AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤帝の墳墓 その05



 赤帝の墳墓 三十一層


 迷宮ダンジョンも心を改めたようだ。
 その光景に俺の心はスッと晴れ、開放感に包まれていた。

 だがウィーは唖然とし、少々陰鬱とした空気を纏っている。


「……本当に嫌われているだろう。これまではまだ疑問であったが、これはもう確信だ」

「そうだなー。たしかに九層繋げるのはどうかと苦言した。だから、迷宮側もそれを改めた……十九層に増やして」

「資料として見た守護者が大量に徘徊しているな。いったい、どうなっているのだ?」

「…………ふっ、迷宮もようやく本腰を上げてきたということか。やれやれ、俺レベルになると、ここまで難易度を上げられてしまうというわけか」


 うっ、視線が痛い……。
 ウィーもあえて何も言わずにいるので、さらに心苦しいモノがある。

 あながち間違っていないと思うが、やはり言い方を選ぶ必要があったのか。


「まあ、また上を目指すタイプに変わったみたいだな。交互にやるにしても、面倒臭さが半端ない。ウィー、経験を増やすために独りでやらせてたけど……誰か必要か?」

「いや、時間を貰えるのであれば、私だけでもできるだろう」

「前回の攻略だったら、時魔法でその時間も増やせたんだが……別に急いでいるわけじゃない、気長にやっていこう」


 迷宮は異なる世界であり、時間の流れも物理法則も違う。
 だからこそ、天地逆転なんてフィールドが用意できる。

 そしてこの迷宮は、外よりも流れが速く進む迷宮だった。

 その方がDPダンジョンポイントを速く稼げるからそうしたのだろうが、俺たちからすれば時間を気にしなくて良いからありがたい。


「──と、いうわけでここでもやるぞ」

「……何をだ?」

「さっきと違って文句を言ってないからか、普通の魔物が多いな。うん、ここでなら武技なしでも突破できるだろ。ここでやってもらうのは──空間把握と直感スキルだ」

「空間把握であれば、すでにできるぞ?」


 将軍系の職業に就いているウィー。
 やはり将軍にはそういった能力が必要とされており、必然的にスキル習得もできているということか。


「距離はどれくらいだ? 探知できる距離と同じくらいまでできるか?」

「いや、せいぜい視覚と同じ距離までだ」

「遠視や俯瞰も含めてか?」

「……いや、通常のだ」


 それでも数百メートルは可能なので、優秀な部類と言えよう。

 俺もただの凡人としての能力を求められたのであれば、せいぜい十メートルぐらいでギブアップしてしまうので。


「なら、これぐらいはできるようにしてみてくれ……一時的に縛りを外してやってみるから、しっかり見ていてくれ」

「分かった」

「行くぞ──“身体強化”」


 身体強化スキルで肉体の強度を高め、勢いよく魔物たちへ近づく。
 ただし手を使用することはなく、ポケットの中に手を突っ込みながらの戦闘だ。


「はいはい、はいのはいっと」


 魔物たちの間を掻い潜り、蹴ったり体当たりをして魔物を屠っていく。
 それだけの身体能力、というか能力値があるからこそできる芸当である。


《……と、いうわけだが分かったか?》

《さっぱり理解できない。視覚を共有しても意味が分からないな》

《まあ、考えるな感じろだしな。見るよりも早く体を動かして、その場において最適な挙動で相手を屠る。それを繰り返しているだけで、あとは何も考えていない》

《無我の境地というヤツか?》


 反射的に動くという意味では、それも正しいかもしれない。
 だが、今回言いたいことはそれとは少しだけ異なっている。


《それは頭を空っぽにして、目の前で起きた事象に対処しているんだろう? そうじゃなくて、常に思考を張り巡らせて対応するんだよ。こう来たらこう、ああ来たらああとかひたすら頭を回す。ずっと考え続けるんだ》

《矛盾していないか?》

《いや、していない。俺は今の思考系スキルの補助が入る前から、これをやっていたけどいちおうできたぞ。ただ、当時は戦闘経験が少なかったから、魔法をぶっ放すか武技を使い続けるみたいな選択しか無かったな》

《それで敵を倒せているのだ。貴公の戦闘力は当時から異常だったのだな》


 まあ、祈念者プレイヤーの中でもずば抜けた能力値だと言えるからな……しかも、安定チキンなバランス振りだったとしてもだ。

 最強ギルド『ユニーク』を相手取って舐めプ、あの頃は若かったな……。


《何やら黄昏ているようだが、守護者らしき魔物が迫っているぞ》

《おっと、助かった》

《見ずに躱し、そのまま顎を蹴りあげている者に助かったと言われてもな》

《……解説乙!》


 四足歩行ではなく脚が六本生えた猪っぽい魔物を、ウィーが言った通り蹴り上げた。
 脳震盪を起こして気絶したソイツの、息の根を完全に止めて他の魔物へ蹴飛ばす。


《とまあ、こんな感じだ。そっちに連れていくから、ウィーがあとは頼むぞ》

《ハァ……やってみよう》


 ウィーの方へ向かい、すれ違う寸前で瞬脚による転移でその場から消える。

 魔物たちは俺が居なくなったことで狙うべき敵を失い、仕方なくその場に居たもう一人の人族──ウィーを攻撃し始めた。


《共有もするからな、頑張ってくれ》

《今はまず──んぅっ!》

《ファイト―》

《覚えてろよぉ……》


 まあ、可愛い声だったということはしっかりと覚えておこうかな?



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品