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山田 武

偽善者と二回戦第三試合 その05



「──決着はすぐにつく。シガンよ、儂を殺すだけの攻撃は準備できたかのう?」

「ええ、このルールが私の予想通りならね」

 彼女たちの闘いに設けられた特殊ルール。
 与えたダメージが増幅するという新たな法則が、世界最強へ届きうる可能性を与える。

 舞台の至る所に、シガンの生みだした武技や魔法が固定されていた。
 その一つ一つのカウントダウンを、シガンは首から下げた懐中時計型の魔道具を用いて正確に刻み続ける。

「儂の目には、お主が展開した攻撃のすべてが映っている。チャルのように不意打ちでトドメを刺すのは難しいぞ?」

「……なら、正々堂々と隙を狙って倒してみせるわよ。そのために、ここまで──」

「ふむ……ならば、もう少し開いておこう」

 その瞬間、ソウは自身を包んでいた魔力の膜を一枚解除した。

 そして漏れだす膨大な量の魔力。
 かつてメルスが体験した、圧倒的な魔力の奔流──その一部がシガンを襲う。

「っ……! スーハー、スーハー……」

「怯えぬか。耐性の有無など関係なく、魂魄へ直接働きかけるはずだが……」

 呼吸を深く行い、心臓の脈動を整える。
 体を圧迫する重圧感が和らいでいき、再びシガンの思考を正常に進ませていく。

「メ、メルスとの練習でちょっとね」

「なるほど。そういうことであれば、儂程度の威圧など塵にも等しいじゃろう。では、お主の実力を儂に教えてもらおうか」

 携えた刀の柄に手をやり、いつでも抜刀できる構えを取るソウ。
 シガンは若干その動作に怯えながらも、最適な攻撃を選択して──発動させる。

「──“閃空斬ライトスラッシュ”」

 速度を意識され、光速で飛翔する斬撃。
 放たれたその一撃を……ソウの瞳は完璧に捉えていた。

「“抜刀バットウ”」

 反射的に振るわれた横薙ぎは、自身を殺しうる強大な威力を持った武技をあっさりと斬り裂いた。

 解放された魔力による身体強化、龍眼によるエネルギーの核となる部分の見極め。
 これら二つが超硬度の刀による一薙ぎに噛み合い、先の現象を引き起こすことになる。

「さすが、主様の国が生みだした剣。斬り裂くことに特化しておる──“禍通風マガツカゼ”」

「……3、2、1、0!」

 闇色の風が吹き荒れ、妖しく輝く斬撃が放たれる。
 シガンは冷静にカウントダウンを唱え終えると、発動する事象の名を告げずに・・・・・・事象を引き起こした。

「……ふむ、一回戦から変わったようじゃ」

「貰い物のお蔭よ」

「主様か……」

 イヤリング型の魔道具によって、シガンの【未来先撃】の能力は格段に向上した。
 魔法や武技の発動宣言は不必要となり、同時に発動させる事象は一度のカウントダウンで発動可能……反則ギリギリチートである。

 禍津の風を爽快な風が相殺していく。
 一吹きでは掻き消されてしまうが、それが何度も吹くことで対応に成功する。

「……これ、かなり最初の方から溜めていた魔法なのよ。どうして何個も使わないと相殺できないのかしら?」

「それが儂とお主の差だ。レベルや能力値などの問題ではなく、そもそも立つべき次元が異なる……理解したかのう?」

「ええ……嫌って程ね!」

 炎、氷、雷、岩、光、闇、斬撃……あらゆる事象がソウに向けていっせいに放たれる。

 だが彼女は慌てず、ゆっくりと口の中へ魔力を溜めていく。
 そして、刀身へフッとそれを吹きかけると刀を上に掲げ──

「“一刀両断イットウリョウダン”」

 放たれた斬撃が、世界を斬り裂いた。
 比喩などではなく、本当に世界をズラす。
 空間に裂け目が生まれ、あらゆる現象を呑み込む穴がポツンと出現した。

「……や、やりすぎたかのう?」

 ソウが呟くも、すでに遅い。
 メルスによって張られた最高の結界を吸い込めないと悟った穴は、その内部だけでもすべて吸い込もうと何もかもを無に帰すために吸引を開始する。


≪──緊急事態ですので、ここで主催者様からのお言葉を放送します!≫


「! これって、もしかしてメルスが!?」

 主催者が誰かなど、会場の全員が知っていることだ。
 舞台の二人にも届くようになったアナウンスを介して、メルスからの言葉が場に居るすべての者へ伝えられる。

≪あ、ああ……これでいいか。そこの馬鹿がやりすぎたわけだが、面白いので今回だけのルールを追加だ。──あの穴を埋めた方が勝ちってルールを追加で。ただし、ソウは通常状態に戻って攻撃するのは無しだ……さすがに結界がどうなるか分からん≫

≪メ、メルスさん……あの結界はどれくらい持つんですか?≫

≪ティルが次元を裂くことを前提に用意していたから問題ない。人型のソウが息吹を吹いても壊れはせん……シガン、勝ちたきゃ教えた通りに使うしかないぞ!≫

 一方的にそう告げて、メルスは実況席から去っていった。
 アナウンスが状況を会場に伝えて盛り上がるわけだが、メルスの言葉を最後に舞台の二人には声が届かない状態に戻っている。

「まだ何か隠しているのか……ならば、早急に手を打つ必要がありそうじゃ」

「……逃げれば勝ち。なんて、言ってはいられなさそうね」

 今も次元の裂け目は万物を呑み込むため、引力を高めている。
 二人は魔力で足場を固定しつつ、互いの挙動をジッと見つめた。


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