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山田 武

偽善者と赤色の旅行 その13



「……どうやら満足していただけたようで、私も嬉しいですよ」

「たしか、砂糖って…………そ、それって物凄く高いんじゃ!」

「ああ、お気になさらず。私の居た国では、すでに安く売られていますよ。もちろん、そうでなくともお譲りはしていましたが」

「……本当かよ」


 おっと、少し余計な発言をしたせいかまた信頼を失った気がする。
 ガーの方はとっくに子供たちに馴染んでいるんだが、俺はお菓子を配らないと一時の人気も得られないんだよ。


「まあ、その件についてはおいおい話し合うとしてです。君たちの住む場所は、どこにあるのですか?」

「ここから東に行った街の孤児院だ。けど、どうしてそんなことを!」

「まあまあ、落ち着いてください。えっと、そこには銀髪のシスターが居ますか?」

「おい、なんで知ってる!」


 シヤンが詰め寄って、俺の服を掴もうとするが……瞳を一瞬輝かせると、俺の居る場所は少し離れた位置となる。
 突然俺がいなくなったので、勢いが止められなかったシヤンは、そのまま不思議そうな顔をして地に手を着く。


「なぜって、視たからですよ。そしてこれもまた、視た結果です」

「はぁ? 何を言って」

「──さぁ、孤児院に帰りましょう! 銀髪シスターがみんなを待っています! 帰りたい人は、手を挙げてください」


 俺を疑っているが、それでも帰りたい気持ちは先の出来事で高まっていたのだろう。
 シヤンを除く全員が手を挙げ、それを声に出して猛アピールしていた。


「ちょ、ちょっと待て!」

「はい……どうかしましたか?」

「助けてくれたことには……その、か、感謝している。だが、それとこれとは別だ! 信じられねぇ、どうやって帰るんだよ!」

「それはもちろん、転移ですが?」


 それが悪いんだよ、と言わんばかりに指で俺をビシリと指し示すシヤン。
 子供たちの方で一瞬、魔力が溢れた気がするが……振り返ってもそこには、綺麗なスマイルを浮かべたガーしかいなかった。


「転移なんて伝説級の力、使えるわけねぇだろ! 百歩譲って使えたとして、本当に俺たちを帰してくれるか分からねぇ!」

「なるほど……たしかに、君の意見はもっともなものです。しかし、それでも私は信じてもらいたいですね。今も銀髪のシスターは、皆さんの名前を呼んで泣いていますよ」


 仕方ないので閃光眼を応用し、その様子をできるだけ再現して投影してみた。
 すると効果は覿面、子供たちがシヤンに早く帰りたいと宣言し始める。

 まあ、帰るべき場所と被保護者を見たのだから当然の反応なんだが……。


「みんなー、家に帰りたいですかー?」

『うん!』

「そのためなら、少しだけ何が起こるか分からなくてもいいですかー?」

『うん!』


 なんだかクイズ大会みたいなノリになっているが、そこは気にせずにいてもらいたい。
 物凄く不満そうなシヤンが俺を睨み付けるが、そちらは無視して伝えておく。


「分かりました。それじゃあ、私……では怖いと思いますので、私と手を繋いだガーにシヤン君が手を繋いでください。それからみんなでシヤン君かガーと手を繋ぎ、繋いだ子とまた別の子が手を繋いでください。そうすることで、いっしょに転移できますから」

「では、シヤンさん……手を」

「あ、ああ……」


 ガーの天使の笑みを受けたシヤンは、抵抗力を失いそのまま言われるがままに手を繋ぐことを選んだ。
 子供たちは二人の元にいっせいに集まり、仲良く手を重ねていく。

 もちろん、俺の所には誰も来なかった……良いんだ、実は一人ぐらい来てくれるかなと期待なんかしてないんだもん。


「……飛びますよ。皆さん、帰りたい場所を強くイメージしてください。眼を開いた時、そこが皆さんの居場所となります」


 ギュッと瞳を閉じ、何かを念じるように唸り始める子供たち。
 その様子を俺とガー、シヤンで確認してから──俺も作業を始める。


「では、帰りましょう──お家へ!」


 座標は先ほど確認した。
 対象は全員俺と間接的に接触している……条件は満たした、転移を行おう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「みんな!」


 子供たちが期待した声だった。
 俺たちの目の前には、さっき投影した銀髪シスターが存在する。
 一瞬状況が掴めなかったようだが、すぐに理解して走りだす。


『シスター!』

「ええ、そうよ。本当に良かった……探しに行ったシヤンも帰ってこないし、一時はどうなることかと思っていたのよ!」


 感動の再開を邪魔するわけにはいかないので、俺たちはそっとここから離れ……ようとしたのだが、手を握られて動きが停止する。


「どうしましたか、シヤン君?」

「……あ、ありがとう。アイツらを連れて歩いていたら、どんだけ時間がかかったか分からねぇ。その……疑って、ごめんなさい」

「君は子供たちの代表者です。どれだけ人を疑おうと、自分の弟と妹たちを守ろうとする方が大切ですよ。君はみんなのことを、大切に思っているのでしょう?」

「あ、当たり前だ!」


 その当たり前が無い地球だからこそ、俺のモブ思考は偽善を求めたのかもしれないな。


「君がいつまでも、そうしてみんなを守れるような子であってほしいです」

「あっ……」

「よしよし、よく頑張りました。君は本当に勇敢だった。私が保証します、立派に子供たちを守れていたと」

「うぅ、うっ……うぅ…………」


 顔を埋めるシヤンを、俺は何も言わずに左手で背中を摩り続けた。
 このとき右手で頭を撫でていたのだが、これはリーンの子供たちへの対処法を思いだしてしまったのが原因だな。

 嫌がる子もいるだろうし、こういったとき以外はできるだけ控えておかなければ。



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