AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの赫炎の塔 その01


連続更新中です(05/12)
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 赤色の世界。
 とある少年が広めたその世界の識別名なまえは、海までもが炎を宿すことが所以であった。
 空は海の色を映し赤く照っており、地上に生える木々もまた葉に火を燈している。

「ここが……『赫炎の塔』……」

 そんな世界に、螺旋状に捻じれた巨大な塔が存在していた。
 大陸ではない、海の中から入ることができる特殊な結界の中にである。

 その者はこの日のために用意した魔道具を使い、彼の地にやって来た。
 ある悲願を叶えるため、すべてを投げ打ってでもこの塔に住まう者に会うために。

「凄い、海の中だなんて思えない……」

 塔を囲むその空間には、海の中なのに空気が確保されていた。
 それだけではない、地上の動植物が無数に生息しているうえ、燃えるような空が投影されているのだ。

「これが『賢者』の力……間違いない」

 塔の主は『賢者』と呼ばれる者。
 その知識はこの世界に住まう誰よりも豊富だとされており、『賢者』が知らないことは世界中の誰も知らないとされている。

 この空間もまた、『賢者』が知識とそれを基に手に入れた力を用いて創られた場所。
 小さな世界を創造し、生命を生みだす術を彼の者は見つけだしていた。

「きっと、ここにいるはず。待ってて、すぐに逢いに行くから」

 ゴクリと息を呑み、前に進む。
 扉の無い塔の入り口、その者は塔の中から漏れ出る空気を感じて足を止めた。

「──『リュナ』」

 僅かに足りなかった勇気を、友人の名で自らを鼓舞して手に入れる。
 再び会う光景を夢見て、その者は塔の中へと入っていく。





 塔の中は吹き抜けであった。
 外観通り階段もまた螺旋状、階層を示すように時折地面と水平な場所が存在する。

 同様に、扉がいくつも設置されていた。
 すべてが同じデザインのもので、どのような目的の場所かは開けなければ判らない。

「こ、このどこかにリュナが……」

 その者は扉の多さに意識が遠退きかけたものの、逢いたい者を思い返しすぐに捜索を開始する。
 叫び回ることは許されない、その者が集めた情報の中にはそれが厳重に書かれていた。


『──賢者を追いし者、彼の者を怒らせること無かれ。眠りを妨げし者には、永劫の苦しみがもたらされるだろう』


 また、『賢者』はとても気難しく声にも敏感だとその情報元には記されている。
 そのため、なるべく騒ぎ立てずに行動することが求められた。

「仕方ない、一つ一つ探っていくか」

 危険なのは百も承知、その者はまずもっとも近くに在った扉に手を伸ばす。
 ドアノブを握り、ゆっくりと後ろに引く。

「…………これは、草なのか?」

 開いた先──そこに広がるのは草原。。
 しかしその者は、それが草原なのかどうかが理解できずにいる。

燃えていない・・・・・・……どういうことだ?」

 赤色の世界にとって、自然に生えている植物は必ず火を燈しているもの。
 そこに住まう人々にとって、それが普通であり当然の事象なのだ。

 しかし、広がる草原に生えた植物は一つとして火を燈していない。
 まるで別世界のように、異なる理が働いているかのように緑の草々が生えていた。

「! 魔物がいるのか!」

 その者は目の前の光景に驚いていた意識をすぐに切り替え、自身の警戒網に引っかかった魔物が居る方向へ武器を構える。
 ガサガサと草をかき分け、ソレはその者の前に姿を現す。

「ッ……! また知っているものと違う」

 それはとある世界において、魔子鬼デミゴブリンと呼ばれる魔物だ。

 だが、そのことをその者は知らない。
 その者が知るゴブリンという魔物は、緑色ではなく赤色の皮膚だからだ。

『『『『GUGYAAA!』』』』

「魔物であることは変わらない。ならば、倒すしかない」

 その者は所持していた武具──大弓と矢を握り締め、ゴブリンとの戦闘を始める。
 耳を澄まし鼻を鳴らし、相手の気配をより深く読み取って弓を構えた。

「──シッ!」

 一呼吸おいて射られた矢は、ゴブリンの脳天に命中して命を奪う。
 放った直後に二の矢を構え、その後方を走るゴブリンの心臓を貫く。

 残った二匹は突然動かなくなった同胞を無視し、獲物であるその者を狙う。
 分かっていたのか、その者はヒラリと跳躍してゴブリンから距離を取る。

 獲物を見失ったゴブリンたちは、その場に立ち止まり辺りを見渡してしまう。
 その隙を突くように上空で番えた矢をそのまま放ち──ゴブリンたちは全滅する。

「強さは変わらない。連携しているわけでもないし、野生のゴブリン? でも、どうしてこんな場所で?」

 その者は解答を──『賢者』の研究なのだろう、ということで切り上げる。
 分からないことは知ろうとすることが大切だが、そればかり気にしていても仕方ない。

 自分の定めた目的を果たすため、ゴブリンに関する情報が必要だとは思わなかった。

「ここには……いない。別の扉を探そう」

 辺りを調べ、自分の探し人に関する情報が無いことを理解すると、その者は入ってきた扉から出ていく。

 出た場所は変わらず、視界には塔のある世界に入ってきた時に見つけていた動植物。
 そのことにまずホッと一息を吐いてから、その者は別の扉に近づく。

「……行こう」

 扉を開いて中へと入る。
 その者の頭部では、長いウサギの耳が揺れていた。


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