AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と剣舞奉納
修練場
ほとんど無駄とは分かっているが、時々それでも試していた。
激しく打ち鳴らす二振りの剣、その共鳴が音楽を奏でる。
「──と、いうわけだ。デートするなら、どこに行きたい?」
「デデ、デートって言わないで……別に、このままで構わないわ」
「……なら、速度を上げないでほしいんだけど。おかしいな、このままじゃないのか?」
「それとこれとは別よ。これは奉納よ、しっかりとやらないと」
剣舞、それを行い神へと捧げる。
地球でもやっていた場所はあるのだが……こっちの世界だと、具体的に何がどうなっているのかが確証されていた。
要するに、場に居る者のエネルギーやら想念を神気に変換して神が回収しているのだ。
捧げられたらその分、褒美として加護やら土地の反映やら武器の強化やら……とにかくその神に対応する特典が与えられる。
俺とティルは二振りの神授の剣を振るい、神に舞を捧げている。
ティルは獣聖気、俺は神気を消費しているのでそれなりに効果はある……と思う。
「けど、メルスも成長したわね。私相手に、ちゃんと防御できているんだから」
「それも全部、師匠の教え方がいいからだ」
「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃないの。なら、もう少し上げられるわよね?」
「……か、勘弁してください!」
だが、速度はさらに上昇していく。
意識して動かしていた剣捌きを半自動化させ、必死に先読みと後の先を行う。
その甲斐あって、目まぐるしく動くティルの剣撃にどうにか耐えられている。
「ふふっ、弟子の成長が凄まじいわ。あのときは負けたけれど……純粋な剣技で、まだ負けるわけにはいかないのよ」
「さすが師匠。俺、これでも普通に戦えるように実戦はしているつもりなんだぞ?」
「それ以上に、私が優秀ってことね。みんなと鍛えてたんだから、外で遊んでるメルスよりは成長しているつもりよ」
「あ、遊んでる……否定はしないが、そこまでストレートに言わなくても……」
偽善を傍から見ればただの遊びだしな。
自分の思いやがりで他者に身勝手を振るうことの、どこがそうでないと言うのだろう。
「ただ遊んでただけじゃないって、証明してやるよ」
「遊んでただけよね? 最近もずっと、デートばかりだし」
「…………ただ遊んでただけじゃないって、証明してやるよ」
「ハァ……好きにしなさい」
なんだか呆れられているが、今やらないと本当にヤバそうだ。
もう一本神剣を取りだし、二刀流でティルに振るっていく。
当然ながら、その程度で倒すことができるのであれば、ティルは【獣剣聖姫】の名を与えられてはいない。
天性の才能と弛まぬ努力が生みだす剣捌きは、たかが二本の剣では突破など不可能だ。
だが、神舞の見栄え的にはちょうどよい。
らしからぬ優雅な動きで二本の剣を振り回す俺と、それを一本の剣で華麗に捌いたうえで追撃を行うティル。
剣舞で言えば、かなり高いレベルでできていると思う。
かなりの量のエネルギーを奉納し、礼拝堂からここではないどこかへ送っている。
──だがそれでも、神々は応えない。
奉納を終え、剣を納める俺たち。
リュシルやリオンが言っていたが、活動を止めた神が再び目を覚ますには膨大な時間か神気が必要となる。
いちおう上級神となった俺だが、それでも一柱たりとも目覚めさせられていない。
「ねぇ、メルス。一つ思ったことがあるんだけど……この剣舞は誰に捧げているの?」
「誰、と言われても……神々だろ?」
「そうじゃなくて……具体的に、どの神に捧げているのよ」
「…………いや、決めてないが」
何度か剣舞をやってきたが、この話をしたのは初めてである。
えっ? こういうのって、特定の神だけにしないとダメなのか?
「そういうわけじゃないわよ。ただ、その場合はその地で崇めている神や、奉納する者が加護を受けている神に奉納されるのよ」
「……ああ、そういうことか」
「たしか『ニホン』は、無自覚宗教の国だと言ってたわよね? 思い入れが無い分、こだわってないのかしら」
「まあ、こっちは神を認識できないからな。存在しない架空の神に、努力を報告するために祈ってたな」
寺社とはそういう場所だ。
神頼みもあくまで、こういうことをやっているので見守ってくださいと向かって、こうなりましたと報告やお礼を述べに行くような場所だった。
いつからか、それが歪み本当に神に願いを叶えさせるような場所になったが……まあ、ここでそれを言っても仕方が無い。
「それで、しっかりと奉納したい神様を選ばないとどうなるんだ?」
「えっと、たしか……位の高い神に合わせて捧げた力が分配されるらしいわ」
「つまり、大神がまず全部持っていくのか。この時点で、もう回ってこない気がするな。それに、たとえあっても残りカス。それを数十以上の神で分けるとなれば……どれだけ復活に時間がかかるんだか」
「……切りがないわね」
もちろん、いつかは注ぎ終わるのだろう。
剣舞とは別に礼拝堂に神気を注ぎ込むこともあるし、リオンやリュシルへの相談も欠かさずに行っている。
「ミシャット様の復活まで、どれくらいかかるのかしら……」
「たしか、月鎖の神だったか? 具体的にどういうことをしてくれたんだ?」
「私たちの先祖を襲った魔獣を、ミシャット様の鎖で封じてくれたのよ……ただ、鎖はそのさいに失われた。だからそのことへの感謝もあって、私たちはミシャット様を崇めるようになった──と伝えられているわ」
「好い、神様なんだな。ティルを素体に似た鎖を創ったイメージがあって、そこまで好印象は持てなかったんだが……」
ティルがその結果に満足しており、かつて視た鑑定結果もそう悪く書かれていなかったことから、そこまで嫌いになれなかった。
ただ、さらにここまで言われるとな……俺だったら、誰かのために失うの嫌だし。
「復活させるのは別に構わないんだが……封印されてるってことは、たぶんお前の故郷だともう信仰されてないんだろうな」
「あら、ここでシリアスな話題? 聞いてるわよ、一度真面目な話をしてから甘い話に流すって」
「…………別に、そういうつもりじゃないんだけどな。というか、話に答えてくれ」
「そうでしょうね。シュリュの国も運営神とやらが干渉した、がら空きの国なんだからさぞ奪いやすいでしょうね」
信仰心は時間をかければ書き換えられる。
民のすべてが不老の国でもない限り、災いがいっさい起きない理想郷でもない限り、永遠に信仰されることなど無い。
「そもそも、国は残っているのかしら? 帝国に負けるとは思えないけど、いろいろとキナ臭いし……」
「まあ、ティルがそのときの様子を見て変えたいと思ったら、俺がティルの願う国にしてみせるさ。任せておけ」
「任せられないわよ。そのときは、私も元姫として戦い抜くわ」
「そりゃあ頼もしい。来世はシュリュと同じ英霊かもな」
実際、そんな気がする。
だってティルってカッコイイし。
「カッコイイって……女に向ける言葉じゃないわよ」
「けど、実際そう思ってんだよ。最高にカッコいいぞ、剣を握るティルは」
「そう……」
クールに俺から顔を背けるティル。
耳が揺れ動いていることは、内緒にしておいた方がいいだろう。
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