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山田 武

偽善者と赤色の脱出 その07


 赤帝の墳墓 三十六層


 せっかくなので、漢解除覚悟で練習をすることにしてみた。

 糸でも使えばすぐにできるのだが、やはり偽善者であれば可能な限り切り札っぽい能力の開示は控えるべきだろう。


「ね、ねぇ……本当に大丈夫なんだよね!?」

「心配はご無用です。これまでも、しっかりと解除してきたではありませんか」

「ほとんど失敗してたけどね! うん、よーく分かったからもういいよ! メルスはバカだけど、愚直なのはもう分かったから!」


 バカとは失礼な……眷属には独創的だと定評があるこの俺だぞ?
 まあ、もし眷属にドストレートにバカと言われたら心が折れる自信があるけど。


「よし、解除できまし──」


 ボフッと俺の足元が爆発する。
 そうなることは想定済みなので……俺と罠の間に一枚、俺とサランの間に三枚ほど魔力で壁を作っておいたのだ。


「やっぱりそうなるじゃん! 分かったよ、もう独特の方法でやっていいからさ!」

「そうですか? では、これまでの時間で考え付いた方法を行いましょうか」

「……あっ、それはやっぱりあるんだね~」


 初めは笑っていたサランだが、失敗する数が二桁に達するとなんだか引き攣った笑みに変化していた。
 そして二桁後半で顔を真っ青にし、三桁になったとき今の状態に至ったわけだ。

 まあ、それだけ時間があれば次の策ぐらい考えておける。
 魔法以外のスキルも縛り適応外のスキルがいくつかあるが、それでも罠解除に使えるモノは一つもない。

 なので結局は魔法しか無かった。
 火・回復・支援・時・空間系統の魔法が使えるので、その中からこの状況に最適な魔法とは何かを考え──閃く。


トラップに、支援魔法を施します」

「へっ、罠に?」

「魔法的な罠であれば、それで勝手に作動するでしょう。重量による罠は、踏まなければいいのでそのまま避けることにします」

「……まあ、私には関係ないからね」


 妖精であるサランは、当然ながら常時浮遊スキルで宙に居るので引っ掛からない。
 俺は魔力で壁を作り、その上を歩けば通過することができる。


「これでダメでしたら……そうですね、再び先ほどの解除で行きましょう。時魔法と空間魔法はなるべく止めておく方が、魔力の温存になりますので」

「なんで最初に気づかないのかなぁ……」


 温存する必要が無いほど、魔力の保有量が膨大だからじゃないか?


  ◆   □   ◆   □   ◆

 赤帝の墳墓 二十九層


 十の桁の数字が変わると、環境が変わる。
 四十の間はマグマが煮え滾る火山の中みたいな場所で、三十層の間は足の踏み場すべてが超高温になっているという場所だった。

 そのため罠解除をやる時に準備を怠ると、異常な熱波に集中力を奪われて失敗する確率が上がるんだよな……うん、俺が失敗したのもきっとそのせいなんだよ。


「……おかしいですね。少なくとも私は、この光景に見覚えがないのですが?」

「もしかしたら、迷宮がまだ怒っているのかもしれないね……私、独りで出ようとした方が安全なのかな?」

「それでも構いませんよ。残っている魔力を振り絞って時空魔法を強引に発動すれば、どうにかサランさんを外へ送り届けることができますので」


 無効を無効化するように、世の中に絶対は存在しない。
 膨大な魔力を強引に注ぎ込めば、魔法はいちおう発動する。


「だ、だから時空魔法は使っちゃダメ!」

「……そうですか。ですが、この階層は異常です。本当に危険になった場合は、多少のリスクがあろうと送還しますよ」

「う、うん……分かった」


 二十層の間もまた、これまでと同様に火に関係するフィールド……のはずだった。

 しかし俺たちが居る二十九層はそれまでとは大きく異なり、フィールドのすべてから熱が失われている。


「エネルギーの運用方法を切り替えた、ということでしょう。より効率的に私たち……主に私を殺すため、溜め込んだエネルギーを浅い階層を改築して使用すると思われます」

「本当、これまでいろいろと迷宮が怒りそうなことばっかりやってたからね。実はあの解除失敗って、迷宮を和ませるためのギャグとかだったりしない?」

「いえ、すべて本気でしたよ」

「うん、やっぱりそうなんだ」


 この迷宮が誕生した経緯を考えても、そういった道化を許す寛大さは無いだろう。
 そして今まで一人も踏破できた者はいないだろうし、さぞポイントの方も有り余っていたと思われる。

 その一部を使って時空魔法を封じ、時魔法と空間魔法に負荷を施す。

 そして大規模な改変をしてでも、不遜な侵入者を生きて返さないための手段を講じているのだろう。


「階層数が一桁になってからなのか、それとも二十層より上からなのかは分かりません。ですが少なくともそこまでは、活動が停止した影響で魔物が感知できなくなりました。最後の休息、とでも思わせたいのでしょう」

「だ、大丈夫なんだよね? ゆ、『勇者』の力も全然目覚めたって感じがしないし……」

「覚醒自体は他の候補者の中にもしていない者が居ますよ。あくまで私が集めたのは、集めなければならない鍵となる候補者です。そして、強引にやれば目覚めるというわけでもありませんので……気長にいきましょう」


 唯一『賢者』だけは永い時の中で覚醒しているようだが、特にトラブルに襲われたわけでもなくいつの間にか覚醒していたらしい。

 そう考えると、先に候補者を集めた方がいいだろう……そのためにも連れ帰らないと。



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