AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント完結篇 その04



 虚構の世界は生命に満ち溢れた……とりあえず、見かけ上は。
 方舟の上から高々に叫んでいた男も、その急速な変化に目を回しているかもしれない。


「さぁ、踊れ精霊たちよ!」


 憑りつけるアイテムは多岐に渡り、生物型から武具型まで多様だ。
 精霊たちは自分たちの好みに合わせた器に入ると、その外身を動かすことで敵対している魔物たちと戦っていく。 


「古き遺物よ、貴様の底はここなのか?」

「……言わせておけば」

「貴様の過ちは多い。俺という崇高な存在を否定し、愚かにも偽りの魔王を名乗ったその罪──その身で贖うのだな」


 器の中に入ろうと、精霊の本質は変わらず魔力特化の存在だ。

 器の中を巡る魔力を循環させ、駆動させることで部品は動く。
 魔法を解放すれば、通常の生物とは異なる場所から不意打ちのように解き放てる。

 魔法反射能力を得ていた魔物だったが、物理攻撃を得た精霊たちの攻撃はあっさりと魔物たちの体を貫いていった。


「愚鈍な亀同様、魔法にしか対策ができないようだな。それにその権能、新たなモノを喰らえばよいというわけではなかろう」

「隠していてもしょうがないようだね。しかし、たとえ仕掛けが分かろうと君の敗北は変わらないよ!」


 おそらくだが、キャパに限界が訪れる。
 魔王の権能は便利だが、自分以外まで完全にバックアップできるほど全能では無い。
 仮にスキルや性質を付与する類いの権能だろうと、魔物すべてに同一の力を与えるとなれば複数は無理だろう。

 えっ、精霊魔王の権能? ……強化系だ。


「現れよ、方舟の搭乗者! ──魔王の権能よ、彼の魔物を喰らい私の糧としろ!」

「……懲りない男だな」


 一瞬だけ現れた魔物を速攻で喰らい、魔物たちに付与された能力が書き換えられる。
 戦いを観ていれば、それがおそらく物魔耐性的なものだと理解できた。


「中途半端な力で……この精霊魔王たる俺を虚仮にしているのか!」


 心にもないことを適当にうそぶき、周囲の精霊たち全員に魔力を注ぎ込む。
 さらなる強化の恩恵を受けた精霊たちは、凄まじい勢いで魔物たちを屠っていく。

 魔法反射のままであれば、もう少し善処できただろうに……どっちつかずの耐性にした分、両方を用いた攻撃でトドメをさせるようになったからな。


「その愚行は貴様の罪を重ねた。償いも贖いも、貴様には不要だったか」

「最初からそう言っているんだけどね……」

「そうか──“虚無イネイン”」


 配備していた虚空のエネルギーを並べ、ある物を模らせる。
 かなりの魔力を消費する……はずだが、適性を持つナースの影響なのかかなり効率よく生成できた。


「……君こそ、バカにしているのかな?」

「何を言っている。貴様のような遺物に、今の世にあるべき物を示しているだけだ」

「こんな玩具の舟を、君は同じだと言いたいのかい?」

「無論、そういっているつもりだが?」


 子供がお風呂に浮かべるような、アヒル型の小さな舟(?)を並べてみた。
 さすがに鳴き声を機能は無いが、水面を揺蕩うようにプカプカと宙に浮いている。


「ふむ、どうやらお気に召さなかったようだな……まあいい、その真価は貴様自身が味わうべきことだ」


 行け、という指示に合わせてアヒルたちはスイスイと宙を泳ぐ。
 道を外れているモノやそもそも反対方向へ進む個体も居るが……ナースのイメージも混ざった具現化だからかな?

 その気になれば強制的な進路の修正も可能だが、何が起こるか分からないのも余興だ。
 真面目なアヒルも十体ほど居るので、そのままを維持しておく。


「現れよ、方舟の搭乗者!」


 怒りが魔力を高めているのか、数・質ともにこれまででもっとも上の呼びだしだった。
 アヒルの肉壁にでもするためか、あまり強くなさそうな魔物も出現する。

 だが、やはり強い奴もいるわけで──


「魔王の権能よ、彼の魔物を喰らい私の糧としろ!」


 再び発動した方舟魔王の偽りの権能。
 対象は幽体のナニカ、怪しい影のような魔物が姿を消すとその力がすべての魔物たちへ与えられる。

 まあ、幽体のもっとも目に見える効果とも言える物理無効は精霊に意味をなさない。
 魔法による攻撃は当然当たるし、魔力を籠めた器をぶつけるだけでもダメージが出る。


「っ……! そういうことか」

「精霊はたしか、倒しても蘇る。それは星脈との接続が原因だったね……だから、そこを断ち切る」

精霊喰らいエレメントイーターか!」


 細かいことは省くが、【邪霊魔法】で創造できる魔物の一体である。
 能力はシンプルに、精霊を喰らうことで自身の能力値を永続的にブーストすること。

 精霊の格に応じて、上げられる限界もあるのでそこまで強くはならない……本来は。


「ハハハハハッ! これで終わりさ、精霊魔王! 精霊を操る君の天敵、この力をすべての魔物が使ったらどうなるのかな!!」

「…………」

「君はよく頑張ったよ、だけど私に時間を与えたのが最大の敗因さ。君のことは権能を通じて忘れずにおこう……さぁ、すぐに楽にしてあげよう」


 魔物たちが飛び交うアイテムに触れると、器が唐突に力が抜けたかのように墜ちる。
 ピクリとも動かず……中身せいれいが抜けていた。



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