AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤帝の墳墓 その03



 赤帝の墳墓 十一層


「……あれ?」

「本当に、嫌われているのではないか?」

「そ、そんなバカな! そこまで短気で頭が腐っているのかよ!」


 階層が再び九層分繋がっている。
 特に変化の無かった中ボスさんを討伐し、次の階層へ向かった俺たちを待っていたのはそんな光景であった。

 そして、俺の苦言を聞いていたのか激しく地面が揺れ動き──聖炎龍とは言わずとも、それに近いサイズのアンデッドが出てくる。
 うん、コンビニぐらいの大きさはあるのだが……そこまでして俺を殺したいか?

 迷宮の機能を使えば、さほど偽装していない俺が前回入ってきた赤色の神父だということはすぐにバレる。

 どうせ今回で踏破するのだからと、適当な格好で来たのが悪かったのかな?


「そのように煽るから……」

「あれ、自分でやってみるか? 俺は回避だけやって、歩行術の経験値を上げるからさ」

「竜殺しか……やってみよう」


 うちでは酒を出せばいつでもできることだが、赤色の世界で都市管理をしているウィーではあまりその機会もない。

 まあ、酒盛りをしているだけで手に入るスキルだが……ちょっとだけ効果も違うし、殺す版を入手しておくべきか。


「それじゃあ地面まで落とすから、ウィーは翼を切り取ってそれから討伐してくれ。何か質問はあるか?」

「いいや、特に無い」

「そうか──じゃあ行くぞ!」


 俺が空を蹴って天を翔けると、ドラゴンもまた咆えてから飛んでくる。

 長時間同じ場所に居られない俺は、気力の消費を考えながら三次元を活用した動きでドラゴンを翻弄していく。


「へいへい、ドラゴンさんよー。お前の血は何のために巡っているんだ? まあ、俺の錬金実験のためではあるんだが……ともかく、そんなんならアンデ──」

『GUROOOOOOOOO!』

「煽り耐性、低すぎない?」


 どうせなら、「アンデッドでもいいだろ」まで聞いてほしかったんだが……少々残念ではあるが、目論見は成功したからよしとしておこう。


「っと、まずは叩き落さないと……武技が使えないしどうすればいいんだか」


 支援系魔法+移動系スキル。
 今回可能となっているものはこれだけで、攻撃系のスキルはいっさい入っていない。

 支援を弱体化に転ずれば効果はあるだろうが、あくまで仲間の協力が必要となる。


「擬似的にやるしかないか──“縮地”」


 武技ではなくスキルとして使ったそれは、レベル成長に合わせて移動できる距離が大幅に上がり、方向もある程度調節可能だ。

 速度もレベル1とは比べものにならないもので──トラック並みの威力は出るぞ。

 さて、そんな速度と威力を出せる俺がすることといえば……竜への突進だった。
 方向を調整し、俺は後ろを向いてバックステップの要領で竜に背を向けた状態で勢いよく下がる。

 低い体勢から背中に気を集中し、そのまま顎を打ち上げるようにして──叫ぶ。


「喰らえ、なんちゃって貼山靠テンザンコウ!」

『GYARO!?』


 顎に受けた衝撃は思いのほか強かったようで、そのまま意識を失った竜は地面に落下していく。


「ウィー、あとは任せたぞ!」

「了解した!」


 武技は使わず、竜と闘うウィー。
 意識を取り戻すと、目の前の彼女を睨んで怒り狂う。

 そしてついでと言わんばかりに、俺の方も睨み付けた。

 あーあ、わざわざウィーの前でそんなことする余裕があるのかよ。
 武技を使わずとも武芸者は優れ、竜の翼程度どうとでもなる。

 特にウィーが握り締める剣は、俺が打ち上げた特製の魔具だ。
 熱を発する特殊な鉱石を用いており、周囲の魔力を吸い上げ自動的に高熱と化す。


「焼き斬れ──[灼軍刀]!」


 軍刀をイメージしたそれは、軍刀ではありえないほど真っ赤になっている。
 そしてその刀身は、竜の翼に触れ──バーナーの要領で翼を焼き千切った。


『GUOOOOOOO!!』

「さすがウィー、やるなー」

「貴公に言われてもな……」

「そこは喜んでほしかったよ」


 翼の無い竜は蜥蜴と同じ……なんて言葉があるが、そんなことはない。
 蜥蜴に竜の心臓は無いし、何より強力な龍魔法は使えないだろう。

 特殊な声帯を用いて発動するそれは、魔力で浮くことを可能とする。
 自重に耐えられないほどの小さな翼で空を飛ぶことができるのも、竜魔法によって強引に飛ばしているタイプが多いからだ。

 まあ、翼という媒体が無ければ効率よく発動することは難しい。

 わざわざ空に浮かずとも、弱者程度すぐに殺せる……そう考えるのが普通の竜だし、そういった選択を取ることは無いだろう。


「あっ、そうそう──もう一本は使うなよ」

「分かっている」

「うん、分かればよろしい。あと、せっかくだから空歩を最後に馴染ませといてくれ。戦闘終了後には、空駆ぐらいにはなるだろう」

「……善処しよう」


 改めて、灼熱の軍刀を握り締めてドラゴンへ向かうウィー。
 その姿は格好も相まって、軍人のようにも思える。


「竜殺しの称号はこれで得られるな。まあ、中級程度だから、この先上級の個体を出してくれることに期待しよう」


 まだ十一層だし、これからももっと嫌がらせをしてくるだろう。
 ……もう次の準備をしているみたいだし、そこら辺は期待できそうだな。



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