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偽善者と赤色の脱出 その14
サランは地上に辿り着く。
風精霊を宿した羽で宙に浮き、土精霊で肉体の強度を高める。
火精霊によって自身のエネルギーを溢れさせ、水精霊の力でそれらを制御していく。
四属性の精霊を体に宿したうえで、光と闇の精霊を己が聖剣に宿す。
メルスが打ったのは人造聖剣──純粋な光属性の剣ではないため、闇精霊を宿したうえでその力を高めることができた。
「なんだか全部分かっていたみたいだけど、そういうことはあとで訊けばいいかな?」
『GURUUUU……』
「今はアレを倒す、それだけを考えよっと」
サランは激しい戦闘経験を経て、すでに能力だけであれば『勇者』に至っていた。
種族レベルは250に達し、職業も最上位のもの──限界を超える鍵を手に入れることができれば、少女はまだ強くなれる。
それを阻むのは魔に堕ちし聖なる炎龍。
女神より世界の守護を任され、その任と使命を継承し続けた竜種が一柱。
その一代にして、『赤帝』によって滅ぼされた死する屍である。
「──“紅焔閃光”!」
そんな骸に放つ初撃は、メルスに習って扱えるようにした紅焔魔法の“紅焔閃光”。
火系統のスキル全般に適性を持つサランの才覚は、一度メルスが見せた紅焔魔法を一瞬で理解し、模倣することに成功した、
『GUGYAAAAAAAAAAA!』
「来て、“精霊合身”!」
また、宿した精霊を種族としての力で抑え込むだけでなく、魔法による干渉を重ねることでより安定化させる。
そもそもメルスが開発した“精霊合身”という魔法は、妖精の精霊支配能力を参考に生みだされたものだった。
故に妖精がこの魔法を行使すれば、精霊を扱うことに意識を向ける必要が軽減する。
そして、その意識を魔力操作や近接戦闘に注ぐことで──サランの戦闘能力はより高いモノとなっていく。
また、精霊を介さずその身に直接融合したことで肉体に変化が生じる。
その一つである属性適性の追加によって、サランは身に宿していた精霊たちの属性である四属性の適性を高めていった。
「“彷徨乃霧”、“幻惑乃霧”」
『GURUU?』
「“鎖泥”、“連鎖爆発”!」
『GA、GUGUYAAAA!』
そのため、融合魔法も無詠唱で行えるほどに余裕を得られた。
魔力消費も軽く、威力も見込める──二種類の霧で己を隠し、これまでの戦闘で血に濡れた大地へ縛りつけ、爆発を引き起こす。
「まだまだ──“精霊解放”!」
サランが宣言した単語によって、人造の聖剣は光り輝く。
妖精のために打ち上げた聖剣であるが故、効果もそれに準じている──内包した精霊の力を高める、それが聖剣の力である。
「“擬聖装具”、“不回傷付”」
強化された精霊の力により、上位の魔法を発動し──聖剣へ付与していく。
破邪の力をもたらす“擬聖装具”に加え、傷の再生や修復を阻害する“不回傷付”。
サランの準備は整った。
魔法名すら唱えず風を呼び起こし、それに乗って聖炎龍へと向かっていく。
一方聖炎龍もまた、飛んでくる小さな虫を排除しようと息吹を溜めこみ──吐きだす。
「ハァアアア!」
迎撃に魔法は使わない。
これまでの戦闘で磨き上げた技術と補うように施された攻撃力へのブーストを受け、握り締めた剣を一閃。
本来の聖炎龍が放つ息吹ならばまだしも、魔に堕ちた今の骸が放つのは邪の息吹。
聖剣であるうえ、さらに魔力でその聖なる力を高められた今の一閃は──龍の息吹すらも容易く切り裂く。
『GUROOOO!?』
予想していなかったのか、そもそも矮小な者が刃向うことを考えていなかったのか。
反撃を受けた聖炎龍の骸は戸惑い、そして怒りを覚え急接近する。
──このまま喰らってくれるわ!
そう言わんばかりの眼力を籠め、龍眼の効果である威圧を掛けようとする。
「──ッ! で、でも……負けない!」
しかしサランはそれを撥ね退ける。
本人(妖精)としては魔法の補助効果だと思っているのだが……完全に彼女自身の胆力故の抵抗だった。
そもそもの話、すでにサランに施されているのは擬似的な死に戻り魔法のみ。
残りは効果があるように思えるが、ただ魔力が籠められ意味もなく回路を巡るだけで意味のない支援魔法だった。
少しずつ支援魔法を減らしていき、その状態に肉体を慣らす──最後に本来のデスペナルティを経験させ、死への恐怖を超える。
メルスの計画は成功し、サランはさらに一歩壁を越えていった。
彼女は妖精姫であり、新たに『勇者』の称号を手に入れる。
それが望んだことかどうかはともかく、万象が燃えゆく焔の世界は、再び『勇者』を取り戻す。
最初の働きは──悪しき不死者の討伐。
そして、魔に堕ちた世界の守護者の浄化であった、
◆ □ ◆ □ ◆
「──なんて、終わればいいんだが」
たしかに聖炎龍は倒された。
浄化も行われ、『勇者』は目覚める。
「そんなことをした張本人は、怒りを覚えたまま地面の中で眠っている。何をしたのかはレンに訊かないと微妙だが、いずれにせよ普通の方法じゃないだろこれは」
そう簡単に天地をひっくり返されたりしていては、迷宮とは狂った場所という考えが定着してしまう。
何か裏があり、そこに最下層で眠る奴が関わっている。
──まあ、後はウィーに任せるとしよう。
今回は『勇者』の回収だけでおしまい。
面倒なことは後回しにして……今をのびのびと生きようじゃないか。
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