AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と従魔空間
連続更新中です(03/12)
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夢現空間
幸いにして、クラーレが飯マズ属性に覚醒する……なんてこともなく、無事に料理スキルを習得した。
まだまだ『月の乙女』の生産組に比べれば劣るが、それでも技量を上げる余地はある。
そんなこんなで料理を教え切った後日、俺は夢現空間をふらりと彷徨っていた。
一番の理由は特にやることがないから、二番目の理由は……特に無かったから。
「……そうだ、あそこへ行こう」
なんて唐突に考えつくこと数分前。
とある部屋の前に立つと──そこで一冊の本を展開し、それを押しつけてからドアを開いて入っていく。
「おおっ、今さらだが本当にできたんだな」
ここでやったかもしれない説明を改めて。
夢現空間の部屋は、上昇・授与・創造の三パターンで追加される。
その名が示す通り──レベル上げ・神の加護・自己形成で生みだされるわけだ。
今回入ったドアは三つ目……まあ、俺じゃなくて眷属が用意してくれたドアである。
絶対に加護じゃ生みだされそうになかったうえ、夢現空間のレベルもすでに最大値に達していたからな。
そんな経緯で出来たその部屋は、とても複雑怪奇な世界を形成していた。
部屋よりも巨大な空間であり、広大すぎる空間の中には無数の環境が用意されている。
入口から繋がるのは、それぞれの環境へ直通となる扉の数々だ。
俺はその中で、噴火する山のイラストが描かれた扉を選んで入っていく。
イラスト同様に灼熱の熱気が漂う火山が配置された広い空間、そこに君臨する聖なる炎と雷を持つ龍へ話しかける。
「久しぶりだな」
『久しぶり、ではなかろう。召喚……というより誰にも頼らず活動し、私たちを苛立たせている身分でよくもまあ来たものだ』
「そうか? 俺が苦戦したなんて言えば、大悪魔なんかは腹の底から笑いそうだが……」
『いや、契約をしているのだろう? 果たす前にくたばるなと罵っていたぞ』
ああ、そういえばそうだったっけ?
アイツの魔武具が気になったから、条件付きでレンタルしてもらったんだ。
少し高いレンタルだった気がするが……料金も含めて、いずれ返却しないとな。
『それで、まったく役に立たせない従魔の下まで来て──何を語る?』
「状況は理解していると思うが、あの世界の門が開く時は近い。『勇者』が見つかれば、全員が揃う」
『そうか……本当に手が回るのだな』
「いや、俺だけの力じゃない。『賢者』は眷属が交渉してくれたわけだし。あれからいろいろとあった、お前らがどこまで観ているか分からないし……全部説明するぞ」
眷属同様、魔本の中に封じられている者も俺の情報を把握できるようになっている。
だが、眷属と違って全開示というわけでもないので……こちらで説明を行う。
聖雷炎龍──ブリッドと出会い、別れたあとの話を語っていく。
兄妹に関わり、孤児たちと接触して少しずつ集めていく証を持つ者たち。
そして眷属たちが行った塔への挑戦──そして中に居た、二人の転生者。
『──転生者だと?』
「そういえば、八代目が転生者と接触していたんだったっけ? まあ、今代の『賢者』は不老だし、いずれ会えるんじゃないか」
『……いや、望みはしない。転生者といえど複数の世界が存在するのだろう? それに、直接の関係はないのだ、会わずともよい』
八代目が出会った転生者──今の神聖国を築き上げた初代法王。
彼がどういった過去を歩んだ地球から来たのかは分からないが、転生者たちが同じ世界から来たとも思えない。
「……まあ、説明はこんな感じだな。最初にあと少しとか言ったけど、『赤王』の覚醒がまだだから絶対に開かないんだけどな」
『継がれし記憶にその方法は記されているのだが……本当に、やる気なのか?』
「やらなきゃ開かないんだ、仕方ないだろ。それに、アイツにはそれを行うだけの資格がある。それを手伝わずして、何が偽善者だ」
『その者に覚悟があるのならば、私も強く言うことはできない。だが……お前自身、本当に覚悟ができているのだな?』
俺の覚悟、それが何を意味するのかはすでに理解している。
だからこそ、俺は答える──
◆ □ ◆ □ ◆
深い深い穴の底、真っ暗な闇の中。
小さな灯りが揺らめき、少しずつ穴の底へと向かっていく。
「いやまあ、神眼を使えばいいんだけど」
魔法の制御練習も兼ねて、発動維持ギリギリの魔力で光を生みだしている。
魔力を光属性に変換するのではなく、あくまで魔力そのものを光に変換する技術──膨大なエネルギーは意図せずして光るんだし。
「おーい、大悪魔ー!」
声を張り上げるが、返事は来ない。
ただ俺の叫び声が、穴の底へ吸い込まれていくだけだ。
「おーい、さっさと出てこないと──この空間を神聖な光で包み込むぞー!」
『──おい、やめ……ふざけ……ボクは……やめっ──』
「ようやく来たのか……やれやれ、悪魔のくせに約束事も果たせないのか」
「なんだと!?」
怒る大悪魔を無視していると、やがて本当にキレたのか魔法を放ってきた。
昏い世界を照らす煉獄の炎──それを伸ばした右手で呑み込んでから、話を始める。
「チッ、忌々しい能力だ」
「そう、ツンケンしないでくれよ。せっかく今日は、良い話を持ってきたんだからさ」
「……良い話だと?」
「そう、良い話だよ……」
ニコリと笑っているはずなんだが……どうして俺の笑みは、いつも相手に苦しそうな表情を浮かばせてしまうのだろうか?
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夢現空間
幸いにして、クラーレが飯マズ属性に覚醒する……なんてこともなく、無事に料理スキルを習得した。
まだまだ『月の乙女』の生産組に比べれば劣るが、それでも技量を上げる余地はある。
そんなこんなで料理を教え切った後日、俺は夢現空間をふらりと彷徨っていた。
一番の理由は特にやることがないから、二番目の理由は……特に無かったから。
「……そうだ、あそこへ行こう」
なんて唐突に考えつくこと数分前。
とある部屋の前に立つと──そこで一冊の本を展開し、それを押しつけてからドアを開いて入っていく。
「おおっ、今さらだが本当にできたんだな」
ここでやったかもしれない説明を改めて。
夢現空間の部屋は、上昇・授与・創造の三パターンで追加される。
その名が示す通り──レベル上げ・神の加護・自己形成で生みだされるわけだ。
今回入ったドアは三つ目……まあ、俺じゃなくて眷属が用意してくれたドアである。
絶対に加護じゃ生みだされそうになかったうえ、夢現空間のレベルもすでに最大値に達していたからな。
そんな経緯で出来たその部屋は、とても複雑怪奇な世界を形成していた。
部屋よりも巨大な空間であり、広大すぎる空間の中には無数の環境が用意されている。
入口から繋がるのは、それぞれの環境へ直通となる扉の数々だ。
俺はその中で、噴火する山のイラストが描かれた扉を選んで入っていく。
イラスト同様に灼熱の熱気が漂う火山が配置された広い空間、そこに君臨する聖なる炎と雷を持つ龍へ話しかける。
「久しぶりだな」
『久しぶり、ではなかろう。召喚……というより誰にも頼らず活動し、私たちを苛立たせている身分でよくもまあ来たものだ』
「そうか? 俺が苦戦したなんて言えば、大悪魔なんかは腹の底から笑いそうだが……」
『いや、契約をしているのだろう? 果たす前にくたばるなと罵っていたぞ』
ああ、そういえばそうだったっけ?
アイツの魔武具が気になったから、条件付きでレンタルしてもらったんだ。
少し高いレンタルだった気がするが……料金も含めて、いずれ返却しないとな。
『それで、まったく役に立たせない従魔の下まで来て──何を語る?』
「状況は理解していると思うが、あの世界の門が開く時は近い。『勇者』が見つかれば、全員が揃う」
『そうか……本当に手が回るのだな』
「いや、俺だけの力じゃない。『賢者』は眷属が交渉してくれたわけだし。あれからいろいろとあった、お前らがどこまで観ているか分からないし……全部説明するぞ」
眷属同様、魔本の中に封じられている者も俺の情報を把握できるようになっている。
だが、眷属と違って全開示というわけでもないので……こちらで説明を行う。
聖雷炎龍──ブリッドと出会い、別れたあとの話を語っていく。
兄妹に関わり、孤児たちと接触して少しずつ集めていく証を持つ者たち。
そして眷属たちが行った塔への挑戦──そして中に居た、二人の転生者。
『──転生者だと?』
「そういえば、八代目が転生者と接触していたんだったっけ? まあ、今代の『賢者』は不老だし、いずれ会えるんじゃないか」
『……いや、望みはしない。転生者といえど複数の世界が存在するのだろう? それに、直接の関係はないのだ、会わずともよい』
八代目が出会った転生者──今の神聖国を築き上げた初代法王。
彼がどういった過去を歩んだ地球から来たのかは分からないが、転生者たちが同じ世界から来たとも思えない。
「……まあ、説明はこんな感じだな。最初にあと少しとか言ったけど、『赤王』の覚醒がまだだから絶対に開かないんだけどな」
『継がれし記憶にその方法は記されているのだが……本当に、やる気なのか?』
「やらなきゃ開かないんだ、仕方ないだろ。それに、アイツにはそれを行うだけの資格がある。それを手伝わずして、何が偽善者だ」
『その者に覚悟があるのならば、私も強く言うことはできない。だが……お前自身、本当に覚悟ができているのだな?』
俺の覚悟、それが何を意味するのかはすでに理解している。
だからこそ、俺は答える──
◆ □ ◆ □ ◆
深い深い穴の底、真っ暗な闇の中。
小さな灯りが揺らめき、少しずつ穴の底へと向かっていく。
「いやまあ、神眼を使えばいいんだけど」
魔法の制御練習も兼ねて、発動維持ギリギリの魔力で光を生みだしている。
魔力を光属性に変換するのではなく、あくまで魔力そのものを光に変換する技術──膨大なエネルギーは意図せずして光るんだし。
「おーい、大悪魔ー!」
声を張り上げるが、返事は来ない。
ただ俺の叫び声が、穴の底へ吸い込まれていくだけだ。
「おーい、さっさと出てこないと──この空間を神聖な光で包み込むぞー!」
『──おい、やめ……ふざけ……ボクは……やめっ──』
「ようやく来たのか……やれやれ、悪魔のくせに約束事も果たせないのか」
「なんだと!?」
怒る大悪魔を無視していると、やがて本当にキレたのか魔法を放ってきた。
昏い世界を照らす煉獄の炎──それを伸ばした右手で呑み込んでから、話を始める。
「チッ、忌々しい能力だ」
「そう、ツンケンしないでくれよ。せっかく今日は、良い話を持ってきたんだからさ」
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