AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント終盤戦 その03

「ああ、やはりそうなったか」


 ナースと機人族の者が勝者となり、本選へ勝ち進むことが決定した。

 魔力を持つ者すべてに働きかける、ほぼ固有だろと言ってもいいほどに強力なスキル。
 そんな(魔力征圧)があれば、このような結果が生まれようと致し方ない。

 最近の調査によれば、機械系の種族は魔核から魔力を取り込むタイプと生物の構造を模した吸収機関が組み込まれたタイプが存在しているという情報がある。

 前者は簡単、電力の代わりに魔力を使って動かしているということだ。
 後者も簡単……というわけではないが、いちいち生物を殺して核を集めずとも活動を維持できる。


「ナースの(魔力征圧)は他者の魔力の波長を強制的に自身のモノと近づけ、扱いづらくする……機人であれば固有の波長を持たないが故に、その影響を受けないのだろう」


 コンセントからの電力供給で動いていた物は使えなくなるが、乾電池で動いていればそのまま使える……ぐらいのたとえなんだな?
 これ以上のたとえは複雑になりそうだし、まあ必要とされてないからしなくていっか。


「だがまあ、これでナースは注目の的だ。品評会でも目立ってはいたが、四位では知る人ぞ知るという評価が大きかっただろう」


 緻密な魔力操作能力による花火は、間違いなくその場に居たプレイヤーの目に入ったはず……前衛タイプのほとんどは、ただ綺麗と思うだけだろうがな。

 クラーレとかシガンなら、アレを見てどう思っただろうか?
 メルのよしみで少しばかり気になるが、そちらも考えるのはあとでいいだろう。


「さて、ナースの下へ向かうか」


 本選には育成したプレイヤーも舞台の近くから助言をする係として、参加することができる──まあ、生の助言だな。
 平等を期すために支援魔法やアイテムの投入はできないが、バトル物のような熱い声援で覚醒というアレはOKらしいので、魔王っぽくないがやってみようと思う。

 ──俺が全力で叫んだものと言えば、アマルたちの蘇生とブリッドを殴ったときぐらいだしな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 会場をウロウロと彷徨う。
 精霊たちにナースの場所を確認しつつ、どこに何があるかを把握しながら移動する。

 土と風の精霊が建物の構造を教えてくれたが、やはり実地で確かめるのが一番理解に繋がると思ったからだ。


「しかしまあ、ずいぶんと混んでいるようだな。狭くて仕方がない」


 参加者の数が膨大だったためか、騒がしい声といっしょにさまざまな者たちが舞台裏で動いている。
 これがアイドルのライブとかだったらケータリングの一つや二つ、有りそうだが……無いみたいなので、大人しく歩を進めていく。


「これでは埒が明かぬ……精霊よ、空いている道を教えてくれ」


 なんだか精霊の扱いがカーナビっぽくなっている気もするが気にしない。
 できるだけ人がいない場所を教えてもらって、そこを移動することに。


「おお、かなり楽になった」


 同じ思考の持ち主がいるため完全にゼロとなったわけではないが、それでも先ほどまで居た行列よりは人数が減ったので肩身を狭くして移動する……という魔王らしからぬことが無くなった。

 ──だからこそ、油断していたのだろう。
 そのときの俺は本選でのナースの闘い方を考えながら、ふらふらと歩いていた。


「むっ」
「きゃぁっ!」


 そして、少女とぶつかってしまう。


「ああ、すまない。少し考え事をして上の空であった。謝罪しよう」

「へっ? い、いえいえ……その、ケガもないので大丈夫ですから!」

「そうはいくか──“光回復ライトヒール”」

「あ、ありがとうございます……」


 お礼を言う少女を改めて確認してみた。
 顔立ちの割に背の低い、おどおどとした表情を浮かべている。
 髪の色は黒で、それをおさげにしていた。
 ファンタジーらしく服装はローブ、そちらの色は暗ぼったいものだ。


「改めて詫びよう。いくら道が混んでいないとはいえ、意識を逸らすのは過ちだった。そのせいで痛みを感じさせてしまった」

「ほ、本当に大丈夫ですから! そ、その、プレイヤーさんですよね?」

「ああ、そうだ。そちらもそうであろう?」

「は、はい! あっ、えっと……その、なぜか痛覚があったことに驚いてしまって。もしかして、解体スキルを持っていますか?」


 すっかり忘れていたことだが、解体系のスキルの持ち主の周囲では強制的にスプラッタな表現規制や痛覚緩和が無効される。
 少女はそれをオンにしていたのに、俺とぶつかって痛みを感じてしまったからこそ、あの小さな悲鳴だったのだろう。


「……重ねて謝ろう。なおのこと、注意をしていなければならなかった」

「せ、責めているわけではありません! こちらも育てた子が予選を突破してくれたことに喜んでいて、羽が生えた気分でしたので」

「そうか? ならば奇遇だな。俺の配下も予選を突破していた。運が良ければ、そちらとも相見えることになるだろう」

「本当ですか!? な、ならあまり闘いたくはありませんね」


 鑑定眼があれば、少女が何者か調べることができたが……残念ながら今は無い。
 だから名前を訊こうと思ったのだが──


「あっ! す、すいません、少し時間が押していまして……こ、今度会えたらまたお話をしましょう!」

「そうか。また会えるのであれば、ぜひそうしよう」

「! は、はいっ!!」


 そのときに俺が<畏怖嫌厭>対策をしていなかったら、きっと少女は俺に嫌悪感を抱くんだろうな……むしろ本選中は、ずっとそうしているのも有りかもしれない。


「精霊魔王を名乗るからには、大根役者は苦労しなきゃならないんだよ」


 小さくため息を吐いてから、ナースの下へ再び歩を進めた。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品