AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と星の銀貨 その09



『だから貴女には、やり直しをしてほしい』

「やり、なおし……?」

『ええ、そうよ。貴女にとっての幸福な未来が見つかるまで、何度も何度も何度でも』

「…………」

 女神様は、少女に語りかけます。
 肉体はたび重なる闘いでボロボロ、服はすべて子供たちに与えてしまい何も無い。
 どうして自分に、こんな話が持ちかけられるのだろう……少女はそう考えました。

『貴女がとても善い子で可哀想な子だから。貴女はやり直したいとは思っていない。自分がやってきたことは正しいと、救われた者が居たのだからそれでよかったと思っているのでしょう?』

「……うん……」

『ダメとは言わないけれど、私はそれを許容したくないの。貴女は誰かを救いたい、私は貴女を救いたい──やりたいことは同じ』

 女神様は少女を、どうしても救いたいのだと言葉をつづり続けます。
 これから先、少女を救うことができる者たちが必ず現れると。

 少女は期待をしていません……ですが、その強い想いはやがて、少女の心になんらかの変化を起こしました。

「……わかっ、た……」

『本当ッ!?』

「うん……よろしく、おねが、いします」

『ええ、ええ。任せてちょうだい…ゴホン。お任せください、次の未来が貴女にとって幸福であらんことを』

 そうして、少女は偉大なる女神様によって同じ生を繰り返すことを選びます。
 女神様の言葉を聞き、知ってみたいと思ったのです──いつか会えるかもしれない、自分に手を差し出してくれる人に。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 超近接戦闘しかできない俺(拳)とあらゆる距離から戦える少女(槍)。
 たった二人で『地操脈竜』という、強大な魔竜と闘わなければならなないこの状況。

 そもそも少女、どういうバッドエンドでお亡くなりになるんだろうか?
 衣服とスキルをすべて捧げて、命すらも捧げかねない狂信少女クレイジーガール

 なぜか目覚めている魔竜、常に絞られているターゲット、クソ女神の干渉……どう考えてもコイツしか悪役が浮かばないな。
 だがなぜだろう、さすがにここまでしないだろうという同族嫌悪の勘がささやいている。


「槍、ですか……得意なので?」

「武器は全部使える……あなたが近くで戦うなら、私は距離を取る……」

「なるほど、そういうことですか」

「危険だと思ったら下がって……逃げるか対処するか、私が決める……」


 対処、とは最終手段サクリファイスのことだろう。
 それをさせないがために、偽善者はこうして魔本の中に入ってきているわけで……。
 故に少女に対して、もう少しできることを開示しておこう。


「遠くからでも戦えますよ」

「えっ……?」

「このように、すれば! ……ほらね?」


 創作物の定番、殴った風圧で攻撃だ。
 武技の補正を受けずとも、適量の精神力を消費さえすればマニュアルでエセ武技を発動することができる。

 だいぶ前に説明した『再生の指輪』があれば、劣化した状態で武技を好きなように行使できるが……独自性を出せる、完全マニュアル仕様の方が利便的な場合もあるのだ。


「本当に普人フーマン……?」

「はい、少なくとも私はそうだと思っておりますよ。できればいずれ、カカ様に仕えるべく聖人になりたいとは思いますがね」

「そ、そう、なんだ……」


 引いているね、なんだか。
 まあ、そうやって感情を前に出してくれた方が偽善者的に嬉しいので気にしない。
 聖人か……因子的には、いつでもなることができるんだよな。


「では、参りましょう」

「うん……!」


 倒れ伏していた竜も、この会話の間に立ち上がっていた。
 倒れている状態だと地面と密着する部分が多く、何をしてくるか分からなかったのでこうなってくれた方が楽で好い。

 改めて闘いは仕切り直しとなり、2VS1による竜狩りを始めることにする。
 改めて補助魔法を掛け直し、竜がかかってこいと言わんばかりに咆哮を上げた瞬間──勢いよく近づく。


『GUOOOO──』

「隙ありです!」

『──OOAAA!?』

「……ズルい……」


 戦いに卑怯も正道もないのだ。
 勝つか負けるか、生きるか死ぬか……最後に立っていた奴がそのすべてを決められる。

 カッコよく咆えたところを妨害されれば、当然キレるわけで──生命力がだいぶ減ったせいか、なんだか一枚の鱗を中心に膨大なエネルギーが渦巻き始めた。


「逆鱗……早すぎる……!」

「おや、もうですか。それでも地脈への接続は行えていないようですね」

「気を付けて、これまでよりも強い……!」

「ええ、分かっておりますとも」


 逆鱗状態になると、普通竜種は見境なく暴れ出すんだが……やはり何かの影響を受け、その視線は真っ直ぐに少女へ向いている。
 ここまで意思を向けるのは、異常とも呪いとも言えるだろう。

 解呪はできない、できるかもしれないが今の俺では絶対にできない。
 なので殺してやることが、もっとも救いとなる選択になる……少女もきっと、それを感じ取っていたからこその選択なのだろう。


「死こそが救い、そういった言葉もあるらしいですね」

「……分かった……」


 改めて、戦いを始めようじゃないか。
 死を以って救済をもたらす、偽善者様のお導きを受けろ。



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