AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の脱出 その11
「説明しろやこらぁあ!」
「淑女らしからぬお言葉ですね──おお、サラン! しんでしまうとは なにごとだ!」
「何事って……あれ?」
私はたしか、聖炎龍のアンデッドが放った息吹に呑み込まれて……死んだ。
そのときの感覚が蘇り、ゾクッと震えた体がすぐに周囲を見渡すが──ここはメルスが待機していた十層へ続く階段だった。
「細かい説明は省くとしましょう。私は言いましたね、サポートをすると」
「うん、言ってたね」
「これがそのサポートです。時空魔法を強引に発動し、こちらへサランさんを引き戻しました。ある程度回復させましたので、再び戦場に赴くこともできるでしょう」
「…………あれ、死んだ……よね?」
たしかに、私は死んだはず。
そしてメルスの声に何かを説明され、それになおのこと腹が立っていたような……だから説明を求めたのかもしれない。
「死んだ、なんのことでしょうか? サランさんは今もここに居て、たしかに生を実感している。死を恐れて震えた肉体もまた、生きているからこそ恐怖を抱いたのです」
「……いや、だけど…………」
「忘れないでください。あなたはたしかに生きていて、ここに居ます。『勇者』とは、ただの称号でしかありません」
「なんだか前提すべてを覆された気がするんだけど……」
ずっと『勇者』が云々と言っていたのは、メルスだったんだけど……なんでだろう、そういう風に言われると、わざわざここまで来た意味を問いたくなってくる。
「あのさ、メルスは何がしたいわけ? 私を『勇者』にしたいの? それともただここから出たいの? ……それか、まだ何か企んでいることがあるの?」
「企むなどと……カカ様のご意志に従い、サランさんをお救いに──」
「救うって何? 私は救われたいなんて考えてもいないし、別に迷宮から出たいとも考えていなかった。ねぇ、さっき私は殺されたんだよね? ──なんでそう言わないの?」
話している内に思いだし、理解した。
すべてが白色に包まれ、体の感覚がゆっくりと喪失していく抗いようのなかった記憶。
あれは『死』で、『ソウマトウ』とかいうものを見て──ここに来た。
だけどそれをメルスは隠す。
悪気があるようには思えないけど、それでも隠されている側からすれば気分が悪い。
「…………」
「言えないことなの? ねぇ、死ぬってどういう思いなのか知ってるの?」
「……知っていますよ」
「ふ、ふーん。な、ならちゃんと説明してよね! 私だって、死にたくないんだから!」
一瞬、メルスの表情が能面みたいに見えて怖く思ってしまう。
だけどすぐに戻ったから、どうにか気を引き締めて言いきることができた。
メルスは首から下げた十字架に触れると、何かを考え……口を開く。
「いや、言いましたよね。『しんでしまうとは なにごとだ!』と。まあ、お茶を濁すとサランさんの機嫌を損ねてしまいそうです。ある程度情報を提供しましょう」
「……あっ」
「気づいてくださいよ。たしかにふざけているように思えたかもしれませんが、私は必要な情報だけはしっかりと伝えますよ」
「ちゃ、ちゃんと言わなかったメルスが悪いじゃん! こ、これからは話せる情報は全部言ってよね!」
起きたばかりの頃は記憶を整理するので手一杯だったから、ちゃんと聞けなかっただけなんだから。
それに、死んだ経験なんて正真正銘あれが初めてなんだからしょうがないじゃん!
「分かりました。では、まずは詳細な死因から説明を……」
「そ、そういうことはいいの! まずは……どうやってここに来たか教えて!」
「それも伝えたつもりですが──時空魔法で干渉し、回収しただけですよ?」
「なんで? 時空魔法はたしか、迷宮に使えないようにされているはずだよね? 魔力の急激な増大は感じられなかったから、強引に使ったわけじゃないはず」
少なくとも、下に居る私が気づけるぐらいの魔力量が必要となるはず。
だけどそんなことはなく、魔力に気づくこともなく発動したらしい時空魔法によって私はここに引き戻された。
そういうことを伝えると、メルスはなんだか驚いた表情を浮かべる。
……もしかして、私ってバカだと思われていたの?
そう考えると、腹が立ってくるなぁ。
「私が封じられているのは、時空魔法の放出です。肉体の中で循環させることや、私の魔力が支配する空間の中であれば放出することも可能です」
「魔力が……支配?」
「要するに付与魔法の要領で、干渉している間だけは時空魔法も使えるのです」
「……やっぱり、いろいろとおかしいよ」
それってつまり、遠隔での魔法発動を可能にしているってことだよね?
精霊みたいな存在に指示をするならともかく、人族が迷宮に発動を禁止されている状態でそれを可能にしているなんて異常だ。
「おかしい、ですか……それでも構いませんよ。サランさん、ではそろそろ準備をしてください」
「えっ、準備?」
「相手に聖炎龍が居るとは想定外でしたが、それでもサランさんであればいずれ超えることができるでしょう。相手は無限に戦うことができるアンデッドですが、あなたもまたそれが可能です……意思さえあれば」
「ちょ、ちょっと待って──」
いってらっしゃい、そうメルスは告げて私の背中をそっと押しだす。
慌てて風精霊を生みだして浮遊したから、堕ちることはない。
だけどそれで充分、再びアンデッドたちが上空に居る私に向けて襲いかかってくる。
「死ぬまでこちらへは帰って来れません。ですので、もう帰ってこないでくださいね」
「……さっき怒ったの、実は根に持っているでしょ?」
「ははっ、なんのことでしょうか? それよりもほら──来ましたよ」
や、やっぱりこいつ……忌々しい!
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