AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と聖霊訓練
夢現空間 自室
「あー、やっぱり我が家が一番だな」
《メルス様の我が家は、こちらでしたか》
「他にどこかあったっけか? うん、少なくともこっちの世界に」
《ご自身でお築きになられた、例の城が有るではありませんか》
天空の城、か……。
初期の俺が【生産神】の力を振るい、強引に生みだした空飛ぶお城だ。
錬金術でそれっぽい品を創って、どうにか魔法と合わせて空へ飛ばしたな。
「まあ、今となっては懐かしいけど……あそこは別荘、こっちが本宅だよ。あっちは一人で使っていたし、客人も来なかったからな」
第四世界──迷宮都市ラントスとは違う、観光客と侵入者のために生みだした迷宮。
その出口は天空の城と繋がっており、現れた者たちを出迎えるのだ。
だがしかし、観光客が来る前に俺が地上に赴いているし、侵入者なんて俺が召喚した時ぐらいしか現れない……平和なんだよな、俺の世界って。
「まあ、それでもいっか。アン、近頃の様子はどうだ?」
《メルス様を夢の中で求める者が──》
「うん、そういうことを聞きたかったんじゃないんだけどな」
《では、魔導をお使いになってください》
渋々ながら承諾すると、アンの声が少し嬉しそうになった気がする。
あえて回数制限を設けているんだが、そうして良かったと心から思う。
男性と女性では滾る欲望の強さも頻度も異なるとは聞いていたが、男の俺からすれば驚く我慢強さだ、と感じたことがある。
その分一回にかける想いは強いが、それ以上に夢の中でなら勤勉な息子が八面六臂の大活躍なので今のところ不満は上がってない。
閑話休題
「そういえば、今回のGMと遭遇しなかったよな。てっきり突っかかって来ると思っていたんだが……」
《様子見、でしょうか?》
「さてな、どうだろう。いずれにせよ、来たらレイさんに即ヘルプコールしよう」
カタログがあれば、そのタイミングで接触してくると思うんだが……前回の海イベントと今回の育成イベントは、カタログ云々の報酬設定はされていないのだ。
あくまで全体報酬、そして特殊行動による褒美として個人報酬があるだけ──選択の余地はいっさいない。
「あとは……何かあったっけ?」
《特に報告すべきことはございません。メルス様の世界は、今日も平和ですので》
「そうか。やっぱり平和が一番だよ」
本心から思う、平和が続きますようにと。
偽善を行いたいからと言って、引き起こすようなことはしなくてもいいのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
修練場
『むー、きびしー!』
ナースが“虚無”を連発しながら、根を上げようとしている。
その一つ一つが莫大なエネルギーを内包しており、とてつもない圧迫感を放つ。
「ナースン、自分の属性魔力だけを意識しないの。周囲の力を感じ取って」
『おー!』
「うんうん、そんな感じ。外と中、両方から同時に取り込むんだよ」
『お、おー!』
純粋な聖霊たるユラル先生による、聖霊口座が行われていた。
地中から現れた無数の樹の根っこが、ナースの生みだした虚空の魔力に当たる。
そして、根っこはその一撃を受けきることなく砕ける──だが、巧みに操作された根はその前に仕事を終え、魔弾たちは天高く舞い上がり爆発していく。
「たーまやー」
「かーぎやー、と言えばよろしいのでしょうか? 我が王」
「そうそう、地球で有名だった二つの花火職人の家系に敬意を込めるんだぞ」
「仰せの通りに」
俺の隣で、ともに花火を拝めるドゥル。
いつものように青い鎧を身に纏い、二本の剣を腰に携えている。
本来であれば、ユラルと共にナースを鍛える役割を任じていたんだが……俺のせいというか彼女自身の問題というか、聖霊としての力を教える役には向いてなかったのだ。
そんなこんなでやることがないドゥルは、俺と花火っぽい爆発に声をかけている。
「ところでさ、ドゥル。結局聖霊の聖霊たる部分って何なんだ? 精霊については少し勉強したつもりだが、そっちはまだまだ学習が足りなかったみたいでな」
「私もまだまだ精進が足りず、自身の力すら完璧に理解しておりません……そのような私で、よろしいのですか?」
「まだ引きずってるのかよ。その責任は半分ずつだって、さっき決めたばっかりだろ?」
「いえ、しかし……ですが!」
正確には俺が九割ぐらい悪いんだがな。
ドゥルに武具庫の管理を任せていたのも、聖霊としての力についてユラルに教わるように指示していなかったのも俺なんだし。
だが、それでドゥル自身が満足してくれなかったので半々に……というのが理由だ。
そのため、俺には言葉で説得することもできずに行動で証明するしかない。
──変な理論だが、とりあえずの手段が今は必要なんだ。
「それなら、いっしょにユラルに訊きに行こうぜ? ほら、『百聞は一見に如かず』とか『聞くは一時の恥知らぬは一生の恥』といった言葉もあるからさ」
「……そう、ですね」
「今はナースの勉強の時間だし、ユラルの時間に余裕ができたらな?」
あまり反応の薄いドゥルの背中を摩り、二人の訓練を見届ける……鎧越しだけど。
俺もちゃんと、理解を深めないとな。
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