AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と情報収集 前篇



「……恥ずかしかった」

《かっこよかったよー!》
《僕もグラと同意見です。ご主人様の台詞セリフ、素晴らしかったですよ》

「(ああ、うん。慰めてくれてありがとう。少し、気が楽になったよ)」


 眷属によるメンタルケアを経て、どうにか平常モードでも動けるぐらいに心が癒えた。
 すでに他のメンバーは動いており、この街に燻るトラブルの捜索を行っている。


「……というか、国とのトラブルなんて主人公みたいなこと止めてほしいよな」


 陸路での街への到達は、確認されてない。
 そもそもプレイヤーたちの進路を阻む、エリアボス以外の存在が居るとされる。

 これこそまさに、主人公がぶつかって解決するイベントであろう。
 運命の出会いとか、強大な敵、とかいろいろとあるんだろうな……。


「現実はいつだって望まぬことが起きて、俺もそれに巻き込まれている……まあ、飽きたら眷属たちと過ごすのもいいし、赤色の世界に専念するのもいいか」


 うーんと伸びをして、意識を切り替える。
 今の俺は偽善者で、主人公でなくともそうした問題と関わる必要がある。
 どうせ【傲慢】で【強欲】な人間なんだから、やりたいようにやるだけだ。





 ──なんて、中途半端に酔った台詞を語っても、俺という人間の本質は変わらない。
 後天的に与えらえた凶運は、いつでもどこでも俺にトラブルを齎している。


「それで、理由はなんだっけ?」

「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」

「うんうん、そう怯えないでほしいな。私も別に、殺したくて殺すわけじゃないんだよ」


 怯える男の頭に手を乗せ、火属性の魔力でじんわりと温めていく。
 せめて【強欲】か精神系の禁忌魔法が使えれば、簡単に解決していたんだけどなー。


「早く教えてくれないかな~? 今の私のやり方だと、優しくできないんだよ~」

「だ、誰が教えるかぁあぎゃあぁぁぁっ!」

「ふふふっ、もう一度だけ言うよ──情報を教えてね?」


 爪で引っ掻いた傷を火で焼き焦がし、痛みと共に流血を防ぐ。
 うーん、早く教えてもらいたいな。


「──あ、悪魔……」


 じゃないと、<畏怖嫌厭>の効果も相まってひどく嫌われちゃうからさ。
 悲鳴を上げる男と、青白い顔で震える少女の姿を見比べながらそう思った。



 ゆっくり優しく丁重に扱ったら、嬉し涙を流していろんなことを教えてくれた。
 やっぱり人と人とは会話が重要で、本音で語れば分かり合えるんだ。


「えっと、大丈夫かな?」

「は、はい……その、助けていただき、ありがとうございます」

「ううん、気にしないで。私も私で、そこの人に用があったんだからね」

「…………」


 あらら、また怯えてしまった。
 精神魔法で落ち着かせることもできないので、しばらく彼女が落ち着くのを待つ。


「……ご、ごめんなさい。その、まだほんの少し──」

「怖い? けど、ああでもしないと、あの人も教えてくれなかったから」

「は、はい。た、助けてもらえたのも、そのお陰です。そ、それは分かっているんです」

「うーん、ごめんね」


 認識をメルとしてさせているので、それでも症状は軽い方だろう。
 実験で分かった最悪の反応なんて、憎悪が強すぎて気絶したからな。


「えっと、近づいていいかな?」

「ど、努力します……」

「努力はしなくてもいいんだけどね」


 分かりやすく示していた拳銃を置いて、少女の元へゆっくりと歩み寄る。
 しばらくは何も拒絶せず、こちらを見ているだけだったが──手が届く範囲になると、突然小刻みに体を震え始めた。


「ごご、ごめんなさい! で、でも体の震えが止まらなくて!」

「──大丈夫だから」

「!?」

「よしよし、もう終わったからね」


 少女は俺が現れた際、男に襲われていた。
 それを救って尋問していたわけだが、彼女の極限まで張り詰めていた緊張感は、今の今までずっと続いていたようだ。


「ごめんね、怖がらせちゃって。けどもう、これでお仕舞い……少しの間、眠っててね」

「えっ? あ、あうぅ……」


 冷え切った体を温め、血流を良くする。
 少しずつリラックスした体は心身に受けた疲労を癒すため、本人の意思を無視して意識の遮断を行った。

 火属性の調整は、船に乗っている間に実用的に使用可能な状態まで仕上げてある。
 少女が悪夢を見ないよう、包み込むような温かさを齎してやることにした。


「さて、情報を整理しないとなー」


 男が吐いた情報は、そこまで多くない。
 ただ、偽善者として動くためには充分かつ有意義な情報であった。
 今の<千思万考>が無い俺では、じっくりと練らないと答えは出てこない──少女が起きるまで考えてみようか。


「まず、男は雇われて暴れていた……目的は聞いていない」


 金だけ貰って、満足していたらしい。
 ただこの日、ちょうどサルワスから船が着いた少し前の出来事とのことだ。


「正体は不明。認識阻害の効果があったみたいで、どうにも覚えてないみたい」


 つまり、黒幕はまだ分からないというわけだな──先も挙げたが、精神魔法が使えれば判明しただろう。
 嘘は言っていないと思うぞ、吐いたら生きていることを後悔すると脅したからな。


「ふふっ、それでこそ偽善だよ。誰のためでもなく、自分のため。しいて言うなら、この娘に似たようなことが起きないようにするためかな?」


 男がソイツと接触した場所は、吐かせたので分かっている。
 男は自分以外にも、雇われた奴が居ると教えてくれたし……さて、事情聴取だな。



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