AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント終盤戦 その17



「ここが……中枢なのか」


 屋根があるはずなのに光が降り注ぐ、まるで神に祝福されているとでも言いたげなその場所でボソリと呟く。
 まあ、こんな感じの演出を起こせる魔法陣があるのでおそらくそれだろうけど。


「──“魔法破壊マジックブレイク”」


 無精霊に注いだ膨大な魔力を以って、強引に見つけだしたその術式を破壊する。
 すると光はフッと消え、周囲は少し暗くなる……そして、神殿の柱に取り付けられた鉱石のような物に明かりが点く。


「方舟と言うのであれば、操者の一人や二人居るのではと推測していたのだが……読みが外れたか?」

「──そうでもないよ、そこの君」


 俺の声に出していた疑問に答えてくれたのは、ちょうど光源が再度点灯した俺たちの反対側となる場所に現れた者だ。

 白いトーガっぽい長い布を身に纏った、この世界の聖人のように真っ白な髪を持つ男。
 武器の類いは持っておらず、膨大な魔力を内に秘めていた。


「私の名前は──」

「やれ、コルナ!」

『わ、わかったわ!』


 自己紹介をしている相手に向けて、コルナは全属性フル全魔力バースト全開放出アタック
 魔法の雨霰が降り注ぎ、やがて男の周囲は立ち込める煙で視界を確保できないほどに荒れ果ててしまう。


「隠れてないで出てこい、まだ終わっていないのだからな」

「……始まってもいない、の間違いではないかな? 今を生きる君たちは、こうもせっかちになっているんだ……嘆かわしいよ」

「ふんっ、貴様は知らないようだな。時間とは、誰にでも等しく与えられるもの──などではない。故に人とは生き急ぎ、足掻こうとするのだ」

「それが今の定義なのか。なるほど、よく覚えておくよ」


 パンパンと埃を払うように服を叩いているが、魔力の膜で自分を守っているんだから何も付いていないだろうに。
 隣でコルナがショックを受けているが……まあ、ノーダメージなんだからお察しする。


「改めて自己紹介だ。私の名は──」

「行け、ナース!」

「君は学習というモノを知らな……っ!?」


 調子に乗っているのは、間違いなく俺なんだろう……だが、それでも勝たせてもらう。
 コルナと同等の威力と誤認していたナースの“虚無イネイン”によって、奴は強烈な一撃と共に開戦することになる。





 フルバーストしたコルナ、同じく溜めが面倒な一撃を放ったナース。
 二人を後方に下がらせると、縛り中でも使える水晶が嵌め込まれた長杖を握り締めて前に進み出た。

 男がようやく、視界に映ったからだ。


「ほぉ、服が汚れているではないか。今度は叩かなくてもよいのだな?」

「不意打ちとはいえ、まさかこれほどまでの力を持つ一撃で圧倒するなんて……いったい何者なんだい?」

「ふっ、ならば答えてやろう」


 意味もなく外套をはためかせ、精霊たちに演出を手伝ってもらいながら──騙る。


「俺こそは精霊魔王! 精霊王を超えし者、また聖霊すらも配下に並べし王の中の王! 俺の名において、貴様を滅ぼしに来た!」

「魔王? 君たちの世では、そのような存在が蔓延っているのか……なるほど、つまりは厄災の一つなんだね?」

「否、断じて否だ! 貴様こそが厄災、今の世に神より逃げ去る必要などない! 何をするでもなく、ただ役目を終えた古の舟は廃材とでもなれ!」

「……いつだって人は愚かだ。だけど、私はそれすらも愛そう。それこそが、私に与えられた使命であり祝福さ!」


 男が気持ち悪い……とまではいかないが、人類愛を謳ってクネクネとする動作は若干引いてしまう。
 後ろの二人からも、言葉には出さないが不快感が漏れ出ている。

 それを口にしないのは、男がそれなりの魔力量を誇る強者だからだ。
 鑑定眼が無いので詳細は分からないが、曲がりなりにも優秀な存在なんだろう。


「では、始めようか──この舟の解体を!」

「そうはさせないさ……現れよ!」


 精霊たちが放った無数の魔法。
 男が何かをすると、魔法を飛ばした先を守るように魔物たちが現れては肉壁となってそのすべてを受けきる。


「船客を使うとは……船長としては不適合な輩であったな」

「もちろん、私は船長ではないからね。載せることは約束したけど、乗せるかどうかはあくまで私次第さ」

「本当に廃材ではないか」


 じゃじゃ馬の舟版、ただし落とされると確実に死ぬという嫌がらせでしかない存在だ。
 上手く乗りこなすかあるいは潰すか……どちらにしても、肉壁召喚をどうにかしないと実行は難しいな。


「──“精霊変質チェンジエレメント”」


 集めた精霊の属性を変え、すべてを火属性にしてから。


「──“合精霊創造クリエイトエレメンタル火炎蜥蜴フレイムサラマンダー”」

「上級精霊……いや、下級精霊たちが上級精霊を模しているのかな?」

「行け、吐きだせ」


 俺から集めた魔力を火力に変換して、灼熱の息吹を吐きだす火炎蜥蜴。
 当然のように肉壁で防ぐのだが……コイツは馬鹿らしく、また防御を突破された。


「んなっ!?」

「俺は精霊魔王と言ったではないか。王たる者、配下の力を高めることなど児戯にも等しい……過去の遺物など燃え尽きてしまえ」

「貴様ぁああああああああああぁっ!」


 俺の煽りがウザいのか、それともコイツの煽り耐性が低いのか……後者だな。
 まあ、そんなわけで第二ラウンドの始まり始まりー。



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