AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者なしの赫炎の塔 その03
連続更新中(07/12)
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「まさか、リュナ……なの?」
「…………」
沈黙が二人の間に生まれる。
リュナという少女を探していたその者は、想定外のタイミングで現れた探し人に動きを止めていた。
リュナもまた、その者を知っていたために驚愕している。
知ってか知らずか、紅の獅子耳は驚きを示すように強張っていた。
「リュナさん、あの方は知り合いですか?」
「……はい」
「そうでしたか」
リュシルはそんな二人を見て、何やら事情があることを察する。
そして、その関係が決して悪いものではないことも理解していた。
「ッ──『隷属の首輪』!」
「えっ? ……あっ」
だが、そんな風に思えたのもその者がリュナの首に嵌められた首輪(のような物)を見るまでのことだ。
日本人が見ればチョーカーと分かる品も、凶悪な首輪が存在する世界にとっては警戒するに値すべきものであった。
「貴様、リュナを奴隷にしているな!!」
「ち、違います! ま、まずは話を聞いてくださ──」
「すぐに解放しろ!」
「そ、そんな無茶なぁ……」
奴隷の契約は特殊な魔法によって交わされているため、奴隷商人のような裏社会の人間にしかそれを解除することはできない。
しかし、そういった事情をその者は知らない……知ろうとしなかった。
主が死ねば奴隷が死ぬ、そういった契約があることすらも。
無知ゆえに、その者は弓に矢を番えてリュシルに向けていた。
「…………!」
「なぜだ、リュナ! そこをどいてくれ!」
「……無理」
「そういう命令か……この卑怯者め!」
えー、と漏らしたくなる口をギュッと引き締め、どうにか状況をよくするための考えを練ろうとするリュシル。
彼女の持つスキル<千思万考>は、それを上手く見出せる能力を持っていた。
「私は、彼女を奴隷にしていません!」
「…………では、その首輪はなんだ」
「これはアナタの言う『隷属の首輪』ではありません。命令もできません。リュナさんを知っているのであれば、自分の言葉で話しているか確かめてみればどうでしょうか?」
「……彼女の意思に反して、隷属させていることが分かったら殺す」
矢を番えたまま、その者はリュナを見る。
彼女もまた、これまでの話の流れを察してその者と目を合わせた。
「……久しぶり」
「リュナ! 久しぶりだな」
「うん、懐かしい」
かつてリュナは、ある目的を持ってその者が住む里を訪れたことがある。
滞在期間は一週間程度であったが、その者が心を開くには充分な時間でもあった。
「その……リュナは奴隷なのか?」
「……うん」
「!」
「ちゃ、ちゃんとリュナさんの話を聞いてあげてください!」
弦を強く引き始める様子を見て、慌ててその者を止めようとするリュシル。
(こ、ここで攻撃を受けてしまったら……不味いことになってしまいます)
彼女が外部からの干渉を受け、生命力を減少させた場合──とある超常的な存在がこの場へ現界してしまう。
それをどうにか避けたいリュシルは、必死でその者に語りかけた。
「……奴隷、だった。けど、リュシル様たちに助けてもらった。首輪は奴隷にならないための……魔除け?」
「はい。そう言ってましたよ」
「……みたい?」
「…………そうか」
不思議な話し方、抑揚のない語り方ではあるが、リュナはその者に知りうることをすべて伝える。
その者は彼女のことを知っているため、そこに嘘が無いことはなんとなく分かった。
「何も不自由はないんだな」
「うん」
「なら、よかった……そうか、あれから行方不明になったから心配だったんだ」
「……ごめん」
大弓と矢を戻し、リュナに近づいたその者はギュッと彼女を抱擁する。
リュナもまたそれに応えるように、包み込むように抱き返した。
(もしかして、こうなることが分かって……いえ、さすがにそれはありませんか。少なくとも、あの人自身の意思には)
リュナをここに連れていくように指示した者が、はたしてこの展開を知ったうえで命じたのかどうか。
それは否だと感じるものの、関係はしているだろうと推測した。
「──では、そろそろいいでしょうか?」
「はい」
「すまなかった。突然武器を向け、殺すとまで言ってしまったこと。リュナは無事に生きていた、もう心配はない。求めるのであればその謝罪、命を以って償おう」
「必要ありませんよ。この迷宮の攻略が終われば、アナタはリュナさんといっしょに居たいのではありませんか? その機会をゼロにするほど、私は愚かではありません」
その者が望むように命を奪えば、リュナが悲しむ……それを望まぬ者が居た。
そもそもリュシルにそうする気はまったくなかったので、生殺与奪の権利をあっさりと手放す。
「改めて──私たちの目的は、この塔の主である『賢者』に会いに行くことです。そして私とリュナさんは、先行隊として中を調査して一つ目の結界を解除しに来ました」
「まだ仲間がいるのか?」
「それは後ほど、仲間たちと合流した後にご説明します。えっと……」
「──『シュカラナ』だ。気安くシュカとでも呼んでくれ。私の目的は、この迷宮で保護されているという獣人たちの中に、リュナが居るかもと思い探すことだったのだが……ここに居るが、居なかったのだな」
探し人は居た。
ただし、それは暮らしていたわけではなく別の場所からやって来たのだ。
シュカは自身の間違いを思い返すようにピスゥと鼻から息を漏らし、リュシルたちと向き合うのだった。
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