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山田 武

偽善者と魔剣道中 その09



「──つまり、そのカープチノ家の活躍を妬む者たちによる犯行である可能性が高い……ということですね?」

「違うと思っていた。あくまでそれは、臆病な私の妄想であると……だが、それは今日違うと分かった。奴らが言っていた通り、外交国を動かしたのだろう」

「あれこそがフェイクであり、兵を動かすように手を回すことが目的、ということは?」

「無いだろう。長年の経験だが、彼らからは特有の訛りスラングを感じた。どこに属しているかは不明だが、少なくともこの国の出身ではないと思う」


 そう言い切る当主。
 日本で言うなら、どの都道府県出身か分かるようなものか……凄いな。
 そして今回、それは残念な現実を見抜いてしまうことになった。


「彼らはカープチノ家がどうなることを望んでいるのでしょうか? 正直、私にはそれが掴み切れません」

「戦争、だろうな。私は和平派を謳っているが、貴族のすべてがそうではない。間違いなく争いを望む者がいる。……残念なことに、王はあまり自分の意を持たない」

「配下を御することもできず、そのまま大多数の意見を政治に取り入れる。もっとも平和的な方法ですが、平和にはなりませんね」


 大多数の意見を取り入れれば、たしかに揉め事は少なくて済む。
 しかしその選択が、すべて正しいという証明にはならない。

 時には少数意見を組み込み、国にとって何が一番正しいのかを見抜く──それこそが本来の王の仕事である(byジークさん)。
 うちなんて、俺という超少数意見の下で動いているようなもんだしな。


「さて、貴方の娘さんは私の力を借りたいとのことですが……貴方にとって具体的な目標とはどうなるのでしょう? 偽善とはいえ、目標を重ねる努力はしますよ」

「……最良の結果は、貴族の数を減らすことなくこの問題を終わらせ、隣国との和平を取り戻すことだ。だが、そうでなくとも戦争だけは回避せねばならない」

「なるほど、理解しました」


 死を暗喩する言葉をそれでも出さない、それが外交官に必要な感性なのかもしれない。
 うちにそういう担当って無かったし、参考にした方がいいかもな。


「まず向かうのは王城、王族に事情をまず通しておく。そして、隣国へ向かい争いの火種となる問題を解決する」

「私はその護衛を」

「そうだ。刺客に襲われる危険がある以上、この身が潰えれば争いが起きる。報酬はいかようにも……この国を救ってくれ」

「お任せください」


 国を救うという偽善は、ある意味何度もしていることだ。
 これまでの経験に比べれば、護衛をするだけというのは楽な分類に入るだろう。


「感謝する……偽善者よ」

「偽善に礼など必要ありません。そこにあるのは、自己満足……それだけですよ」

「父上を頼みます」

「ええ、お任せください」


 刺客もある程度ならどうにかなる。
 魔道具で身を固めておけば、さらに安全度は増えるだろう。
 ……さて、偽善を始めようか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 この国の王──ホネット王は、当主の提案に戸惑った。
 そりゃあそうだろう、突然刺客に襲われたと言いだしたんだから。

 ──そして、彼の王様が誰かの意見を聞いた政治しか行えない理由も分かった。


「カープチノ公爵、どういうことか説明してもらいたい。われには何が起きているのか、まだ分かっていないのだ」

「……そのようなことを。国王よ、今こそ貴方の采配が必要とされております」

「そ、そうは言ってもだな……まずは貴族たちを集め、この件について話し合った方がよいのでは──」


 王座に座るのは子供だった。
 年齢と見た目が異なるわけでもなく、純粋に幼い精神を持っている。
 なるほど納得、逸脱した精神でも持たないとたしかに酷な話だろう。


「言ったでしょう。私を狙うのは、間違いなく貴族の者。彼らに問おうとも、それは偽りの意でしかないと」

「だ、だが……」

「たしかに命は惜しい、だがそれ以上にこの国の危機なのです。国王よ、今こそご決断をするとき」

「むぅ……」


 誰が教育係となったのか、そもそもどうして少年が国王となったのかは分からない。
 普通こういうときって、叔父とかがやるんだったけと思うような薄っぺらい知識では、干渉するわけにもいかないだろう。

 ただまあ、現状であることを好ましく思う集団が居ることはなんとなく分かる。
 単独犯であればソイツが王位をなり変わればいい、そうでないということは裏から操ろうと徒党を組んでいると推測された。


「──おやおや、国王に向かってその物言いとは……ずいぶんと偉くなったものですね、カープチノ公爵?」

「エスプーレソ公爵……どういうことだ」

「言葉の通りですよ、カープチノ公爵。王に物申すとはどういった了見ですか」

「……聞いていただろう。私は、外交官としての使命を果たすまでだ」


 突然現れた新たな公爵。
 ニヤニヤと当主を哂うと、そのまま足を止めずに王の隣に立つ……まあ、そっちの方が不届きなんだけど。


「王よ、実は先ほど連絡があったのですが、カープチノ家が謀反を企んでいるとの報告があったのです」

「なに、それは本当か?」

「ええ、コールザードより受けた連絡です。王よ、正しき判断を今こそ願います」


 うーん、面倒な展開になってきたな。
 このタイミングでこの展開……間違いなく面倒事の気配がしてきやがる。



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