AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と育成イベント中盤戦 その09
ナースはメルスの指示を受け、初めから全力一歩手前の魔力の解放をしていた。
虚空の属性魔力を使わない、無属性の精霊としての最大限の力……それが今、リヴェルによって切り払われた。
『むー、こうだー!』
こちらに向けて走ってくる黒色の剣士に向けて、さまざまな形にして魔力をぶつける。
だが、そのすべてが一瞬の内に消滅し、動きを止めることすらできない。
彼の持つ二振りの魔剣、その力を攻略しない限り目的を成すのは厳しかった。
「精霊よ、貴様に罪は無い。大人しくこの場から去るのであれば、おれとて原初の流れに還すことなどせぬ……魔王から放れろ」
『やだー! けいやくしゃはーナースといっしょー!』
一度目と同様に、弾幕の雨を放ちリヴェルの動きを止めようとする。
だがそこに一つ、虚空の属性魔力を籠めた一撃が混ざっていた。
「何度やっても無駄だ! おれのこの力は絶対──【即応反響】!!」
光速の剣舞が魔力を霧散させていく。
コンマ一秒の速度で減り続けている魔力の雨こそ、虚空の魔力を使うカウントダウンとなっていた。
「おれの魔剣は最強無敵、誰にも止めることなんてできな──っ!」
『やったー!』
虚空の魔力に二振りの魔剣が触れた途端、強烈な光がリヴェルを襲う。
無属性の魔力だと思っていた神代の力は、吸収できないほど膨大な魔力をその一粒の中へ凝縮していた。
相殺もまた、不可能である。
虚空の力とはただの魔力と一線を駕す、荒れ狂う虚無に繋がる無敵の力。
──虚ろな空を生みだす力の本質は、絶対的な消去能力にあった。
「……油断するなよ」
『ほえー?』
だが後ろから、メルスは忠言する。
倒したと思ったのに、どうしてそのようなことを言うのかがナースは不思議だった。
「最後の一瞬まで、決して容赦をするな。たとえ弱りかけであっても、死んだ姿を見たとしても……プレイヤーは何度でも蘇る。常識が通用しない埒外の存在に、普通という概念は意味を成さない──このようにな」
立ち込めていた煙の中に、剣を構えて立つ男のシルエットが映る。
満身創痍、といったボロボロの姿ではあったものの……その目には不屈の闘志が宿っていた。
「貴様の忠義、見させてもらったぞ。だが、おれの力はあらゆる攻撃を反射できる」
「……ああ、だから『リヴェル』なのか。その力、どこで手に入れた」
「長き修練の果てに」
短くそう告げると、リヴェルはついにナースのすぐ近くまで向かってきた。
とっさに魔力の膜で防御するが──
「おれにその手は、悪手だぞ」
『まだまだー!』
「……チッ、今の力か!」
ただの無属性魔法であれば、相殺・吸収されて内側に居たナース諸共すべて斬り裂かれていただろう。
だが、ナースが用意したのは虚空の属性魔力で生みだされた高純度の結界。
『とっしーん!』
「そのまま動くだ──どぶぅっ!!」
勢いを付けて吶喊するナース。
固有スキルの力も借りて、どうにか攻撃を当ててはいたが……高濃度すぎる虚空の力を抑えきることも敵わず、リヴェルの肉体ははらか高く空まで舞っていった。
◆ □ ◆ □ ◆
──魔法、関係ねぇじゃねぇか!
空高く飛んでいった厨二剣士を見ながら、俺はそう思った。
結界を纏っての突進って、もうほとんど物理攻撃だよな。
「まあ、しかし……よくやったな」
『えへへ~』
「褒美は何にしようか。貴様は言ったのだからな、俺と共に居ると」
『!』
おやおや、自分の台詞なのにもう忘れてしまったのかな?
ギリギリの状況というモノは、生命に本音というモノを曝け出させる。
「──契約者といっしょ、だったか? つまり貴様は、それを宣言したわけだ」
『~~~~!』
「ふっ、気にするでない。貴様も進化をすれば、もっと俺の役に立つだろ」
『──けいやくしゃのばかー!』
ほんの少し、ダメージもならない程度にポスッと魔力をぶつけてから、ナースは俺の中へ入り込んでいった。
「まったく、いい精霊を見つけたよ。だけどまあ……今度はこっちの相手をしないと」
同時に、大きな水飛沫が上がる。
間欠泉が噴き出したかのように、天高く水が昇っていく。
先ほど上に跳ね上げられたリヴェルが落ちた衝撃で、こうなったわけだが……絶対に痛かっただろうな。
「ちなみにだが、コイツは男だ。そこに創作物特有の勘違いは存在しない」
その気になればシャインと同様の処置ができるが……しっかりと{感情}を操作できるようになった今であれば、わざわざそうしたことをする理由もないので放置とする。
「それに、ナースはこの戦闘で何かを得ていた気がする。経験値も手に入れたし、間もなくそこへ至る……礼はしないとな」
お礼参り、という意味では無い。
ついでに言えば、【即応反響】や二本の魔剣をくれたりしたんだから……きっとコイツも悪い奴ではないだろう。
「となれば、まずは起こさないとな。叩きつけられれば気絶するだろうし。さっきの水飛沫から場所を特定して……よし、あっちの方向だな」
厨二の患者の元へ、ゆっくりと歩を進めていった。
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