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山田 武

偽善者と三回戦第二試合 その07



 銀色の彗星が崩壊した世界を巡る。
 狂った神々と世界を呑み込む蛇を倒し、今もなお苦しむ仲間を救うために。

「ふんっ!」

 鋭い槍と稲妻の槌を、自身の鱗を作り変えた棒で防ぐ。
 エネルギーがぶつかりあい、そこから漏れ出した力が舞台を破壊するが気にしない。

 ソウは体を捩じって攻撃の勢いを流動させると、隻眼の老人を先に倒そうと動く。

「龍迅砲」

 尻尾を用いてのエネルギー集束砲。
 龍気を通した尻尾の先から、レーザーのような物が飛びだす。

 だが、老人が指を動かし何かを描くと、そこから龍迅砲と同じ勢いでナニカが飛びだし相殺される。

「……たしか、ルーンじゃったか? あれだけで術式が使えるとは。主様の世界は奇天烈な場所じゃ」

 かつて地球に存在した、呪術や儀式に用いられる神秘的な文字──それがルーン文字。
 例えるなら超小型の魔法陣のような物。
 メルスはそれをできるだけイメージして、隻眼の老人にプログラムした。

 のちに自分でそれを視て、扱えるようにするためだ。

「そっくりそのまま、性質だけを歪めてぶつけておった。反転のルーン、とやらか?」

 自分が納得できる仮説を立てたところで、心臓を貫こうとする槍を回避する。
 だがソウの強化された眼が、その穂先に一つの文字が刻まれていることに気づく。

「これ、はっ……!」

 瞬間、凄まじいエネルギーが熱量を帯びて解き放たれる。
 火のルーンと呼ばれる術式が発動し、ソウの体を焼き尽くす。

「…………コホッ、コホッ。防御力無視、なかなかに厄介なルールじゃ」

 魔力を用いて身を包んだものの、間に合わなかった一部が炭になってしまったソウ。
 焼けた部分を手刀で切り離し、龍人化したことで向上した再生力で即座に生やす。

「後ろの者たちも、何やら準備を終えたようじゃのう」

 巨大な蛇と狂ったように哂う道化が、その口と手に魔力を集めていた。
 防ごうにも老人と青年が道を阻むため、その場まで辿り着くことができない。

「龍化すれば届く……じゃが、あの槍に今当てられれば死んでしまうしのう。なんとかして、あのご老体をどうにかせねば」

 老人が握る木の槍からは、禍々しいほどに魂を吸い上げた狂気の力が宿っている。
 幾百もの戦いに用いられたそれは、所有者に勝利を齎す。

「龍迅棒……か?」

 龍気が宿った二振りの棒が呼応し、膨大なエネルギーがさらに輝く。
 早期の勝利を得るため、多少の苦労を費やしてでもそれを行う価値があった。

 北欧神話においても、龍は存在する。
 人は龍を殺すことができたが、神は龍と相打ちにしかできなかった。

 そしてこの世界において、人も神も一体の龍に敵わずそのすべてが無為となる。
 ドラゴンとは力の象徴、神とは異なる形で信仰される一種の概念。
 あらゆる物をね退け、力に見合った王者の風格を持つ至高の存在。

「──どうしようかのう?」

 言葉からは感じ取れない、内に秘められた闘志が燃え盛る。
 ルールとはいえ身を傷付けた愚か者に向けて、静かな怒りが放たれていた。



≪オーディンとトール、それにロキ。あとヨルムンガルドまで……おいおい、北欧神話の有名どころばっかじゃねぇか! しかも夢のコラボだし、凄ぇな!≫

≪マスター、自己完結で無く説明をしてください。それではただ漠然と凄いことが分かった、としか伝えられませんよ≫

≪……っと、それもそうか。簡単に纏めるとだな、アレは北欧神話という神話において主神と準主神の奴。それにソイツらに復讐しようとする奴とその息子の蛇だ≫

 カナタはカナタなりに、昔見た記憶を探りながらソウの相手たちを説明する。
 しかし、後半は初めて聞く者には理解しがたいものだろう。

≪あ、あの……蛇が息子なんですか?≫

≪あの道化の奴はある意味偉業を成した神様でな……その、詳細は省くが子供が特別な形で生まれたんだよ。他はさっき吼えていた狼だったり、もともと半アンデッドの神様だったりとかだな≫

≪な、なんだか、複雑なんですね≫

 混乱がピークに達し、雑な纏め方で終わらせてしまうホウライであった。

≪主神の老人……いや、老神は片目を代償に叡智を得た戦争の神。ありとあらゆる情報を持ってるから、さっきのルーンも自在に使えるんだ。準主神の男は雷神、あとは天候とか農耕を司ってるな。見た目通りのパワータイプだが、策を破壊するだけの力があるから厄介らしいぞ≫

≪では、残りの者たちは?≫

≪道化の奴は、北欧神話においてさまざまな問題を引き起こしたトラブルメーカーだな。その息子であるヨルムンガルドなんて、さっき説明したトールと相打ちだからな≫

≪なるほど、ではかなりの強者だけがあの場には居るのですね≫

 主神と道化神はその手札の多さ、準主神と巨大蛇は純粋な戦闘力がソウの龍迅大砲を対処するために役立った。
 そして今、彼らは一匹の人に化けた龍を殺そうと動いている。

≪フェニ選手、大丈夫でしょうか?≫

≪ただの魔力酔いであれば大丈夫ですが、アレはメルスさんの創った武器です。死んではいないでしょうが、何かしらのトラブルを起こしているかもしれません≫

≪ソウがフェニを倒して、強制的にリタイアさせればどうにかなるだろ。状態のリセット機能が付いたんだしよ≫

 そう解説をしていると、舞台の状況に大きな変化が起きる。


≪──あっ、グングニルが使われた≫


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