AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と魔法習得練習 前篇



 夢現空間


 帝国がどうこうとあっちの世界でやっていたものの、俺だけで殲滅というのも味気ないので何もしていない。
 彼女たちの選択によって、俺の偽善が行われるかどうかは決まる。

 眷属たち──ティルとクエラムが関わったとある帝国であれば迷わずに攻め滅ぼすが、プレイヤーがどう動くか分からないため、今回は後手に回ることにした。


「グラもセイもご苦労だったな。ほれほれ、気持ちイイか?」

「ごしゅじんさま、もっともっと!」
「そ、その……僕も、はうんっ! お、お願いします……」

「ああ、了解だ」


 犬耳と尻尾、天使の翼を撫でているのが現状である。
 俺が帝国の使いやソイツに誘われたチンピラたちと遊んでいる最中、『月の乙女』を警備してくれていたからだ。

 てっきりグラは、美味しい物を喰べたいと要求すると思ったんだが……そういえば似たようなことがあったな、と思いだしたので納得した。
 セイ? まあ、あんまり自己主張をしてくれなかったら、強制的にでもやったさ。


「──はい、お仕舞いっと。俺はこの後、修練場で遊んでいるけど……どうする?」

「ぼくはセイを見てるね! ごしゅじんさまは、行ってらっしゃーい!」
「ハァ……ハァ……」

「分かった。じゃあ、行ってきますだ」


 荒い息を吐くセイは、返事もできないほどに弱っていた。
 グラは彼女の世話のため、この場に残るそうなので──


「あっ、これはちゃんと二人で分けろよ」

「ふぉぉっ、さすがごしゅじんさま! ──ラジャーであります!」


 ついでにおやつを並べておいた。
 セイの休息用にゼリー系の物もいくつか並べてある……喜んでくれるといいな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 修練場


「帝国? ……滅ぼしましょう」

「だから、帝国違いだ。ちゃんとそのときになったら呼ぶから、落ち着いて落ち着いて」

「そう……ごめんなさい」


 一瞬だけ殺気が膨れ上がったティルを宥めると、剣身が飛び出た獣聖剣を仕舞わせる。
 なんだか感情の増幅に呼応して、凄まじい聖気を解放しているんだが……クエラムが例の帝国に巻き込まれたからか?


「魔法の習得、どうなってる? 縛りプレーで魔法の便利さに気づいたから、そろそろ強要した方が良いと思ってさ」

「あ、あーアレね。ええ、まあ、それなりにできている……わよ」

「おいおい、やけに目を逸らすな。それに、どうしてまた剣を振り始めたんだ?」

「ちょ、ちょっと虫がね」


 ……夢現空間に俺の望まない者は存在できないため、虫が居たとしてもそれは魔法による存在。
 だがそれをよく使うミントは居ないし、俺が確認しても虫は一匹も存在しない。

 ──彼女が斬っているのは、俺が向ける鑑定眼の視線だ。
 発動のために、一度相手にアクセスする必要があり……それを斬ることで、鑑定をさせまいとしている。


「ティル、俺も全魔法を習得してくれなんて鬼畜なことは言ってないだろ。せめて空間魔法だけでも取っておいて、移動を便利にしてほしいだけだ」

「す、[スキル共有]があるじゃない」

「緊急時に使えなくなったらどうする。これからの行動次第じゃ、本当にそうなる可能性があるぞ」

「うぐっ」


 正論なので、返しづらいだろう。
 だからこその縛りだし、実際封じる方法がいくつかあるとリオンから聞いている。

 だからこそ、[スキル共有]の恩恵によってスキルの習得率が早い今、ティルにも苦手な魔法スキルの習得を求めているんだが……。


「す、スキル結晶でいいじゃない!」

「空間どころか次元を裂く奴に、それは必要ありません。斬ったモノをちゃんと認識できるんだから、それを魔力で再現するだけだ」

「うー……分かったわよ」


 昔渡した空間属性を宿した剣を取りだし、嫌そうにだが習得のための動作を始める。
 転移関連のことなのでふと思いだしたんだが……適正皆無の獣人だけど、どうにか習得自体はしてくれるだろう。


「適正で言えば、完全な物理特化だからな。けど、色んな創作物のキャラみたいにそのまま物理特化に進む道理もないし……頑張ってもらいたい──隙あり、“鑑定眼”」

「ッ!?」

「その剣で斬れると思うな! ……えっと、なるほど」


 不意を突いて鑑定に成功したが……魔法関連のスキルが寂しい。
 新たに増えているのは回復魔法だけで、他は何一つ増えていなかった。
 適正云々というよりも、こればっかりは彼女自身の問題だしな。

 回復魔法は習得できたんだから、時間をかければ他の魔法もできるはずなんだ。


「そ、そうよ。魔法で攻撃するぐらいなら、一回剣を振れば終わるじゃない! それを何よ、魔法でやれって……疲れたのよ!」

「疲れたって……おいおい、前に聞いた時にやれるって言ったのはティルだろ?」

「うぐっ。メルスが居れば、簡単に終わると思えたのよ」


 俺だって、最初は気楽に考えていたんだ。
 だが、剣に特化した彼女の才能は、おそらくだが魔法の才能をすべて喰らっていた。
 そのため、人の限界を超えるような修業をして、どうにか七系統の基本魔法が習得できるような状態になっているわけだ。

 どうにかしようと思っても、彼女自身に改造を施すわけにもいかない。
 スキル結晶を渡しても、おそらく適正の低さから発動前に魔力が枯渇する。


「──ティル自身の手で、魔法を習得する必要があるんだ。俺も手伝うからさ、いっしょにやってみようぜ」

「……もう習得してるじゃない」

「ノリと気分だ」


 この後、解き放たれた獣聖剣から逃れるのに一苦労した。



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