AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と帝国散策 その11
『──さぁ、盛り上がっていきましょう!』
厳粛なオークションなどやらないようだ。
赤色の世界と異なり、見た目麗しい女性が司会でそのイベントは始まった。
最終的にアイリスからロボットやプログラミングについて教わっていた俺は、いったん作業を止めて舞台の方を拝む。
『掛け値の何倍の額で買いたいのか、その旨が表示できるように魔道具が用意されています。ある札は一から十、その倍率以上も以下も認めませんので、紳士の皆さまに節約なんてことはさせませんよ』
あっちは数字を入力できる制度だったんだが、こちらの方が劣っているのだろうか。
まあ、転生者や転移者の時代発展などにも理由があるだろうし、甘んじて受け入れる必要があるかもしれない。
『まずは貴重なアイテムの販売です。飲めば病も負傷も完全完治、万能薬のご紹介……』
といった時点で聞くのを止めた。
前回のように闇雲に買い漁るような真似をすると、どうなるかを身を以って知っているからな。
ちらりと一瞥した舞台の上では、スタッフが運んできたアイテムがお披露目される。
「アイリス、欲しいのがあったら落札してくれていいからな。俺も後半戦はやるけど、今の時点で手が伸びるのは……なさそうだ」
「メルスに頼めば、だいたい作ってもらえるし……あの万能薬ってたしか、ダース単位で量産していたよね?」
「まあ、まだまだ上位の薬があるからな」
一時的に不老不死になるアイテムなど、自由性の高いこの世界にはまだまだレアなアイテムが存在する。
飲まないと病気や傷を治せない薬以上に、優秀な物はいくつも存在するのだ。
『続いて、魔剣すらも弾き返したドラゴンの逆鱗を──!』
「要らないな」「要らないね」
魔物の素材に関しても、似たようなもの。
迷宮で作れば好きなだけレア素材が回収できるし、魔剣どころか聖剣や神剣であろうと弾けるドラゴンの鱗を持っているので、まったくと言っていいほど必要ない。
『──500万Y! まさかの大盤振る舞いです! ドラゴンの逆鱗は、143番さんがお買い上げです!』
「メルス、ここって何番?」
「13番だな」
「……チェーンソーとか無いよね?」
金曜日じゃないんだし、そもそも別作品のパッケージ画だったんだよな。
微妙なパラレルだが、アイリスの世界では仮面の男がチェンソーを振り回していたのかもしれない。
『続いてはこちら──遺跡より発掘された、自動人形でございます! 見た目麗しい少女型、永遠に年を取らない愛玩具です!』
「…………」「…………」
俺たちの視線は互いに向けられた。
ゆっくりと視線が動き、今度は札に注目。
アイコンタクトで想いを交わし、納得し合うように頷く。
『──30万Y! 13番さん、落札ありがとうございます!』
「「イエスッ!」」
ハイタッチし、喜びを分かち合う。
要らないなんて選択肢は存在せず、弄りまわす楽しみに満たされていた。
アイリスは情報工学的な観点から、人形を欲している。
俺は単純に自身の【強欲】から、人形を欲していた。
まあ、理由はともあれ欲しいということに違いはない。
ちゃっちゃと札に手を伸ばし、人形を落札したわけだ。
「メルスに渡してもお手つきになっちゃうだけだし、先にワタシに貸してね」
「……ア、アイリスに頼まれちゃしょうがないな。うんうん、俺に構わず好きなように調べてくれよ」
「そう? ありがとう、メルス」
ニコリと笑顔で言われるが、なんだかそのままの意味で受け止められなくなる会話だ。
実際、自我の植え付けやチャルには使えなかった機関のサンプリングなど、やれることはそれなりにあるんだけどな。
「しかしまあ、だんだん欲しい品になってきたな。遺跡の発掘品か……迷宮との違いは、たしか全体の魔力濃度だったか?」
「そうらしいね。遺跡自体にそういう機能があるのか、それとも迷宮がそうなるシステムなのか……どっちなんだろうね」
次々と並べられる遺跡産の品を、俺たちは落札していく。
別に地球の品があるというわけではなく、この世界における現代で使われていないような、特殊な技術が用いられているだけだ。
だが、それ故に調べ甲斐がある。
遺跡がいつの年代かによるが、運が良ければ神代の遺跡も見つけられるかもしれない。
神代の遺跡は、特に迷宮化する確率が低いとか誰か言ってたような本に書いてあったような……まあ、そういうことだ。
閑話休題
お小遣いを使い潰して暴買いしているが、まだ全体の一割も使っていない。
コロシアムの全賭けで手に入れた儲けもあるのだが、それに加えてもう一度だけ挑んだポーカーがイイ稼ぎになった。
「さて、次はなんだろうな。目的のアレが来るまでに、全部を使い切るってのも案外いいかもな」
「それって、どれだけ無駄な物を買わなきゃできないことなのかな?」
「まあ、無駄にしないように工夫はするつもりだけ……ど、な……」
「どうしたの?」
アイリスが俺を追うように見た場所、それは舞台の上に出された逸品。
遺跡から発掘されたという──美しい意匠が施された一冊の本だった。
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