AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とルール説明



≪レディース&ジェントルマン! まもなく第一回世界一武闘会の開会式が始まります。客席には着いたか? そうでない奴も、立ち見の準備はできたか? 主催者の気まぐれで行われるお祭り騒ぎが、とうとう幕を開けるときが来た!!≫

 その日、偽善者の支配する世界の住民はすべて、第四世界にある闘技場へ集っていた。

 辺りには出店が並び、美味しそうな香りを至る所へバラまいていく。
 すぐに闘技場へ行こうとしていた者も、その匂いにつられて財布の紐が緩んでしまうのはご愛敬だ。

 年も性別も種族も住む世界も関係ない。
 ただ祭りに騒ぐ愛すべきバカたちが、そこには集まっていた。

≪進行は私、鬼人族のホウライが担当させていただきます……くー! こんな特等席で試合が見れるなんて、主催者様ありがとうございます! 応援の方、少し多めにさせてもらいますよ!≫

 完全に依怙贔屓宣言であったが、誰もそれに顔をしかめることはない。

 主催者こそ、彼らの世界を統べる者。
 そこに軋轢など……多少しかなく、あったとしても小さなものばかり。

 歓声に暗い声は一つもなく、賑やかで明るい声が場を包み込んでいく。
 それらは闘技場の控え室で待機する参加者たちにも聞こえ、頬を緩ませることになる。



≪さあ、周りに流されてホイホイついてきた皆様のために、もう一度今日のイベントについて説明したいと思います!≫

 一部の者が『ありがたい!』と言っている中、進行のホウライは説明を始める。

≪第一回世界一武闘会は、主催者様が突然決めた皆様のストレス発散イベントでございます! 個人の部と団体の部に分けて行い、それぞれで異なる盛り上がりを魅せるとのことです。本日からしばらく、個人の部による最強決定戦が行われます。ただ、両方に参加することは禁止されており、個人戦に出た者は団体戦には出れません……つまり、あのお方の姿が見たいのであれば、個人の部のチケットが必要というわけです≫

 ストレスなど感じていない、そう告げようにも相手がいないので観客はそのまま話を聞き続ける。

 実際、主催者の世界管理は杜撰だが、周りの者が補助をしているため民たちは大きなストレスを抱えていない。
 その上、ストレスを発散する場なら別の形で用意されているため、残った小さなものもすぐに消えている。

 目的を果たすことは不可能であると知らないのは、主催者のみであった。

≪個人の部の参加人数は16人、皆様ご存知のあの方やこの方に加え、主催者がお招きになった祈念者プレイヤーも闘うぞ!≫

 ──祈念者。
 突然下った神の天啓、その中で語られた異界より現れし者たち。
 神より肉体を与えられ、あらゆる可能性を秘めた者たち。

 主催者もまた、そうした祈念者の一人であるため、どんな闘いを魅せてくれるのかで興奮し始める。


 ここで、騒ぐ声がかなり大きなものになってきたためホウライが鎮めていく。

≪はいはい、落ち着いてくださいよ。ここからが本番──ルール説明ですよ≫

 ピタリと声が止み、静寂が場を支配する。

 ここまでは事前に情報が通達されており、観客たちも半ば聞き流すように話を聞いていたのだが……ルールに関しては当日の発表とされていたため、耳を澄まして情報を確認しておきたかった。

≪ルールは簡単、相手を舞台から出したら勝利といったものです。舞台には特殊な結界が張られており、生命力が0になるダメージを受けた場合排出される仕組みを持っているのです。なので、相手をギリギリまで痛めつけて無理やり外に出すか、はたまた自主的に降参させて降ろすか、それとも試合中に落とすかの三パターンで上へ勝ち上がる者が決定しますよ!≫

 前にも数回、そうした形式で模擬戦が行われたことがあるため、観客たちはすぐにそれらを理解する。

 ただ、問題はこれからだ──

≪最初の内は、それ以外のルールはございません。一回戦の対戦がすべて終了後、観客席に座る皆様がルールを追加するのです。──観戦チケットはそのアンケート用紙を兼ねておりまして、本日の試合が終わると自動的に紙が用紙へと変化するします≫

 闘技場の外から悔しがる声が、中から盛り上がる声が響いていく。
 自分たちが、間接的にとはいえ武闘会へ関わることができる。

 観客席に座る者たちは、そのことをひどく気に入り喜んでいた。

≪もちろん、突然『参加者はビキニで戦闘をする』……なんてものは許可されませんからね。明確な理由を記すことで、ようやく運営委員会のチェックを受けることが許されますから。それに、女性だけを狙い撃ち……なんてこともできませんので、もしそんなことをしたら主催者様までビキニを……あれ? それはそれで見てみたい気がしますね≫

 誰も遠くで叫ぶ声など気にしない。
 話はもう少し、詳細なものへ── 

≪個人を指定したものは不採用は確実です。また、スキルの階級に合わせた縛りなどもしてはいけませんよ。それをやると、主催者様がかなり不利になりますからね。どういった行動が禁止なのか、それを分かりやすく書いていただければ採用の確率は上がります。決して『理不尽な行動は禁止』などと書いてはいけませんよ。参加者の半数以上が何もできなくなりますからね≫

 参加者のスペックを知る者たちは、それを思いだして苦笑いをしてしまう。
 拳を振るえば空間が割れ、剣を振るえば次元が裂ける……参加者の中にそういった類の者たちがいるからだ。

≪他に質問がある方は運営委員会まで。その質問が有意義なものだと思われれば、あとで私が読み上げますよ≫

 そういって、一度言葉を切り上げる。
 そして、大きく息を吸って──

≪下準備はこれでおしまい! では、開会式に移らせていただきましょう! 選手宣誓、主催者様……お願いしますっ!!≫


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