AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と星の銀貨 その10



 今の少女に知る由は無いのだが、かつて少女は『地操脈竜』に遭遇し──亡くなった。
 救済を求める人々が、偽善者と共に行動していた世界よりも圧倒的に多かったのがその理由である。

 彼の持つ呪いいふけんえんを受け、本当にその願いを心から望む者以外は、感じる嫌悪に耐えることができずに動かずにいた。
 故に少女の下に嘆願しに向かうのは、少女が本当に望んだ救いを求める人々のみ。

 そしてその対応も、少女ではなく偽善者が行っていたため、少女の才能の証スキルが誰かの下に渡っていくこともなかった。
 かつての少女は代案が出せなかったからこそ、己でできる中で対応しようとしたのだ。

 しかし、偽善者に少女のナニカを失わせるという選択肢は存在しなかった。

 衣服、スキル、そして──命。
 何一つとして、少女がそれを失う必要などなく、持つ者が持たざる者へ恵むという行為が、少女に向いているとは思わなかった。

 行うことを好むということと、行いそのものを完璧にこなせることはまったく別の話。
 そして、少女はそれを好んでいてもそれを行う才だけは持ち合わせていなかった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 拳と槍を以って『地操脈竜』と戦う。
 暴れ狂う竜は、逆鱗を輝かせて少女の命を欲して牙を剥く。
 身体強化した俺たちは、人外染みた速度でそれを躱して反撃を行う。


「凄いですね……私の身体強化についてこれるとは」

「私は同じスキルをいくつか持っている……身体強化の重ね掛けができる」

「なんとも羨ましい……」

「本当は、誰かに捧げるんだと思ったんだけど……あなたのせい」


 もう少し詳しい話を聞いてみると、統合スキルと固有(以上の)スキル以外ならば、レベルをカンストさせることで制限されずにストックしておくことができるらしい。

 今回の場合、魔法による強化と身体強化スキルによる強化を重ねて行い、通常の強化ではありえないブーストをしているんだとか。
 成長に補正が入っているらしいが、それでもここまで上がるのは……少女の努力だな。


「──“回転突きスピンランス”……」


 螺旋を描き、槍の先端が竜の肉体へズブリと突き刺さっていく。
 いっさい抵抗感が無い、というわけではないが、それでも苦痛を感じさせる程度には中へ食い込んでいた。


「“閃絡フラッシュオーバ”……」


 槍を通して発動されたその魔法は、膨大な電気エネルギーを直接肉体へ注ぎ込む。
 眩い光が走り、大量の火花が散っていく。
 花火のように炸裂する輝きは、そのすべてが竜の体をその熱で焼いていった。


「それも強化されているのですか?」

「雷魔法はそこまで使いこなせない……」

「ははっ、たしかに派生魔法ですしね」

「それに、先に別の魔法に進化してた……」


 風魔法を二周するのに、時間がかかったのかもしれない。
 また、少女自身が約定とやらで補正を受けても、そこまで雷属性への適性が高くなかったという可能性もある。

 それにしても、“閃絡”はレベルを中盤まで上げないと使えるようにならない魔法だ。
 本人はああ言っているが、それでもしっかりとレベルは上げていたのだろう。


「槍、予備は必要ですか?」

「あるの……?」

「はい──こちらです」


 火花を散らしている槍を、再び使う気はないだろう。
 別の武器を使おうとしていたのだろうが、ちょうどいい機会なので渡しておく。


「『聖槍[琉星]』、戻ってくるように念じれば持ち主の手元に戻って来ますよ」

「いいの……?」

「とりあえず、この場では使ってください。おそらく、あなたのお役に立ちますよ」

「あ、ありがとう……」


 聖気を籠めさえすれば、どんな武器だろうとだいたい聖具になるからな。
 今回の槍はあくまで投槍として作った、劣化版グングニルみたいな物だ。

 ──もちろん、普通の槍としても使えるように俺なりに仕掛けは施してあるけど。


「まずは私から──“脚砕きフットクラッシュ”」


 気配を隠し、竜の足元へ近づく。
 少女に意識を集中しているため、竜はそのまま気づかず──脚を俺に蹴られる。

 人体から鳴ってはいけないような、ゴキメキと破砕音が竜からあがり、少々涙目な気がする竜が叫ぶ。
 意識は一時的に少女から自身の痛みの発生源に映り、隙が生まれる。


「“疾風突ブラストチャージ”……」


 疾く駆け抜け、少女は逆鱗のある竜の背中の辺りまで跳躍して近づく。
 その時点でようやく少女への殺気を取り戻す竜だが、時すでに遅し。


「──“貫通槍ペネトレイトランス”……」

「──“回し蹴りソバット”」


 逆鱗に突き刺さる少女の聖槍。
 足掻こうとする竜だが、足元からくらった一撃によってそのまま地に伏せる。
 衝撃でより深く刺さる槍、本来であれば抜くことができなくなるほどだが──


「……本当に戻ってきた……」

『GUROOOOOOOO!』

「……ごめん……」


 戻る際の速度が拙かったのか、その傷口はかなり痛々しそうだ。
 刺し方もいけなかったようで、真っ直ぐに抜けていなかったようだし。


「さぁ、この魔竜に慈悲を。傀儡の身より解き放つのです」

「──“天過牟槍エイミングトラスト”……!」


 槍スキル最上位に近い武技によって、少女の手に戻っていた槍は再び竜の肉体へ突き刺さり、心の臓を貫く。
 狂っていた竜の瞳は、ようやく穏やかさを取り戻し──光を失ったのだ。

 ……なお、俺は神眼によってそれを把握しておりました。



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