AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と船護衛 前篇



 カルモ海


 さまざまなプレイヤーが、一つの音をいっせいに奏でている。
 どれだけお膳立てしても綺麗とは言い難いが、やはり人とは繋がる者なんだと改めて理解できた今日この頃。


「メル、助けてあげないんですか?」

「ますたーたちが無事なんだし、それをわざわざどうにかする気もないよ。今はますたーたちが最優先、他の有象無象はあくまでおまけだからね」

「そ、そうですか……」


 突然ニマニマとしだしたクラーレに首を傾げてから、船首へと向かう。
 今回の依頼は船の護衛。
 だがそれは、新しい大陸に行くというわけではなく、近隣の国へ向かうためだという。


「うーん、潮風が心地イイねー」

《ごしゅじんさま! 魚は!?》

「縛りプレーの最中だから、直接来た魔物でないと攻撃が届かないよ。だから、今はお預けだな」

《そんなー!》


 海に行くと聞きつけ、仕事を終わらせたグラとセイが魔銃と聖銃に宿った。
 これによってある程度、弾道の補正がしてもらえるので助かる……報酬は倒した魔物を料理するだけでいいんだしな。


《ご主人様、そういえば具体的にどちらへ向かっているのですか?》

「たしか……『シルフェフ』って所だったと思うよ。そこの近くに帝国があるみたいで、だいぶキナ臭いらしいけど」

《大丈夫、でしょうか》

「うん、私たちはね。けど、帝国がその港町まで占拠してるとなると……少しやっかいかもしれない」


 依頼を確認した後、『青』に連絡をつけて詳細な内容を確認した。
 暫定的なリーダーからの問いかけに、彼らはあっさりとその情報を教えてくれたよ。

 いちおうは貿易を目的とした依頼となっているが、裏のギルドの者たちが混ざっていて調査を行うらしい。
 どこまで帝国がその町に手を伸ばしているか、そしてサルワスにとってどれだけの影響があるのか……まあ、そんなところだ。


「私個人としては、帝国が善政を敷くなら別に無視でもいいんだけど……そうじゃないなら、改善を無理にでもさせてもらうか──」

「メル、こんなところで何をしているの?」

「あっ、シガンお姉さん。うん、ただ海を見ていただけだよ。やっぱり『エンダー!』をやってみたいなー」

「……この船を沈ませたいの?」


 氷塊にぶつかって、船の真ん中から真っ二つになるって感じだろうか。
 俺には<物質再成>があるので、瞬時の元の状態へ回帰させることも……あっ、今は縛りで使えない・・・・んだった。

 使わない、ではなく使えない。
 本格的に眷属が縛りをかけたため、数人の眷属の許可が無いと使用不可能だ。
 今はグラとセイが武具に宿っているので、身体強化ぐらいなら使えそうだな。


「今の姿のままじゃ、どうにも味気なくなりそうだからね。今のままじゃ別の姿に変わることもできないし……だから今は、ここで見ているだけなんだよ」

「ふーん、なら私がやってあげようか?」

「止めておくよ。……お客さんが、ここに来ちゃったみたいだからね」

「! ……なら、準備をしないとね」


 即座に“空間収納ボックス”から、剣を取りだして帯剣するシガン。
 その数十秒後、周りの索敵スキルの持ち主が警戒するように勧告を行い始める。


「まずは、みんなと合流しないとね。船酔いしやすいグループはどうしてるの?」

「…………まだ船内に居るわね。耐性がどれだけあっても、リアルで酔う感覚がリンクして勝手に酔っちゃうみたい」

「大変なんだねー。火属性に酔いを治す魔法は無いし、ますたーに治してもらえば戦闘に出れるかな?」

「だから、クラーレがそっちに向かっているわ。すぐに来るでしょう。それまでは……手伝ってもらうわよ」


 すでに海面から飛びだしてきた、小型の魔物が船に迫っている。
 空飛ぶ斬撃を放って対応するが、シガン一人では対応しきれず数匹が船に乗り込む。


「ますたーの命令じゃないから、あんまり乗り気にはならないな……けど、あとで同じ命令を受けるんだし、同じことだよね」


 聖銃と魔銃をホルダーから引き抜き、ただ能力値で高められた脚力のみで魔物たちの元へ向かう。


「──主の望むことを推測して、先にやっておくのも従者の仕事かな?」

「ちょ、ちょっと……」

「ますたーにはゆっくりと、酔い覚ましに専念してもらいたいし……殲滅でいいか」


 魔物の懐に侵入すると、零距離で銃弾を放ち──破裂させる。
 弾丸には爆発魔法を宿しているので、一発一発で血の華が咲き誇る。
 血が付着する前に蒸発させており、船が汚れる心配はない。


「ふんふんふ~ん、ふふふふ~ん♪」


 火属性の強化魔法を使い、推進力を上げて魔物たちを間を回転しながら進んでいく。
 同時に、魔力を注いだ弾丸を連続して射出して一匹一匹の肉体を貫通させる。

 近海には凶悪な魔物が存在しないので、神眼で把握せずとも中てさえすれば倒すことができてしまう。
 弱点部位で無くとも倒せてしまうが、そういった精度を上げることも今回の縛りプレーの目的なんだよな。


「これでお仕舞い──“心臓貫きハートショット”」


 動きの補正は受けず、目視だけで照準を合わせて心臓に弾丸を放つ。
 魔物は胸にポッカリと穴を開け、バタリと地に伏せる。
 ──うーん、まだ難しいんだな。



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