AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と二つの縛り
夢現空間 修練場
「……暇だ」
召喚魔法そのものは模倣できないものの、繋げた回路による供給や徴収であれば、擬似的に行えるようになった。
具体的に言うと、状態異常の移譲だ……いや、ダジャレじゃないからな。
「いや、さすがに暇だからっていきなりレイドボスをやるのはどうかと思うし……時間的に、現実だと平日の昼だからなー」
つまり、ログインしている祈念者はいろいろとアレだという時間帯である。
学生であるクラーレたちは、当然勉学に勤しんでいるので俺を霊呪によって召喚することもない。
「また井島に行くのも……あれだしな。まだ指名手配されているだろう」
国を二分する魔王の子孫が住む城に侵入したうえ、傀儡を使って混沌を振り撒いた俺である……最後は笑顔で語り合ったが、当然実行したことについての責任は残っていた。
国家転覆罪──井島というか東都において俺は、現在犯罪者として指名手配中だ。
ヤチヨお嬢様が東都を安全に脱出するためにも、そういった陽動作戦が必要だったから利用したわけだな。
「なお、お嬢様の護衛役については、緊急呼び出し用魔道具を彼女に渡してある。これを使っていずれ連絡してもらえるようにしてあるので、次は楽々転移で訪問だ」
そう考えると、少しだけ暇ではなくなった気がする。
やはり縛りプレイとなると、創意工夫を凝らさなければ問題を解決できない辺りが実に面白いんだよな。
傍から見れば絶対に舐めプだと評価されるだろうが、それは俺の全能性を知っている者だけに限る。
まあ、普段からそれをやっているとすべてがつまらなくなるから封印しているけどさ。
「次の縛りは何にするかな? やっぱり、前回が大盤振る舞いだった分、地味目な感じにしておいた方がいいのか?」
密偵系スキル、影魔法、そして魔剣。
だいぶ使っていたし、今回は本当にシンプルに絞っておいた方がいいかもしれない。
しかしそう考えると、武術・魔法・技能スキルというジャンル別では選べないな。
「そうなると、残るのは……固有スキル縛りか種族縛りだな」
職業は密偵縛りで使用したということで。
侵蝕された奴みたいに、一辺倒に固有スキルを使いまくるか、種族の力に溺れた奴を再現するか……説明に悪意がある? ただの経験談だから気にするな。
「けどまあ、固有スキルなんて数が多すぎるからな……どれを使っても戦闘そのものは行うことができるだろうけど、コレなんか出てもパクリか劣化版としか呼ばれなさそうだ」
先日拝借した炎の翼を広げるものの、やはりどす黒い炎しか生成されずにいる。
他の主人公候補の中には、すでに覚醒済みの者も居るらしいし……突っついて頂くのも乙かもしれない。
「種族は……種族限定クエストとやらを受けてみたいな。[不明]って、どうやったらそういうのを受けられるか知らないけど」
いつだかのアップデートで導入されたらしいが、一定以上の人数が就いている種族には居住区が用意されるらしい。
そこでは種族に関するお得な情報やら限定の技を学べ、とても便利なんだとか。
──ただし、どこにあるか存在しない。
同じ種族の祈念者しか入ることが不可能なため、眷属がどれだけ細工をしようと強行突破以外の方法で入ることができずにいる。
そして、一定以上云々の条件が満たされているかどうかすら、まだ判明していない。
「たぶん、人数が一定数を超えれば行き方が分かるんだろうな。集落自体は存在するのが実際だし、なかなか教えてくれないだけで集落に行かなくとも、種族限定の技を教えてくれる人は居るみたいだし」
ここら辺は、コミュ力の権化とも言えるギルド『ユニーク』からの情報だ。
なんだか友好を深めていたら、その自由民が知りうる限りの種族限定技を教えてもらったんだとか……中途半端な解放である。
「なお、ティルのリュキア流獣剣術などはこれに該当する。俺の持つ{夢現流武具術}は、流派問わずに武技を使用することができるという証明なだけで、何か特殊な武技があるわけではない」
そう、自分で創るしかなかった。
ティルは代々伝わっていた剣術だというのに、俺だけ開祖と同じような苦しみを味わいながら武技を創らなければならなかった。
──まあ、結構な数が創れたけどさ。
閑話休題
話を戻して、何で縛るかである。
種族で縛るのであれば、問題は差別地域での活動となった場合だ。
行ってから決めれば特に問題ないのだが、やはりバレると迫害物である。
そうした中で生まれる信頼関係に一喜一憂するのもいいが、やはり嫌がらせはしない方がいいに限るだろう。
「固有スキルにするか? まあ、問題があればチェンジすれば良いし」
どちらを選ぼうと、実際に俺が困ることなどいっさい存在しないわけで……雰囲気に合えば何をしようと構わない──それこそが偽善者の真髄であろう!
「よし、やる気になってきたー!」
暇人のスイッチがオンに切り替わり、自分の中でも活力が湧いてきた。
……うん、偽善って単語をイメージすれば最初からそうなっていたかもしれないな。
──そんなこんなで再び旅を始めよう。
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