AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と三回戦第二試合 その06


 いくらメルスが生産を司る神から加護を受けた身とはいえども、まったくの対価も無しに世界を終わらせる武器を創りだすことなどできない。

 極上の素材をふんだんに使い、特殊な方法で加工を行うことで神話に語られる程の品々が創り上げられる。
 使用者に害をなすことは決してなく、持ち主の力を最大限に使えるようになる補助具としての認識が強い。

「……魔力だけで、ここまでのことができるのか。主様はつくづく異端じゃのう」

 歪みから降り注ぐ巨人を捌きつつ、呟く。
 解き放たれた災禍の現象は、そのすべてがソウに敵対の意志を向けている。
 巨人と相反し、討伐を行おうとしたエインヘリヤルと呼ばれる死者の戦士たちもまた、彼女へ向けて武器を構えていた。

「じゃが、さすがにあれだけのことをすればリスクはあった。というより、これも主様の想定外なのじゃろう」

 自身に有利な状態になったフェニだが、彼女は今上空でピクリともせずに浮いている。
 その表情はとても苦しげで、勝者の余裕などまったくない。

「使いすぎると、身を滅ぼす危険を持つ。ミシェルがあの剣でそうなっておったが……これはそれ以上じゃな」

 所持者に劉の力を与え、力という魅力に酔わせてしまう魔剣『劉殺し』。
 この武闘会でそれを振るったミシェルは、一時的にとはいえ自我が希薄になっていた。

 しかしそれは、剣が齎した──仕様だ。
 フェニに起きた現象はそれとは異なり、複雑な原因が絡まって起きたことである。

「儂に近い能力値まで上げた今、あれらの現象も強化されておる」

 巨人や死兵の他にも、巨大な蛇や狼が舞台の上で暴れている。
 ラグナロクは開かれ、仮初の世界を終焉に導いていく。

 抗おうとした神々すらも変質させ、終わりは刻一刻と迫っている。

「──“龍人化”」

 人の身に合わせて抑えられていた枷が解き放たれ、ソウの中で龍の力はさらに高まる。
 これまでそれをせずに闘えていたのは、弱体化してもまだなお、異常な魔力と能力値を有していたからだ。

「龍気を籠めておけば、儂の鱗がどうこうとなることもなかろう」

 銀色のオーラが棒に宿り、それ自体が発光しているかのように眩く輝く。
 未来が確定した終焉の世界で光る棒は、まさに救世の勇者が持つ剣のようでもあった。

「では、儂ことソウ──参る!」

 形式美を守ってから、ソウは歪みの一つ一つに挑んでいく。

 そのすべてが神話に語られる強者たち。
 天候や地形、概念すらも操る伝説の力の持ち主たち……世界最強のドラゴンは、一本の棒を振り回して彼らに挑む。

「主様も眷属を相手にするとき、こういった心境になるのかもしれないのう」

 スキルを使わず思考を加速し、攻撃の嵐を掻い潜りつつ反撃を与える。
 まるで攻撃がソウを避けているようにも見える、神業の技術を用いての回避だ。

 本来であれば、そのようなことをせずとも鱗がすべてを弾けた。
 しかし今、この試合において防御は無意味なものとなっている。

 間接的な防御は可能だが、直接身で受けた場合は防御ができない……ソウは特殊ルールの効果をそのように捉え、近接戦闘では攻撃に当たらないようにしていた。

「龍迅砲」

 銀色の閃光が巨大な狼を呑み込む。
 狼は顎を外して大きく口を開くと、逆に吸い込むようにレーザーを取り込んでいった。

「では威力を上げ──龍迅大砲」

 再度放たれた銀の砲撃。
 だが先ほどの光が柱と称されるのならば、今回のそれはそんなものではない。

 面。あらゆるものを塗り潰す、視界を埋め尽くす、万物を呑み込む強大な範囲攻撃。
 超広範囲に及ぶその光線は、大きすぎるが故に誰にも認識できない。

 狼も呑み込む暇なく消え去り、周囲に集められていた者たちも同時に光の中へ消える。

「ふむ……それでも生き残る者がおるのじゃから、主様の作った品は厄介なんじゃ」

 世界樹を呑み込む巨大な蛇とその中に潜んでいた哂う道化、未来を視ることができる隻眼の老人、雷の槌を握る筋肉質な青年。

 残ったのはこの一匹と三人。
 そして彼らが内包する魔力量の多さに、少しばかり関心を抱く。

「召喚術、ではないはずじゃ。……主様がよく行っていた魔導、あれを用いてナニカを施したのかのう? いや、<次元魔法>という可能性もあったか」

 その両方が用いられた武具こそが、昏睡したフェニの握る改良されたレーヴァティン。
 記憶から具現化した概念や事象を用意した次元へ、レーヴァティンの斬撃を用いて干渉することで世界を繋げる。

 次元の層とは、無限の可能性を秘めたフィルムのようなもの。
 一枚剥いでも加えても、それは必ず世界に変化を及ぼしてしまう。

 メルスの用意したフィルムは、そんな次元の層をほんの少しだけ、世界という画面の端に紛れさせるような形で顕在化していた。

「残った歪みはあと二つ。どちらを終わらせても決着はつくか……」

 鱗をもう一枚剥がし、そちらにも龍気を長し棒に変える。
 二刀流ならぬ二棒流の構えを取り、ソウは概念体の元へ向かう。

「観衆が求めるのは、儂がただ息吹で歪みを壊すところではない。圧倒的な力であれらを捻り潰すところじゃろう」

 あくまでエンターテインメント性を保つため──より難易度が高い方へ挑むのだった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品