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山田 武

偽善者と転移魔法開発 後篇



 使用時間が終わった“風移渡乗アクロスムーブ”。
 自然と俺の体は地面に足を着き、再び重力の感覚が俺に圧し掛かる。

 そしてそのまま、二人にこの魔法の感想を求めてみると──


『転移じゃ(ねぇだろ)(ないね)』

「まあ、そうなんだけどさ。あくまで移動手段としてはどうだ? 今回は下級精霊の微風で飛んでみたが、それが上級精霊や聖霊級の風の使い手だったら……」

『耐えられ(ねぇだろ)(ないでしょ)』

「普通の人はな」


 こっちの世界でしっかりと肉体強度VITと三半規管を鍛えておけば、たぶん大丈夫だ。
 強化魔法でその感覚を両方とも底上げすることもできるし、そうでなくとも単純に能力値が高い奴は扱えるだろう。


「それじゃあ、次に行ってみようか。今度は土だ。これの理屈は分かるか?」

「まだやってもねぇのにか? ……星の方を動かすとかか?」

「……さて、この魔法は地続きであることを使った魔法だ」


 おい! という怒りの声は無視して作業を始めていく。
 目印を刻んで準備を整えると、詠唱してその魔法を発動する。


「──“土繋直向ランドシフト”」


 何度もやり慣れた転移の感覚。
 突然視界が切り替わり、成功を表す。


「これの利点は、どこにでもある地面を媒介にした魔法だってこと。欠点は……真っ直ぐ進む影響もあって、途中で許容できない罅でも入っているとそこで止まるってことだな」

「ああ、これなら文句はねぇ」
「あとはそこら辺を直すだけだね」

「いや、それが一番大変なんだけどな」


 やるのは眷属だが、それでも工夫には時間が必要となるだろう。
 一度整備し直してから、なんてやっていてはつまらないだろうし……どうしようか。


「お次は光──“光速転下マッハディスプレイス”」


 周りに光の粒子が纏わりついていく。
 一歩進んだだけで凄まじい距離を進み、走るとそれ以上に真っすぐ突き進む。
 体に重みはいっさい感じず、まさに光がごとき速度である。


「まあ、魔力を籠めればそれ以上の……それこそ光の速さそのもので移動もできる。ただそれって、首が飛ぶからな」

『死ぬよ(な)(ね)』

「しっかりと肉体強化を行って、そのうえで風除けをやっておけば大丈夫だろう」


 思いっきり地面を蹴れば、それこそ空まで行けるのがこの魔法の恐ろしいところだ。
 光速移動、これは制御できないところが現在の問題点である。


「何か問題はあるか? 速度で肉体が滅ぶ以外でだけど」

「一番それが問題だと思うんだが……他を挙げるとすれば、やっぱ派手なところだな」
「うん。それに、その状態って攻撃のダメージとかどうなってるの?」

「粒子は纏っているだけで、同化はしていないぞ。物理は普通に通用する」

「土もそうだけど、問題は行く方向が二度目にはバレちゃうってことじゃない?」


 ああ、そんなパターンがあったな。
 相手の軌道がバレバレで、添えるように当てて倒すとかそういうヤツ。
 小刻みに変更可能にしておくか、繋ぎの間であればキャンセルが可能なようにしておく方がいいか。


「まあ、別のもやっておこう。次は闇の移動なんだが……ちょっと準備が要る」


 今度は闇の精霊に頼み、暗い場所を数か所用意した。
 その一つに乗って、魔法を準備する。


「──“闇幕渡行モバイルカーテン”」


 発動すると、陰となっていた部分が薄く広がっていく。
 やがてその一部が別の場所にくっつくと、俺の体は別の場所に移動する。


「これは陰がマークだから、移動角度は自在に調整できる。魔力があれば伸ばせるし、その先に陰があればちゃんと向かえるぞ」

「問題は無さそうだが……」
「けど、何かあるんでしょ?」


 問題ありの前提で言わないでほしいよ。
 発想を浮かべた時点で不味すぎるアウトな点は削いでいる、それでも見つかるミスを今修正しているわけだ。


「しいて言うなら、陰を消されたら強制解除という点か? 没段階だと、そこで体が止まる仕様だったな」

『アウト』

「だからそこはすぐに直した。消費する魔力に余裕を持たせて、強い光が来たらその分で脱出をするって具合にな」


 移動する場所が平面ならまだしも、壁や地面だったときなど目も当てられない。
 だからこその緊急脱出、完全に陰が消えようとも自分の小さな陰でどうにか逃げられるようにしてある。


「最後は無だな……これは単純に、距離を無効化する。一番転移って感じがするぞ」


 媒介も必要とせずに、魔力を対価として支払うだけで発動可能なこの魔法。
 本当、一番考えつくのに苦労したよ。


「──“距点無至《ポイントカット》”


 やっていることはシンプル、移動しようとする行動すべてを端折っているだけ。
 過程をすっ飛ばして、目的地に着いたという結果だけをもぎ取る法則無視の魔法だ。


「まあ、そんな感じだが……どうだ?」

『…………』

「先に言っておくが、コスパがひどいとかそういう問題も無いからな。これだって、自分が行ける範囲でしか使えないんだからな」

『えーーー!』


 問題作ばっかりじゃないんだよ。
 俺だって、たまには使えるものを創れるんだと証明できた気がする。


「さて、この七つの魔法をよりよくするためのアイデアを、二人には頼みたい。日本人らしく、地味なヤツをな」

「ああ、分かったよ」
「うん、任せて」


 改良したとして、縛りが無ければ転移眼を使うんだけどな……あれ、本当便利すぎる。



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