AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とアジト襲撃 前篇



 始まりの町

 なぜこんなことをしているのか、それは数時間前に遡ることもなく、特に理由は存在しないぞ。
 PKに悩まされる人々を救うべく(暇な)偽善者が立ち上がった! ただそれだけだ。

 思い立ったが吉日を実行し、作戦を考えて敵さんの一人を捕縛して尋問。
 黒鍵魔剣■■■■を参考に創り上げたアイテムを使い、見事情報を手に入れた。


「そして今、アジトへ潜入中である」


 プレイヤーが設けた拠点など、場所さえ分かれば侵入は容易い。
 時間帯を調整し、彼らにとっての深夜に突撃すればいいんだからな。

 ただ、それではつまらな……もとい後でいかようにも起きたことを改竄されてしまう。
 正々堂々と、全力を以って今回は事に当たる所存である。


「ここか……」


 そこは、ごく普通の場所だった。
 しいて言うなら裏道にある、地下に繋がる家屋といういかにもな場所だということが特徴だろうか。

 ──というか、そう見えるように工夫を凝らした隠蔽工作があった。


「まったく、この町で……というか、勝手にこういうことをするから悪いんだよ」

「ここが例の場所ですかい?」

「ああ、そうみたいだぞ」

「分かりやした」


 背後から突如聞こえてきた声にも驚かず、当たり前のように返事をしておく。
 すぐに声は掻き消えるが、再び空間の揺らめきと共にそれは戻ってくる。


「確認しやした。ここら一帯はどのようにしても構わないと、目標に制裁さえ与えてくれればとのことです」

「ここは建物全部なのか?」

「前の持ち主が死んでから、放置されていやしたね。そこを狙われたんでしょう」

「そうか……これ、お土産によろしく」


 手から重みが消え、再び俺独りとなる。
 場所が分かれば、こうしたアポイントメントを取ることを忘れずにやっておいた。
 誰かの縄張りで行動するためには、念入りな根回しが大切だからな。


「それじゃあ、やりますか」


 装備を変えて、俺だと分からないように。
 だけど『二つ名』がいずれ増えることを期待して、特徴的なアイテムを装備っと……。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 その日、『静寂』と自分たちを名乗る者たちが拠点とする建物が襲撃される。
 誰もその侵入に気づかず、気づいた時にはすでにそこに居た。

「…………」

「ん? おい、誰だお前」

「…………」

 入口付近で武器の手入れをしていた男が、その始まりを知る唯一の者だった。
 彼は建物に入ってくる男を、上から下まで舐めるように観察する。

 天象紋様が描かれた着物に身を包み、頭には編み笠を被った男。
 腰には二本の刀が右と左に拵えられているが、彼の両腕はそれぞれの肘を乗せるように組まれていた。

 つまり、攻撃をするまでに一瞬の隙ができる……そう彼は解釈した。
 そのような背景もあって、彼はすぐに報告するでもなく男を殺すことを決断する。

 ──侵入者を自分たちの拠点で殺すこと、それに躊躇いなど感じていなかったからだ。

「なあ、止まれよ兄ちゃん」

「…………」

 武器を強く握ってそう告げると、侍風の男は足を止める。
 そして彼の方を向くと、見えるように表示した透明な板に文字を出現させた。

[お前たちが静寂と名乗る者たちか?]

「へっ、だったら何だってんだよ」

[お前たちは暴れすぎた。個人で動くならともかく、徒党を組むのであればギルドに申し出るのだったな]

「なんで俺たちが、こっちの奴らが決めた法に従わなきゃなんねぇんだよ!」

 結局の所、細かい申請を嫌った者たちが集まってできたのが『静寂』であった。
 そういったことをやり始めたプレイヤーの中には、正規の手続きを行うものもそれなりにいる。

[……愚かな]

 男は左側の刀の柄へ手を伸ばす。
 彼はそれを見ると、すぐさま武技を使い高速で男に接近し──攻撃を行う。

「“廻戦槌カイセンツイ”!」

 凄まじい衝撃が建物に響く。
 それは男を狙う一撃であり、仲間たちに侵入者を告げる合図でもあった。

 避けれずに喰えばそれでよし、そうでなくとも地面に着けば衝撃が響く。
 彼らはあえて一人を入り口に配置することで、そういった連絡を取り合っていた。

[これで仲間が来るか。わざわざ出向かずとも迎えてくれるとは……殊勝な心がけだ]

「いつまで調子こいてやがる! テメェはここでお仕舞いなんだよ!」

 握り締めた巨大な槌を再び強く握り締め、勢いよく振り回す。

「──“波状槌ハジョウツイ”!」

[甘い]

 槌は再び大きな振動を建物に起こす。
 だが、今回は彼が望んだ通りの場所で発生したわけではなかった。
 男が抜いた一振りの刀、その刀身が鞘から解き離れていたからだ。

[銘をヒタチと申す刀だ。貴様のような者に使うのも惜しいが……致し方ない]

「お、俺の武器が……」

 槌は柄の辺りから綺麗に切断されていた。
 そのため頭部は予期せぬ方向に飛び、壁を破壊してこの場から消滅している。

[では、貴様の首を狼煙として開戦といこうか。なに、痛くはなかろう]

「……そ、そんなことできるわけないだろ。だ、だって死ねば死に戻りを……」

[そうはいかぬ。貴様らには、文字通り晒し首となってもらうが故]

 そして男の目に映るのは、己に向けられた鋭い一閃であった。


コメント

  • ノベルバユーザー263541

    語尾のござるいらなくね?

    0
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