AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と水族館



 夢現空間 水族館


 俺が集めた海洋生物が展示されている……そんな部屋の中へ、新たに一匹の魚型の魔物が追加された。


「うん、やっぱりいいサメだった」

「この場所でなければ、展示はできなかったではありませんか」

「いやいや、ここだからこそ飾ったんだろ。さすがメガロドンの大型版、見れば見るほど迫力があるな!」


 俺が入れたのは複製した方のテラロドンなので、凶暴性までは継いでいない。
 基本的な動きはプログラミングしてあるので、それをAIのようなものが代理で動かしている。

 というか、全部そうである。
 話ができる魔物などはリーンの海だし、できない魔物は駆除だしな。


「メルス様、ところで例の件を自ら行う必要は……いくらなんでも過保護では?」

「予め言っておいた方が、バレたときに困んないだろ。プレイヤーが一部の魔物に種族を選んでいるし、許容できるんじゃないか?」

「あまり、出たがる者がいるとは思えませんが……まあ、メルス様ですか」

「理由にならないからな、それ。あと、そこまで過保護じゃないだろ。俺はあくまで、最低限度のやるべきことをやっているだけだ」


 そう、俺が望んだのは移民の許可。
 いちおうとはいえ、世界から抜けたいのであればそうできるように準備をしている。

 ……また、移民というより住民としての証明を偽装してもらえるように頼んでいる。
 どこかのギルドに加入すれば、それを代わりに使うこともできるのだが、同時期にいっせいに登録すれば怪しまれるので、可能な登録場所を増やすことにした。


「本当に過保護ですね……いえ、それでこそメルス様ですよね」

「どういう意味だ、それ?」

「いえいえ、メルス様の広いのかどうかわからない心によって、救われたり逆に苦しむ者がいるんだな……と思ったわけです」

「く、苦しむ者だとっ!? それを早く言ってくれよ! 誰だ、具体的に教えてくれ!」


 国民を救うことこそが、偽善者以前に世界の創造者としての役割だ。
 なのに苦しむ者がいる? ……すぐにでも駆けつけ、その問題を解決せねば!!


「ご安心を。メルス様がそういった活動をしないのであれば、苦しむ者は少しずつ減っていきますよ」

「そ、そうか。それなら……って、それだと俺が何もしてないじゃないか!」

「……バレてしまいましたか。しかし、時には休息が必要なのです。上の者が率先して休まないのに、下の者たちが休むことはほぼありえません。時には休息も必要ですよ」

「むむっ、たしかに一理あるな」


 一理あるとは思うが、俺としては理解に苦しむんだよなー。
 本来であれば、リーンにも週二日の休暇と有休休暇を二十日用意していたんだが……思いっきり揉めてしまった。


「何が『むむっ』ですか……メルス様の意見の賛同者など、ほんの一握りしかいなかったではありませんか」

「……今ならアイリスとカナタも、きっとわかってくれるもんっ!」

「何が『もんっ』ですか……というか、似たツッコミをさせないでください」


 まあ、さっきのは故意にやったからな。
 あの頃は同じく地球の常識を知る者がいなかったから、あのような騒動になったんだ。
 結局、それでも直接的な賛同者が増えないのであんまり意味はないんだけど……。


「さて、メルス様。そろそろ本題に移っても構いませんか?」

「本題? サメを並べる、その手伝いをしに来てくれたんじゃないのか?」

「当然、違いますよ。というよりメルス様、どうしてそのようなことをすると?」

「えっと……………………水族館デート?」


 悩んだ果ての答えが、どうしてこれなのか今さら後悔したくなった。
 水族館に居て、アンと二人っきり──答えがこれになってしまったわけだ。


「そうですか」

「そ、それよりだ! アン、本題とやらを教えてくれないか?」

「そうですね。ちなみにですが、今のわたしはかなり喜んでいます」

「そ、そうなの……か? まあ、うん。それなら俺も嬉しいぞ」


 自分でも、顔が赤くなることが分かる。
 ストレートな感情をぶつけられることというのは、モブにとってキツいものなのだ。


「わたしがメルス様をどう想い、またメルス様がわたしをどう思ってくださるかは互いに理解しているものなので、今さらでしょう。それよりも今は、話を進めましょう」

「お、おうそうだな! は、早く教えてほしいな!」

「……まったく、本当にメルス様は……」


 嬉し恥ずかしの感情は、少しずつ{感情}によって通常状態へ移行されていく。
 ……聞き取ってしまったアンの声に、すぐにフラットになった感情は高ぶってしまうんだけどな。


「ご報告がありまして、メルス様の下へ馳せ参じました」

「そんな報告の仕方が流行っているのか……それで、いったい何?」


 ずいぶんと時間をかけてしまったが、ようやく話せるであろう本題をアンは告げる──


「メルス様は、運営神すべてを把握しておりますか?」

「ん? そりゃあ、耳にタコができるぐらいにリオンから聴かされているからな……わざわざそれを訊ねるってことは」

「いえ、それとは関係ありません。それとも少し、関係あるのでしょうか?」


 つまり、少しだけ干渉があるのか。
 たしか、シュリュの国を狙ったのは運営神だったよな。
 そのレベルの干渉じゃなく、ほんの少しだけ関わっている……あっ。


「その通りです、メルス様──イベントが始まるとの連絡がありました」


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品