AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と吸血調査 後篇



 吸血鬼狩りヴァンパイアハンター
 悪事を働く吸血鬼、または吸血飢バンパイアを駆除するためにある存在。

 その素性は聖なる騎士、合法的な殺人を望む狂人などもあるが……。


「少し、いい?」


 はたして、目の前の少女はどんな理由で俺とクラーレの席にやって来たのだろう。
 たまたま目に入った? 俺たちの会話が耳に入った? ──片方が吸血鬼であると気づいた?

 澄んだ蒼色の瞳は、ジッと俺たちを見つめている。
 何もしていないはずなのに、不思議と威圧感を感じてしまう。

 クラーレがこちらを一瞥する。
 俺はそれを見て……コクリと頷いた。


「構いませんよ。どうかされましたか?」

「あの手配書、吸血鬼について」

「ああ、最近現れたという。えっと、まずは座りませんか?」

「ありがとう」


 少女は空いている椅子に座り、俺とクラーレの分の飲み物を提供してくれる。

 いちおう年齢が分からなかったようで、酒で良いか訊かれたが……俺たちは揃ってぶどうジュースを貰うことにした。


「……それで、何か訊きたいのですか?」

「うん。何か、知っていることは?」

「手配書に書かれていること以上のことは、分かりません。わたしたちは『月の乙女』という名前でここにはいないメンバーと共に、依頼をこなしているのですが……最近は、東の島国へ船で向かっていましたので」

「そう……ありがとう」


 一瞬で転位を使って帰ってきたうえ、事件の日も帝国内に居たことを除けば嘘はついていない……まあ、そこを除いた時点でほとんど偽りだらけだけど。


「……あなたは?」

「私も同じかな。私はますたーの僕だから、ますたーが行った場所じゃないと行けないからね。ところでお姉さん、お姉さんってどうして吸血鬼狩りをしているの? よかったら教えてくれない?」

「わ、わたしも教えてほしいです!」


 そりゃあもう、話を逸らしたかった。
 俺を見た時点で、なんかもうクラーレの時よりも視線が鋭くなった気がしたし。

 勘違いならいいが、クラーレもそう思っていたようで……この作戦に応じてくれた。


「……つまらないよ」

「何か手伝えるかもしれないよ? だけど、お姉さんがどんな人か知りたいんだ」

「よければ、お話してもらいたです」

「…………うん、いいよ」


 クラーレの真摯な頼み方がよかったのか、少女は話してくれるようだ。
 ちなみにだが、他の吸血鬼狩りの皆さまは手配書を受付に持っていき、いくつか質問をした後ここから去っていった。

 その際、お声が掛からなかったので、ここに来たタイミングは偶然一致したということなのだろう。

 たしかに少し距離があったし、慣れ合っていたわけじゃないんだな。


「私は『メィルド』。この目を見たら分かると思うけど……吸血鬼の血を継いでる」

「さっきと眼の色が違いますね。ということは、半吸血鬼──ダンピーラですか?」


 吸血鬼の血を継いだハーフ。
 彼女のような者たちは、不死の吸血鬼を殺す因子を持った状態で誕生する。

 危険性から先に屠られる場合もあるらしいが……育てば強大な戦力になるんだとか。


「そう。母が人魚マーメイドで父が吸血鬼、とっても仲がよかった。だけど、別の吸血鬼が私たちの所に来て……二人を、殺した」

「そんな……」

「だから、私は吸血鬼を狩る。私と同じような目に、遭う人を減らすため、私と同じような、立場の人を助けるため。何より、他の人たちが、間違えないように」


 復讐、ではないみたいだ。
 彼女──メィルドの目は憎悪に満ちているわけではなく、深い悲嘆を湛えている。

 最後に言った三つの目的のために、メィルドは吸血鬼を狩っているんだな。


「間違えないって、どういうこと?」

「すべての吸血鬼が、悪いわけじゃない。お父さんは人の血を、飲んだことがない。何も悪いことを、したわけでもない。……けど、吸血鬼だからって、殺す人もいる。だから、私が代わりに守る」

「素敵です。何か手伝えることは?」

「……連絡先。何かあったら、冒険者ギルドに連絡、して? 吸血鬼のことだったら、どうにかできる」


 クラーレとメィルドは互いに持っているギルドのカードを重ね、魔力を注ぐ。
 すると何か小さな音が鳴り、それぞれカードを仕舞う。


「ますたー、それって何?」

「あれ、知らなかったんですか? これをやると、ギルドを介して連絡が取れるようになるんですよ……[フレンド]機能みたいなもので、本当に知り合いかどうかを確認するためのモノです」

「へー、知らなかったよ。だって、ますたーがそんなことをしているの初めて見たもん」

「ふ、ふふ普段はシガンがやっているから出番が無いだけです! わ、わたしだって何度もこうして知り合いを増やして……」


 俺とメィルドは心を交わした。
 それぞれ首を右と左に傾け、カードではなく声を重ねて──


「「いないよね?」」

「なんでメィルドさんまで!?」

「……面白そう、だったから?」

「どうして疑問形、あとなぜ二人は握手しているんですか!?」


 人魚の母を持っていると訊いて、まさかとは思っていたが……どうやら予想は当たったようで──案外ノリがいいみたいだ。

 手を握り合う俺たちの姿を見て、クラーレがツッコミを入れる。
 うん、このまま有耶無耶にできたらいいんだけど……最後にはバレるんだろうなぁ。



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