうやら感性に従って発する俺の言葉は、自然と相手を惹きつけるらしい──もちろん悪い意味で。

 詳しいことはよく分からないのだが、なぜかそれで感謝されたことがある……感情を出さなかったヤツが、ぶち切れて感情を表に出したんだとか。

 たまたまだろうに、俺は関係ないだろう。


 閑話休題ひこくみんのはなし


 まあ、『赤帝』について思ったことを口にしているのだが、それが挑発扱いになっているようだ。
 たしかに習得していないのだが、挑発系のスキルとはやけに親和性が高い。

 コスパが異常によく、演技系スキルとは異なりどれだけ上位の挑発系能力でも使いこなせるだろうという感覚がある。

 そんな俺の言葉を聞き……遺憾ながら、殺意を何度も放ってくる『赤帝』。


『鬱陶しい、まさかここまで強力な挑発を使うとは……小賢しい』

「いやいや、そんなのしないって。というかそれをする必要なんてどこにあるんだ? そういうことは、あくまでウィーが苦戦しそうでピンチなときにするだろう? けど、今の状況……えっ、なんで挑発するんだ?」

「貴公は……」

『貴様ァアアアア!』


 えっ、俺何かやっちゃいましたか?
 どこかの常識知らずならともかく、俺は有名人の義孫とかそういう設定は持ってない。

 なんだか負の瘴気を放ち始めた『赤帝』を眺め、ウィーは呆れた目でこちらを見る。


「もう少し、自重というものをする気はないのか?」

「自重? まあ、自嘲ならよくやっているけど、そっちはあんまりしていないな。それをできるのは余裕を持っている奴だけで、凡人はどんなことをしてでも生きたいんだよ」

「少なくとも今の貴公には、そういった心がけが必須であろう」

「まあ、ウィーの言うことだから前向きに受け入れておくよ。──それで、その瘴気はもう自分が死んでますってアピールか? 今さらだし、効いてないし……演出乙だな」


 そう言うと、『赤帝』はなぜだか無言で瘴気の量を増やす。
 ウィーはさらに頭を抱えているし、答えを教えてくれる奴はいないようだ。

 すでに残っている騎士たちは瘴気に感染しているので、知性なんて吹き飛んでいる。


「ウィー、装備スキル許可。ただし、練るところまで」

「了解した」


 ウィーにプレゼントしてあるのは、身に纏う軍服と──緋色の指輪。
 それがどういった効果をもたらすのか……今はまだ、俺とウィーしかそれを知らない。



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