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山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その14



「さて、イベントが始まるまで暇になったわけだが……ナース、貴様にはさらなる技術向上を目指してもらおう」

『はーい!』

「あっさりと受け入れたな。てっきり貴様のことだ、すぐに嫌がると思ったが……」

『けいやくしゃー、ひどーい!』


 おっと、つい本音が出てしまった。
 それでも口調をそのまま維持できたのは、不幸中の幸いだろうか。


「悪かったな、詫びようナース。だが、俺の言ったこともまた事実。普通であれば、こういったことは嫌がるのだぞ」

『けいやくしゃーーー!』


 俺、なんで怒られてるんだろう。
 伸び伸びとした抑揚ではあるが、そのすべてが俺に対する怒りを籠めた台詞セリフだった。

 なんでも、やる気があって虚空精霊になりたいからどんなことでもするそうで……発言は多々あったが、要するにこんな感じだ。


『わかったー!?』

「あ、ああ……理解した。貴様が俺との契約に前向きなこと、誠に嬉しいぞ」

『ち、ちがうー……』

「そうか。それは残念だ」


 本当に、非常に残念である。
 あたふたと揺れるナースの姿が視界に映るが、俺が言った内容を理解していないことに地団太でも踏んでいるのかな?
 球体だし、よく分からないや。


「とにかく、貴様の技巧をさらに高める必要がある。供給で倒れ込むほど軟弱では、俺の目的を満たすことはできない」

『もくてきー?』

「……貴様が俺と永遠の契約を交わすと誓うのであれば、それを説明しよう。だが、今はまだ仮初の契約だ。虚空聖霊へ至った時、まだ俺と共にありたいと言うのであれば契約を続行しよう」

『ふーん……』


 球体なのに、ソッポを向いているイメージが浮かぶ。
 解釈は……そうだな、難しい話は分からないって感じか?


『ちがーう!』


 いや、なんで分かったの?
 ナースと俺は契約で繋がっているので、そういった以心伝心も可能ではある。

 だが、俺はさまざまな契約を無数に交わしているのかそういった感覚が薄い。
 もちろん{感情}や[眷軍強化]が関われば、完全な形で理解も可能だがな。


「話を戻すぞ。具体的には、スキルの熟練度向上だ。磨き上げれば、今所有するスキルも卓越した技量を発揮する。あるだけでもそれなりの性能だが、虚空属性を使いこなすのであればそれは必須であろう」

『お、おー?』

「たとえばだ。貴様は(無魔法)を(純魔法)へ昇華し、(崩純魔法)へ達している。最後の魔法は、おそらく導きの影響だろうな」

『ん、んー?』


 解析してコピーは済ませてあるので、いちおうは俺も使えるけどな。
 そうした特殊な魔法は、属性が存在せず己の魔力のみで精製されるとのこと……固有系の魔法も、ほとんどがそうらしい。

 目的が虚空魔法であるため、それに近しい魔法となっているのだろう。
 名前からして、そんな感じだしな。


「そうして、貴様が所持するスキルをより上位のモノへ進化させることで、貴様が行える最低限の能力も向上する……理解したか?」

『ナースのすきる~?』

「……まさか、把握してないのか?」

『うんー!』


 思わず頭を抱えてしまう。
 嗚呼、鑑定スキルを持ってなかったな。
 人族であれば町にあるギルドでステータスの確認ができるが、生まれたばかりの精霊にそれをやらせるのはアレだったか。


「……悪かったな。種族に関しては逐次伝えていたが、それ以外を忘れていた。ナース、説明は要るか?」

『うーん……いらなーい』

「そうか? まあ、必要になったらいつでも言ってくれ。貴様が俺との契約を解除する気になった時など、どういったスキルがあるかちゃんと説明をしてやる……どうした、急にむくれて」

『ふーんだー!』


 ああ、紙にしても持てないのか。
 説明しても記憶できないとか、そういう感じの理由かな?
 ミントとかなら、ナースの気持ちも分かるのか? 乙女心と子供心、そして秋の空は複雑怪奇だよ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「と、いうわけで次は空を散策だ」

『おー!』


 どうにか許してもらい、俺のテンションにナースが付き合ってくれるようになった。
 風精霊の助力で宙を舞い、空のお散歩と洒落込んでいる。


「空には鳥系の魔物が居る。これは、ほぼすべての者が理解している……だがもう一つ、特別な場所が存在しているんだ」

『とくべつー?』

「ああ、いずれ来るだろう。それまで、少しだけ待っているぞ」

『はーい』


 そりゃあ、鳥が闊歩するだけのエリアなんてありふれているだろうしな。
 運営の創意工夫は主に外へ向けられているため、特殊フィールドは無いが男心をくすぐるシステムが至る所に配置されている。


「契約の話になると、貴様の機嫌が悪くなることは分かっているが……」

『ふーん』

「これだけは言っておくぞ。俺としては、貴様を逃す気はない。だが、貴様という精霊は俺ではなく、貴様という魂魄を宿している。契約に束縛が無い以上、俺は貴様を契約以外の何かで留めることしかできない」

『…………』


 さて、どう言おうかな?
 半侵化で【色欲】になれば、そんな台詞セリフもペラペラ浮かぶんだろうが……止めとこ。


「な、ナース! き、貴様は俺の契約精霊である。お、俺以外の者と契約なんぞ、する必要がない!」

『…………』

「お、俺と共に居ろ! 虚空聖霊になったとしても、貴様は俺の契約精霊だからな!」


 無言の空気が気まずい。
 テンパって噛みまくりの台詞になってしまい、ナースは呆然としている。
 ……うん、モブが調子に乗るとすぐにこうなるんだよな。

 だが、それはすぐに解決することになる。
 日を遮るように──アレが現れたからだ。



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