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山田 武

偽善者と決勝前



「さぁ、決勝戦の前に食べまくるぞ!」


 試合と同じくらいの歓声が上がる中、俺たち料理人は調理器具を握りしめて、もう一つの戦いを始める。

 料理とは即ち戦争。
 戦い、争いどれだけ周りを惹きつける料理が作れるかなのだ。


「俺とソウの闘いに、おつまみの料理は必須だろ? 観衆たちよ、俺たちの料理で胃を満たして試合に臨むんだ!」


 このテンションに理由はない。
 フェニがラグナロクの能力を解放したことにも、それすらもソウが正面から打ち破ったことにも興奮した。
 バトル物の主人公たちって、こういう奴らと闘っているんだ……と少し遠い目になってしまっただけだ。

 頭とは別に体が勝手に動き、俺が担当する料理をどんどん作っていく。
 それらは補助に付いた新人が集め、すぐに店頭に並ぶ。
 大喰いのグラやヴァーイなどが凄まじい勢いで食事をしている様子が目に映るので、負けじと他の料理人たちも料理を作る。


「みんな、あそこのフードファイター共が満足するぐらい、料理を作ってやれ!」

『はいっ!』


 ちなみに料理は、本当に多種多様なラインナップを揃えてあった。
 簡単な物ならかき氷やフライドポテトなどで、難しい料理ならマカロンまで提供する。

 どんな料理を食べたいか? どんな料理が好きなのか? なんて訊かずとも、うちの国民たちはほぼすべての料理を美味しいと思ってくれるので、作れるものを好きなだけ用意していくだけで充分だ。


「しかしさあ、新人君よ」

「は、はい。なんでしょうか?」

「実際、俺とソウのどっちが勝つと思う?」

「え゛、えぇっ!?」


 酷な質問だとは分かってるんだけどな。
 料理が量産体制に入って、気が抜けてしまうからキツけにな。
 思わず新人が料理を落としそうになったので、重力を操作してふわふわとさせておく。


「あっ……す、すいません!」

「いや、俺の聞いたことが理由だから何も悪くない。ただ、傍から見ると勝算はどれくらいなのかが気になってさ」

「わ、分かりました」


 本気で頭を悩ましてくれる新人にほっこりしながら、料理の製作を続けている。
 一から始めていたハンバーグサンドが完成した頃、新人は沈めていた頭を上げた。


「やっぱり、分かりませんでした」

「へー、その理由は? 料理で例えてくれ」

「は、はい……って料理で!? …………ソウ様が完成された料理なら、メルス様はあらゆる素材が集まった下準備の段階……でしょうか? 眷属の皆様はそれぞれ一つの完成された料理として整っているのを、メルス様はその場その場に応じた料理を提示しています」


 そう語る新人の眼は、なんだか賭け事にその命を賭ける人々のように燃えていた。
 そこまで熱く語ってもらうことになるなんて……まあ、面白い説明の仕方だ。

 たしかに俺は状況に応じて全能の力を使い分けるようになったし、眷属たちは一人一人が特出した能力を持っている。
 なるほど、完成しているのか……なら、今やっているのは同じ料理をどこまで美味しくできるかって段階か。


「少し考えが深まった。感謝するぞ」

「い、いえ! 私なんかの意見が参考になったなら光栄です!」

「謙遜するな。俺みたいな馬鹿でも分かる、良い説明だった。──それじゃあ、料理の続きを始めるとしようか」

「は、はいっ!」


 新人の眼は俺の料理技術を盗もうと、必死に観察を行っている。
 神業を今の内に学習していれば、やがて立派な料理人として名を残すだろう。

 そんな未来の卵に見取り稽古を行わせながら、俺たちは観客たちの胃袋を満足させて行くのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 ただまあ、俺には試合に向けての準備もあるわけで……現在は控え室での待機だ。
 子供たちが何も食べない俺に料理を持ってきてくれて、ブワッと涙が零れたこと以外は特に問題はない。


「アン、解放はどうなってる?」

《全開となりますと、本当に肉体の制御が難しくなります。いくら(能力偽装)があるとはいえ、危険ですよ》

「じゃなきゃ、ソウに勝てないだろ。ちゃんと策も用意してあるんだし、どうにか死線を越えてみるさ」

《越えられては困るのですが……》


 そもそも生命の枠に外れかかっているソウが、さらに強化を行おうとしているのだ。
 俺も普段通りであれば、負けることは必死ではないか。


「ただ、前回は独りだけで挑んだ。力だけ借りといて、本当に馬鹿な奴だよ。だから今度は、別の方法で勝ってみるさ。ソウが了承すれば、それを魅せることができる」

《別の、方法……》

「一度リープに言われたことが、ソウを降したことで俺は真の意味で【傲慢】になった。世界最強の存在を倒すってことは、武において並び立つ者がいない証明だしな」


 まあ、その後眷属に敗れたわけだが、身内に敗れても……という考えが内心のどこかにあるので気になっていなかった。
 そういった考え方も含め、【傲慢】になっていたのだと改めて感じる。


「もう少し、変化した方がいいのかもしれない。もうちょっと、強く求めた方がいいのかもしれない。みんなは何度も言ったことだけど……俺は馬鹿だからな」


 ある意味、気紛れなんだろうか。
 それでも眷属は応えてくれる、手と手を合わせて進んでくれる。


「それじゃあ──行こうか」

《御武運を》


 決勝戦、再び行われる生命最強を決める争い……勝つのは俺だよ。



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