AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者とアニワス戦場跡 後篇
アニワス戦場跡の攻略は、帝国の待望する悲願ともされている。
なぜなら、その先にある国に攻め入ることができていないからだ。
そのため近隣諸国は、アンデッドの被害に悩まされながらも決してそのすべてを浄化したいとは思っていない。
むしろ、アンデッドから取れる魔石を有効利用することを望んでいる。
そんなアニワス戦場跡だが、レベル四までであれば攻略が進んでいた。
レベル一であれば、新人の冒険者であろうと攻略が可能だ──聖水を購入し、振りかけるだけで済むからだ。
レベル二であれば、新人の冒険者たちが徒党を組めば攻略が可能だ──隙を見せた個体から聖水を振り撒けばいいからだ。
レベル三であれば、熟練した冒険者たちが徒党を組めば攻略が可能だ──聖職者が破邪の魔法を唱え終わるまで、時間を稼げばよいからだ。
レベル四であれば、一流の冒険者たちが徒党を組めば攻略が可能だ──聖具や魔具を揃え、高位の浄化魔法があれば時間をかけることで倒すことができるからだ。
そう、あくまで集団での攻略の場合はレベル四まで可能となっていた。
しかし、レベル四は単独での攻略は不可能とされており、レベル五に至ってはかつて英勇たちが挑み、敗れた地とされている。
──つまり、誰一人としてそこを攻略できたという記録がないのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
「──と、訊いていたんだけれど……文献がおかしいのかしら?」
「ふっふっふー、一流の者とは、そう簡単に表舞台には出てこないのだよー。ちなみに、アルカやユウならソロでも行けるね」
「やっぱり、ランカーは凄いのね」
ランカーが凄いっていうか、アイツらが異常すぎるというか……。
どちらも破邪対策はしているので、鼻歌交じりでもここを突破できる。
「メル、来ますよ!」
「うん、ほい来たー!」
現れたのは『テラーナイト』、と呼ばれる全身甲冑から瘴気を漏らすアンデッドだ。
禍々しい剣を引き抜くと、言葉で表しがたい叫びと共に吶喊してくる。
「“霊断”、“抜刀”」
破邪刀スキルの初期武技でアンデッドに対する特攻を得て、そのまま刀スキルの武技で斬り裂いた。
普通であれば、その身を包む固い装甲が斬撃を防ぐのだが……ティル師匠仕込みの抜刀術はそう簡単には防げない。
「ふぅー。これ、単体じゃないと上手く使えないから困るんだよねー」
「凄いですメル! かっこよかったです!」
「えっへん! これでマスターのお役に立てたなら何よりだよ!」
「……参考にならない闘いだったわね」
シガンの感想はもっともなものだ。
あくまで俺の技術はティルによって磨き上げられたものであり、並大抵のプレイヤーにすぐ模倣できるような代物ではない。
武技の補正を受ければとりあえずの再現は可能だが、固定された動きだと硬直の隙を突かれて殺される……って、こっちが武技を再現しているんだっけ?
「まあいいや──“異削風”」
遠くに見えたアンデッドへ向け、握り締めた刀で斬撃を放つ。
妖刀[飛鮫]、代償を支払う代わりにあらゆる斬撃に無限の射程距離を与える。
武技“異削風”の効果は、意識したもののみを削ぎ落す斬撃を放つ。
それを受けたアンデッド……たちは、いっせいに動きを止めて地面に倒れ込む。
「さっきから一撃なんだけど、どういうカラクリなの?」
「強力な武技を、代償を支払って広い範囲に使っているんだよ。もちろん、永続的な代償じゃなくて時間が経てば戻るものをね」
「……ちなみに、どんなものなの?」
「──レベル。一レベルで、百メートル範囲が増えるんだよ」
俺はレベルが高かろうと低かろうと、もうステータスの割り振りという恩恵を受けられないので別に問題ない対価だ。
吸い上げたレベルの分、妖刀が進化するシステムを搭載しており……最終的には神剣となる計画の下、生みだされた逸品である。
「レベルって……意図的に下げてスキルのレベルを上げたい人には、嬉しい妖刀でもあるのね。デメリットってあるの?」
「うーん、特に無いかな? しいて言うなら周りから、バフとか回復魔法が貰えなくなることぐらいだと思うよ」
「結構なデメリットじゃないの……」
「メルみたいな人にしか使えませんね」
ソロプレイヤーであれば、『孤闘者』の恩恵で能力値が三倍だ。
また、自分で使うのであれば問題ないので回復なども使用可能である。
「ところで、メルは先ほど何を斬ったのですか? たしか、しっかりとした認識が無いと斬れないんですよね?」
「簡単だよ、アンデッドはこの世界に魂魄が残っちゃったから居るんだから……その繋がりを斬っちゃえばいいんだよ」
「魂魄……魂のことね。けど、そういうのって見れるの? そういうスキルかしら?」
「……そうだね、魂魄眼って魔眼を使えば誰でも視ることができるよ」
実際にできるし、嘘は言っていない。
ただ事実と異なるのは、俺がそれを使っていないことだけだ。
命の輝きは、条件さえ満たせば誰だって視ることができる代物である。
──たとえば人殺し、その手で魂魄を奪い続ければいずれは観測できてしまうのだ。
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