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山田 武

偽善者と三回戦第二試合 その03


≪ほ、炎が消えました! ソウ選手、いったいどこまで凄いんだ!?≫

≪まあ、世界最強の名に偽りなしだよな。ペテン師に奪われた称号だけど、たしかに今まではアイツが全生物最強の存在だったんだ。映像でもやってたが、なんでもありの化け物でしかないだろう≫

 ラグナロクの炎は消え去り、舞台は再び何もない白い空間と化す。

 ギリギリで(炎熱同化)を解除し、回避に成功したフェニは上空に。
 炎を拳一つで打ち壊したソウは地上に。

 両者は互いから視線を離さず、睨みあうような形で静止している。

≪マスターのダンジョンをお試しで攻略した時も、誰よりも早く到達しましたしね≫

≪まあ、一番はメルスだけどな。けどさぁ、あれはいくらなんでもおかしいだろ! なんで罠を踏んでんのに無視できてんだよ!≫

 あるとき、眷属全員でカナタの迷宮を使ってのRTAリアルタイムアタックが行われた。
 一度目同様に、一部のスキルが使用不可能な状態でのダンジョン攻略。
 そのトップを飾ったのは──純粋な強さを誇ったソウである。

 罠を踏んでも、魔物が現れても、道が遠くとも……その身に秘めた膨大な魔力をほんの少しだけ使い、すべてを打ち砕いていった。
 お蔭でカナタとコア、それにサポーターとしてその場に居たメルスとレンはその光景に呆れてしまうほどだ。

≪だからこそ、ソウさんを止める者はこれまで現れなかったのでしょうね。そして、見事その地位に就いたメルスさんと今、ソウさんはいつも楽しそうにしているわけです≫

≪人生……いや、龍生に飽きていたから、新鮮さに酔ってるってことか?≫

≪いえ、その時期もあったでしょうが今はより別の感情ですよ。マスターのようにね≫ 

 この後、謎の言語で興奮するカナタであったが、そこに注目する観客は多くない。
 舞台で繰り広げられた、先ほどまでの闘いの余韻に浸る者がほとんどだからだ。



 ソウは追撃をせず、空を仰いでいた。
 何もない白い空間、かつての自分はこのような場所を望んでいたのだろうと。

「儂は退屈じゃった。先の炎のような技であろうと、儂が少しばかり念を入れて息を吹きかければ消えてしまうのでな」

「皮肉か?」

 自分の攻撃などすぐに無効化できた、そう言っているように聞こえたフェニのこめかみは、少しヒクヒクとしていた。

「こればかりは、ただの事実じゃ。そうして何も儂を満足させるものなどなく、求めることを諦めて儂はあの雲の上で永劫の時間を孤独に生きようとした」

 何かを思い返すように、遠い目をする。
 自分が初め、何を行い闘争の中へ向かったのかすら思いだせない。
 それでもただ、強くなる己に少しばかりの満足感を得ていた。

 だが度が過ぎる力は世界から拒絶される。
 本来であれば終焉の島に居る者は、すべて力を恐れられて封印された者だけ。

 しかしソウだけは、己自身で終焉の島に住まうことを選んだ。
 神々すらも払いのける圧倒的な力は、いつしかソウに虚無感をもたらした。

「だが、主様はそんなつまらない儂の障害すべてを否定してくれた。まだ先があると、その可能性を証明したのだ。ただ力があろうとも、抗えないナニカ……興奮したよ」

「ご主人に、そこまで深いことをした自覚はないだろうな」

「そうじゃろうな。じゃがそれでも、主様が儂にしてくれたことに変わりはない。どう受け止めるかなどそれぞれの勝手じゃ、儂はそれを好意的に受け止めた」

 その結果が変態ドM化なのだから、メルスとしてはいい迷惑だろう。
 それでもソウは、前向きにこれからを生きることを決断する。

「──とまあ、先の炎を破壊してしまった詫びとして待ってやったわけじゃが。これで充分であろう?」

「いや、もう少し欲しかった。まだ語る気はないか?」

「もうないのう。儂が話す間に終わらせないお主が悪い──始めるぞ」

 ソウの背中から銀色の翼が現れる。
 力強く羽ばたきを打った途端、暴風を生みだし宙を舞う。

 宙での立体機動を生かし、翻弄させながら一撃を加えようとした。

「“紅焔魔鳥プロミネンスバード”」

「甘いぞ」

 放たれた不死鳥型の炎を、一瞬で破壊していくソウ。
 すべてがたった一撃で、風船が弾けるように壊されていった。

 だがフェニは動じない。
 すべては予定通り、事は順調である。

「“紅焔閃光プロミネンスレイ”」

 ソウに向けて一本のレーザーが迸る。
 光の速さで飛んでいくそれを……肉眼で把握したソウは、ヒラリと回避した。
 龍眼は反射神経を強化する効果もあり、攻撃の意味を成さない。

「儂を拒み、時間を稼ぐのはそろそろ諦めた方がよいぞ──ほれ、もうすぐ傍じゃ」

 阻む怪鳥をすべて粉砕し、やがてフェニのすぐ近くまで接近するソウ。
 リストブレードに魔力を籠め、炎と化しても逃れられないように強化を施す。

「これで終わりに……っ!」

「ソウ、たしかにあの炎は掻き消された」

 フェニを中心に膨大な熱量が放出される。
 身の危険を感じたソウは、己の勘を信じてその場から離れた。

「だが、それはごく一部……表面上の炎だけだ。実際に炎は消えず、我の中で今も燃え続けている」

 フェニの全身から具象化された炎は、先ほどまで燃え盛っていたラグナロクの炎に酷似していた。
 あらゆる物を焼き尽くし、神をも一度は殺す終焉の炎。

 それが今、この場に再度現れた。


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