AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魔剣道中 その01



「さて、何をしようか……」


 俺ことメルスは暇であった。
 ……いや、実際にはやること盛り沢山の状態ではあるが、可及的速やかにやらなければならないことがない、と言ったところか。

 赤色の世界、封印された魔本、運営神との戦い、そして……クラーレたちメルプレイ
 まあやるべきことはたくさんある、しかし最後の以外は眷属が協力してくれるので、そこまで俺が関わる必要が無い。

 そして、クラーレたちはなんだか用事があるようで全員は集まっていないそうだ。
 そのため自由行動、俺の出番はないのでそちらへ行くこともない。


「いや、本当に暇なんですけど」


 過保護な眷属のことだ、必殺のジャンピングスライディング土下座を決めればほとんどの者は遊んでくれるだろう。
 しかし主としては、さすがにそれはどうなんだろうというちっぽけな【傲慢プライド】がある。


「余計なことをすると、またトラブルが起きるし……凶運だから。けど、何かしないとこの暇は解消されない。いやー、どうすればいいんだよー」


 だがまあ、それでも考えた。
 できるだけ影響を及ばさず、そのうえで俺が楽しめるイベントをどう用意するか……。

 そして、閃いた。


「──サイコロだな」


  ◆   □   ◆   □   ◆


 適当に放り投げたサイコロが、俺のやることを示す。
 一度目はどこで動くのか、AFO世界と赤色の世界からピックアップした六ヶ所の中で選んでみた。


「そーれっと」


 思いっきり高く投げ、そのまま待つ。
 スキルは干渉しないし、その可能性があるスキルはすべてOFFにしてある。
 残ったのは凶運だけ……って、それが一番干渉してくる気がするな。

 だが、それを忘れさせるかのようにサイコロが地上へ戻ってきた。
 大きく地面にぶつかってバウンドすると、コロコロと床を転がってやがて停止する。


「出た目は三、つまり……ここか」


 まず、行く場所が定まった。
 暇潰しとしても、こうしてゆっくりと時間が過ぎていくのはなかなかにいいものだ。
 無粋に時を飛ばしたいだけであれば、体感時間を操作すればいいだけだしな。


「さて、お次は……やることだな」


 もう一度サイコロを投げ、同じように降ってくるのを待って出目を確認する。
 予め用意した紙と照らし合わせ、今度は向かった先での目的を定めた。


「最後に……縛り」


 一つだけ、トラブルを誘発しそうな選択をあえてチョイスしてサイコロを投げる。
 理由は簡単、自身に設ける縛りであればまあ問題ないかと思ったからだ。

 ──そして、凶運がこんな些細なことまで干渉してくるかどうかが分かるし。

 天に旅立ったサイコロ、やがてそれを終えて地上に帰還する。
 抵抗するように一度跳ね、抗うようにゴロゴロと地面で暴れ回る……って表現すると、なんだか別のことに聞こえそうだな。


「……うん、そうなるよな」


 やることは決まった。
 縛りによって必要とされた武具を、久しぶりに取りだして装備する。
 少々重い気持ちになるが、まあすでにやりたいことに関してはスイッチが入っていた。

 ──どこであろうと、偽善者の根本的な目的は変わらない。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 カランド平原


 時刻は夜、(不眠不休)のスキルもあるので俺には支障なく活動ができる。
 人目を避ける、という意味でもこの時間をセレクトしてみたのだ。


「ああ、街の明かりがずいぶんと遠くに……歩いたから当然だけど」


 ここはネイロ王国の北に位置する場所。
 過去の王都ルーンではなく現在の王都からそこへ向かった俺は、独り歩いていた。
 思えば、初期の俺が『分からず屋』として登っていった山の先、そこに在ったのがネイロ王国だ。

 冒険を楽しむ者であれば、先行して行った国で立ち止まらずそのままもっともっと奥へと探求心を磨くべきだったのだろう。


「原点回帰、偽善者らしく他の者たちのために開拓をしておいてやろう。ああ、なんだか懐かしい気分だ」


 シンフォ高山から登ってもよかったが、あちらはプレイヤーが満員御礼なので渋々諦めることにした。
 だがこちらはある理由から、そう多くの人がいないのである。

 ──北って、単純に強いんだよね。

 東西南北の中で、地上においてはなぜか北がもっとも強い魔物を生みだしている。
 海とは比べものにならないんだが、あれはもともと大型の魔物が前提条件なわけなので例外としておこう。



 ちなみに、今の俺の武装だが──剣を一本腰に差しているだけだ。
 それだけでも充分に戦えるのだが、どうせなら色物として入れておいた神剣を当たりとして出してほしかったかもしれない。


「さて、魔物はどこかな~?」


 王都南の草原ですら、魔子鬼デミゴブリンの上位種が出てくるような場所だ。
 より北に位置すれば、さらに優秀で凶悪な魔物が出てくるのも当然のこと。


「えっと……『ブラックウルフ』、つまり黒い狼だな」


 しいて言うなら、闇魔法も使えるというのが押し文句な魔物だろうか。
 数ヶ月前に闇の他に泥も操る狼ダークマドウルフを見たことがあるので、そこまで凄さを感じない。

 そんな黒狼が三体ほど、闇夜に紛れて俺の下へ現れた。
 殺意剥き出し、:言之葉:を使わずともなんとなく伝わるその感情……飯を上げればテイムできる、なんて状態じゃないな。

 ならば、武器を使う時か。
 腰に提げた剣を──引き抜いた。



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