AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と星の銀貨 その05
少女はその神託ゆえに期待されていた。
急速に成長する彼女の活躍は、見る者すべてに期待と希望を抱かせる。
望まれることは万事であり、人々の願いに応えてその力を振るう。
少女の生きた時代においても、冒険者という存在は金銭を稼ぐため、魔物と戦い危険な地にある素材を採取していた。
しかしそれは、究極的に言えば自分本位な目的があり……対価を要求される。
だが、少女に頼むのならばいっさい対価を要求されることなく依頼を行えた。
何かあるとすれば神への祈りのみ、あとは個人によるささやかな献金を支払うだけ。
少女は神の使徒ではない、しかし約定を与えられ試練の日までに【献上】できるものを増やす必要があった。
故に誰も彼もがそれを理由に、少女にさまざまなことを要求する。
──誰からも少女自身が認識されずとも、ただ独りで。
◆ □ ◆ □ ◆
物語では最後の要求となる下着を済ませたからか、少女に何かを要求する子供がもういなくなった。
だが、代わりにこの世界固有のイベントとして、奥地へ向かうために行う魔物との戦闘数が少しずつ増えていく。
「──“十字斬”」
十字を切るように放たれた斬撃の軌跡は、襲いかかる狼たちを纏めて切り払う。
少女は武器換装スキルを持っているため、一定時間が経過すれば武器を持ち替えることができる。
「──“乱雨矢”」
斬撃を警戒して距離を取った狼たちに向けて、換装した弓と矢を用いて遠距離からの射撃を行う。
空に向けて放った一矢は、エフェクトと共に無数の矢となって狼たちに突き刺さる。
「お見事です」
「これぐらいなら、問題ない……」
「しかし、本当にいいのでしょうか? 私とて、ある程度戦うことができるように武術や魔法を嗜んでいるつもりですが」
「あなたが戦う必要は無い……」
俺は少女にとって、置物のような扱いなのかもしれない。
あくまでいっしょに居たい、という依頼を受けて共に行動している……という。
少女は無属性と回復魔法を含めた基礎属性すべての魔法が行使できるので、俺の支援が無くとも難なく魔物を討伐している。
さすがに魔力量の調整は必要なようだが、しっかりと回復しているので問題はない。
「では、私もいっしょに戦いたい、といった場合はどうしますか?」
「……一度戦闘を見たい……それから、考えてみる」
「ダメ、とは言わないのですね」
「与えるのは約定……そう求めるなら、私は叶えるだけ……」
少女なりのポリシーがあるのだろう。
たとえそれが本当に必要なものじゃなかろうと、人は自分なりに好いと思えるものほど力を入れてのめり込むからな。
少女が索敵・探知して見つけた魔物と、一度戦闘することになった。
さすがにテストと称してイジめる気はないので、現れたのは一体の魔樹だ。
「やってみて……」
「分かりました」
カカ教の司祭としての縛りは──回復魔法と火系統魔法に加え、杖術と棒術しか使えないというものだ。
何が起こるか分からないということで、有能すぎる神眼以外の瞳も許可が下りている。
意外と戦うための選択肢は多い。
ギリギリの戦闘を行うと、少女が心配してしまうので……そういった意味では、完璧な勝利を得なければいけないだろう。
「火魔法では森が延焼しますし、これでどうにかしますか──“持続回復”」
首から下げていた装身具を引き千切り、魔力を流すとそれは杖に変形する。
魔力を杖に通すことで、より消費効率と性能を上げた状態で魔法を行使可能となった。
魔力と気力を操作し、相乗効果を起こすことで身体能力を強化する。
回復職らしからぬ動きを可能とし──杖を持って駆けだす。
『ッ……!』
「ふむ、良い反応ですね」
近づくと抵抗するように、無数の根が地面から起き上がり俺を捕まえようとする。
目的は養分なんだろうと思うが、動体視力も上がっているのでススッと避けられた。
「──“振打”」
エフェクトが杖を纏い、気力でコーティングされる。
強化された杖で根っこを叩くと、風船のようにパンッと弾けていく。
「……おや、生えてくるのですか」
「この森は、『地操脈竜』の影響で魔力濃度が濃い……特に地面は……」
「なるほど、この魔樹も同様に大地から膨大なエネルギーを集めているのですね」
「けど、凄いのはあくまで回復だけ……やりようはいくらでもある……」
そこまで言われて、何もできないというのも問題があるだろう。
杖を強く握り、少し学んだ杖術の構えを取り魔樹に向ける。
あえて再生を待ち、すべての再生が終わった瞬間──勢いよく魔樹の下へ走る。
「──“継続治癒”」
杖に宿した治癒魔法の光、温もりを感じさせるそれは、振るわれる根っこすべてに命中し──再び破裂させていく。
だが、これまでと異なり外部から破壊されるのではなく、内側から膨らみすぎた繊維が弾けるように壊れていった。
魔樹はその異変に気づき、どうにか対応をしようとするが──破壊された根っこがもう再生できないことに気づく。
過剰再生で壊した根っこは、原因部分を破壊しなければ直すことができなくなる。
そしてその影響を根っこで庇いきれなくなる魔樹──親切心で行った魔樹の回復、その対価は魔樹自身の命で支払われた。
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