AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と一回戦休憩時間 後篇
席へ戻り、舞台を上から覗く。
まだ五試合目の参加者は登壇しておらず、わいわいと騒ぐ声が至る所で聞こえる。
そして、隣の席から重たい視線が──
「戻ってきたか……」
「ああ、戻ってきたぞ。どうした? そんなに恨めし気な目でこっちを見て」
恨まれるようなことをしただろうか?
生憎、思い当たることはないのだが……。
「料理を、振る舞っていたそうではないか」
「まあ、出店をやってたからな」
「儂が! 食べたいといったのはなんだったのじゃ!」
「……料理長が作ったんだろう?」
料理長の腕前なら、ジークさんも間違いなく満足する……というか、いつも満足しているはずだろう。
高性能の魔道具をリーンの研究部が開発しているため、創作物でもよくある『貴族の料理は冷めている』という問題はとっくに解決しているんだが。
「アヤツもたしかに、いつも通り美味しい料理を作って持ってきた。じゃが、料理を儂らが食べているその隣で、自分は別の物を食べていた……もうオチが分かるじゃろぅ?」
「──俺の料理だったか」
そういえば、王城の厨房で見たことある顔があったような……気もする。
当時は{夢現記憶}も【完全記憶】も無かったから、俺の低スペック記憶領域だけで人物の情報を覚えるしかなかったからな。
「つまり何か? 食べている物を訊いたら俺の料理で、それを食べたいと言ったらあの手この手で誤魔化されて食べれなかった。だから俺に当たっている……こんな感じか?」
「うむ。その通りだ」
物凄く誇らしげな表情。
そこだけみれば、なんだか王としての貫録が滲み出ているのだが……理由が残念だ。
「……シグル、ムント。お前たちもか?」
「いえ、ぼくたちは別に」
「お菓子を貰ったから」
「何!? お、お爺ちゃんを裏切るのか? メルスが来るまで、デザートにアイスが欲しいと言っていたのは嘘じゃったのか?」
『…………』
ジークさんから目を逸らす二人。
料理長、さすがにアイスは用意してなかったか……。
「ところでジークさん、ならジークさんは何が食べたかったんだ?」
「む? それは……その、だな……」
「決めてなかったと。料理長だって、それがちゃんと決まっていれば許してくれてたかもしれないな──ほら、アイス二つだ」
『ありがとう!』
幸いアイスのストックは、俺用の物がいくつかあったのでそれを渡しておく。
チューブの中に甘い液体を流し込んで凍らせた──いわゆるポッキンアイスだ。
……言い方は多々あるらしいが、俺は折る派なのでこの言い方を主張しておく。
「ぐぬぬぬ……」
「それで、ジークさんは何が食べたい? お任せ、って言うなら無しだけど」
「…………」
「何でも良いってのが、一番困るんだよ。料理人にとって、その受け方は別だが……少なくとも俺は面倒だと感じる」
無論、眷属──特にグラ──の場合は別。
作れる限り料理を作り、その中からどれを食べるか……ぐらいのことはやってみせる。
「ならば、あれじゃ……試合観戦の供というヤツを頼む」
「……まあ、それぐらい固まっていれば問題ないか。適当に用意するから、二人も好きに取って食べてくれ」
席から立つのも鬱屈だったので、座ったまま調理を始める。
取りだした素材を“不可視の手”の上に並べては、同じく手を働かせて加工していく。
干渉して魔力を通せば魔法も行使できるので、火を使った調理も──まさにお手の物。
「……とりあえず、こんな感じか。ジャンクフード系を用意してみた。魔物由来の油でかなり油分はカットしているつもりだが、健康に害が及ぶまで食べるなよ」
「分かっておる、分かっておるぞ! これがれば、観る楽しみも増えるのぅ!」
「それならいいが……アーチさんは家族サービスか? 護衛も無しに居られるってのも、少し不安だな」
奥さんと娘であるリルちゃんと、いっしょに試合を見るのだろうか?
試合が残酷だから駄目、というのも自分の試合を見にきた娘には言えないだろうし、たぶん会場のどこかに居ると思う。
「最強のお主が居るこの場こそ、この会場の中でもっとも安全な場所じゃ」
「眷属の連携攻撃を受ければ、俺も負けるんだからな。……同時に大量の眷属から裏切られる、なんてことがあれば戦う前に絶望して戦意喪失だろうけど」
「お主を裏切る者など、あの者らの中には居らぬだろう。それはお主自身が理解しているのじゃから、問題にならぬ」
来る者拒まず去る者追わず? いやいや、そんなことないからな。
来る者は来る者で、なんだか眷属が最近はチェックしているみたいだし。
去る者に関しては俺が必死で泣き寝入りして去らないように脅す予定だ。
人一倍【傲慢】で【強欲】である俺にとって、別れとは許し難い事象の一つでもある。
死が二人を別つ? 馬鹿言え、死んでも離さないと言ってみせよう。
それが【色欲】に溺れ【嫉妬】に塗れた、愚かで下劣で低俗な俺のささやかな誓いだ。
「さて、そろそろ試合が始まるかな? 料理作りばっかりやってたし、そろそろ自分が食べる側に回りたくなったよ」
「では……食べるか?」
「もともと俺の作ったヤツだよ」
お次は誰が闘うんだろうか?
組み合わせにドキドキワクワクだ。
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