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山田 武

偽善者と二回戦第三試合 その01



≪盛り上がった試合も半分を消化し、後半戦となりました! 第三試合はソウ選手VSシガン選手! 圧倒的な力が勝つか、それとも工夫を凝らした逆転劇が起きるのか──皆様もぜひご注目ください!≫


 湧き上がる歓声を聞き、眉をヒクヒクとさせるシガン。
 無理だから、こればかりは無理だからと。

 クラーレたちにはやるだけやってみると伝えたシガンだが……目の前の女性を見ると、そう言う気力を削がれてしまう。

ぬし様……」

 どこか遠い目をした龍人……を装った本物のドラゴン。
 ここではないどこかに意識が逸れている今でも、暴力的とも言える量の魔力が、彼女の体内で循環しているのが感知スキルで理解できてしまう。

「ねえ、主様ってメルスのことよね……」

「……おお、お主がチャルを倒した者であるか。やはりか弱き者ではあるが、主様同様秘めたナニカがあるのだろう」

「えっと、たぶんそういうのは無いと思うわよ。私はメルスの眷属じゃないし」

 プレイヤーにもユウやアルカ、今回の武闘会に出ていたシャインのようにメルスから眷属とされる者はいるとのこと。

 だが、自分はそうではない。
 一般のプレイヤーより優遇されているとは思っているが、もっとも自分たちの中で縁深いクラーレも眷属ではない。

 あくまで同じ冒険を共有する、一時の関係である。

「主様の考えを理解できる者はいない。だがそれでも、何かしらの意味はある。それを奇妙な機会に告げているはずだ。思い返せば、主らをどう思っているか分かるはずだ」

「……貴女のこと、誤解してたわ。メルスは貴女のことを『どうしようもない変態』だって言ってたけど、本当は──」

「んっ! や、やはり主様は素晴らしい! あれだけのことをしておきながら、ここまでサービスしてくれるとは」

「…………えっと、撤回しておくわね」

 悶えくねるソウの姿は、先ほどまでの存在の深さを一瞬で崩すものであった。
 荒い息を吐き、顔を紅潮させている……まさに変態である。

「シガンと言ったな。儂も前回の試合を経て学んだ。ルールによる縛りも課せられた故、あの男──ナックルとやらに行った一撃での終わり方はせぬ。……このように、武具の一つでも使ってみせよう」

 これまでにドラゴンの力を持った者たちが行っていたような、鱗を剥がして魔力を籠める行為を始めるソウ。
 すると彼女の鱗も同様に輝き、望むままに形を変える。

「主様の作った物とは異なり、大した性能を持っているわけではないが……それなりの硬度があることは保障しよう」

「日本刀って……どんだけ教えてるのよ」

「主様の打った刀の凄まじさは、ティルが振るう姿を見て理解しているだろう。それを模しただけだ、そう鋭くはない」

 そう告げたソウであるが、試しと言わんばかりに軽く振った途端──地面に深い斬撃痕が刻まれる。
 たとえ刀としての性能が低くとも、そこに秘められた魔力が斬撃を強化し、事象を改変するだけの威力を生みだす。

 ドラゴンが武器を生みださず、己の肉体だけで闘うのは──その方が強く魔力を籠めることができるからだ。
 だがそれはもっとも効率がいいだけであって、武器を生みだす行為が無意味というわけではない。

 ドラゴンの中にも人が用意した武器を装備する者はいるし、己の体を武器に作り変えて戦う者も存在する。
 ソウもまた、メルスと出会うことでそうした考えを得た……変わり者であった。

「シガンとやら、主はチャルに勝った。その事実は変わらぬ。どれだけ卑下しようと、それは自身を貶める行為でしかない」

「そうね……けど、貴女は私を一撃で終わらせるだけの力がある。私には、そんなことはできない。口を動かして時間を稼いで、油断させて不意を突く……こんなところかしら」

「立派ではないか。主様など自爆覚悟で特攻した挙句、肉体をズタボロにして墜落したと思えば儂の体を影で縛り、心の臓まで貫く鋭い一撃で殺しおった。……アレには劣っているが、それでも誇れる行為であるぞ」

 殺した、という点に疑問を抱いたシガンであったが……まあ、メルスだからかといった理由で納得する。

(まだ自由民を自在に蘇生できる魔法もスキルも見つかってないんだけど……たしか、クラーレの固有スキルがそうだって言ってたわよね? なら、メルスもそういうものを隠しているってことなんでしょう)

 実際、メルスはAFOにログインしてから僅か一週間足らずで、魔子鬼の集団をすべて蘇生させるだけの魔法を有していた。
 プレイヤーたちはその存在に気づいているのだが……その他に必要なスキルが欠けている者が多く、情報は秘匿されている。

「ほとんどの眷属が、主様に敗北し従属した身。分かるか? 全員を相手取って、そのすべてに勝利したのだ。それは純粋な力だけでの勝利ではない。今も主様は■■■■……また引っかかってしまったか」

「えっ? 今、なんて──」

「これ以上は主様自身に訊いてくれ。それより今は、闘いを始めることに集中しよう」

「……後で教えなさいよ」

 互いに武器を構え、姿勢を整える。
 それが運営側へ準備が整ったと伝える合図となった。


≪今回の特殊ルールはダメージ増幅! 第三試合──始めてください!≫


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