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山田 武

偽善者と機動城塞 後篇



 フィレルは恍惚といった顔をしている。
 少々おねだり興奮していたこともあり、血の巡った俺の体は予想以上に大量の血液を彼女に提供したからだ。


「これで……満足したか?」

「~~~~~~~~~~~ッ」

「ああ、まだかかりそうだな」


 トリップしたフィレルは、子供に見せられないようなアクションを取るので放置しておくのが一番だ。
 吸血鬼としての本能が呼び覚まされる月。
 それが消えれば、勝手に治るからな。


「さて、とりあえず血を補給して……再起動完了っと」


 増血用のポーションを含んでから、解除していた(血液不要)スキルを再行使しておく。
 すると体を巡っていた血は、最適化された肉体において不要な存在となり消滅する。

 ……先に血を補給しておかないと、最適化するためのエネルギーが足りないんだよ。





 城塞の中も、ただの街並みではない。
 そこはかつて見た、天空都市と同じような光景──機械人形たちが守護するSFチックな世界がそこにはある。

 そんな道の往来を堂々と歩いていると、一体の人型機械がこちらにやってきた。


『お帰りなさいませ、ご主人様』

「……ああ、うん」

『何か御用はありますか?』

「いや、特に無い」


 そうですか、と女性AIのような声を発して俺から離れる。
 入ったからと言って、不法侵入されないようにアイリスによってプログラミングがされているからだ。

 声にノイズ交じりな部分はなく、かなりクリアに耳に伝わる。
 こういう部分も、アイリスによって改良が加えられた点だ。


「俺と眷属、それにアイリス自身が認証した奴だけだが。それでも、あれをやらないってだけでだいぶ楽になるよ」


 無尽蔵に生みだされる機兵たちとの戦い。
 リアとの会話もあって、あらゆる武具を用いての捨身戦法だったからな……一番かっこいいシーンは『イニジオン』が持っていったので、他に印象的な思い出は無いけど。


「けど、この街って使われてるのか?」

『──はい、それはもちろん』

「うわっ! ……急に驚かさないでくれ」

『申し訳ありません。しかし、問われたことや求められたことには対応するよう、指示を受けておりますので』


 なお、侵入者であろうと特殊コマンドである『OK、グルグル』と言うことで、質問やその機械人形の業務に差し支えの無い範囲内であれば、頼み事に対応してくれるぞ。


「まあ、いいか。それで、使われてるって侵入者にか?」

『はい。迷宮都市の仕様に合わせ、ポイントでの交渉が可能となります。アイテムの入手はもちろんのこと、我々との戦闘回避にも用いることができます』

「……それで決して認められない交渉ってのはあるのか?」

『もちろんです。アイリス様に関する事柄、そのすべてが禁則事項となっております』


 要するに、アイリスを害する質問や要求の場合はソイツを強制排出デストロイするわけだ。
 迷宮核の在りかやここの製作者、技術に関する情報を知ろうとするのであれば──それはアイリスを脅かすことになる。


「俺がアイリスを守れないことの方が多い。そのときは……頼んだぞ」

『──お任せください』


 俺の言葉への返答は、周囲の機兵たち全員がいっせいに返してくれた。
 ……正直、感動よりも驚愕の方が大きかったです。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 中枢区画


 いくつものモニターが城塞内の様子を映しだし、時々その位置を切り替えている。
 それを決めるのは、画面の前に座っている灰がかった金髪アッシュブロンドの少女だ。


「あっ、いらっしゃーい。フィレルはこっちで見ているから、大丈夫だよ」

「……見てたのか」

「そりゃあ、もちろん。『月が綺麗ですね』の定番から、吸血鬼に血を吸われる……文句なしのイベントCGだね!」

「俺、そういう系はあんまりやってなかったから知らないんだよな……まあ、喜んでくれたならフィレルも嬉しいだろう」


 二人は仲良しだし、いろんなことを話す間柄だ……そのせいか、フィレルの発言にちょくちょくアイリスが関わったと思われる言動が混ざり始めたんだよな。


「メルスとこういうイベントが起きるのは、帝国のとき以来かな? あそこで親密度が上がると、こうなるパターン?」

「いや、面談みたいなもんだからな。一定期間交流を続けていると、必ず個別ルートじゃなくても起きるパターンだな」

「えー、つまんなーい……けど、これはメルスのハーレムルートだもんね。こうして会ってくれるだけでも、ワタシの好感度はグーンと上がるよ」

「……そりゃあ、なんともチョロインさんだな。気安く接せたほうが楽だけどさ」


 創作物を漁っていた前世の影響か、ハーレムにも眷属の中でももっとも積極的なアイリス……いや、手は出してないけどさ。


「意外とそういう親友キャラの攻略って、二週目とかになるんだよねー」

「好感度だけが条件じゃないってことか?」

「そうそう。ワタシの場合は……そう、複数キャラの攻略が必須だね」

「……なんて難易度の高いキャラなんだ」


 ゲームだったら本当に難しいだろう。
 周りとの好感度も調節したうえで、アイリスというキャラだけを堕とすために徹底したフラグ管理が必要になるのだから。


「その点、メルスは凄いよね。全員をちゃんと攻略してるんだから……しかも、ほとんどの娘が高難易度! というか、攻略不可能な人たちだよね?」

「あくまでハーレムは副次結果で、基本偽善がやりたいだけだからな……もちろん、多ければ多い方がいいと思うけど」

「うーん、こういう部分はハーレム系の主人公みたいなんだけど……何が違うのかな?」

「……ああいうゲームと違って、アイツらがこういう家族の在り方を受け入れてくれようとしているからだろ」


 眷属の大半が家族に何らかの欠損を持つ。
 欠けたものを埋めるように、俺が持つ眷属という繋がりを求めた。

 ……眷属全員が、俺に好意を持っているわけじゃない。
 強引に感情が共有されるという事態もあったが、それも今では解決済み。

 まあ、その余韻は僅かながらに眷属たちに影響を及ぼしたが……もともとが精神的に強いがために封印されていた強者たちだ。
 共有の影響は時間が経つたびに、少しずつ解除されたので問題なかった。

 ──それをどう受け止めるのか、今の俺たちの在り方は彼女たちの選択のお蔭とだけ記しておこう。


「でもさー、メルス。家族みたいに仲のいいハーレムって難しくない? こう、ギスギスしたのが現実っぽいじゃん。サブカルだと、逆にワタシたちみたいに喧嘩が無いけどさ」

「……さっきも言ったけど、俺を中心にしたハーレムじゃないからな。俺はあくまで、眷属というシステムの礎。だからわざわざ争わなくても、構わないってこと」

「──そうか。メルスへの不満が、性格とかやっていることだけだからか」

「たぶん……って、なんでそうなる!?」


 綺麗に纏めようとしていたんだが……どうしてそれで、成立できるんだよ。


「あー、納得できた。メルスが唐変木で鈍感な自称モブの主人公だから……何よりいろいろとおかしいから、ワタシたちはメルスが大好きなんだよ」

「……なんだよ、急にバカにして。あと、あまり誤解されるような言い方は止めておいた方がいいぞ」

「ううん、メルスはメルスのままいれば勝手にハーレムができるんだなーって。もちろん大好きだってのも、メルスには理解できない深い意味があるのです」

「全然分からない……」


 俺のまま、ということは偽善をし続ければいいのかな?
 答え合わせをするのも癪なので、とりあえずはスルーしておく。


「さて、メルス。一度話題をぶった切ってシリアスに持ち込もうとしているね?」

「まあ、そうだな……国を落とされたのには運営神が関わっているみたいだけど、アイリスはどう思う?」

「うーん、そりゃあいろいろと言いたいことはあるけど……運営神はリオンちゃんも当て嵌まっちゃうし、今は何も思わないかな?」


 今は・・、それが何を意味するのか。


「なら、今後は?」

「もちろん、こっちの世界のパパやママを殺した相手だもん。みんなで話し合って、ギリギリ納得できる範囲で復讐するよ」

「そうか……そのときになったら、俺も計画に混ぜてくれよな」

「もちろんだよ。主人公とヒロインの共闘って、だいたい個別ルートだよね?」


 ニコリと笑みを浮かべるアイリス。
 隠された陰のある表情が、何を欲しているのかを表していた。


「任せろ、できるだけ叶えてやる」

「……そこは、絶対にやってやるとか言うべきだったよ」

「絶対なんてものには頼らない。俺はアイリスとやる、不確定でもやり遂げるんだ」

「……そうだね。相手は神様なんだ、『信じられるのは仲間だけ』だね」


 運命や確率には頼らない。
 クサくて声には出せないが、『絆』の力で行うべきことだ。


「クリアしたら……ご褒美CGだからね」

「そりゃあ嬉しい。そうなったら、素敵な夜でも提供してやるよ」


 この約束もまた、はるか先への予約だ。
 未来いつか現在いまへと近づける、引き金トリガーとなるであろう『絆』を高めるためのな。



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