AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色のスカウト その06
「いつだって、中途半端なタイミングでしか関われないんだよな。これこそ不幸でも悪運でもない、凶運の底力だろ……」
利便性の高すぎる<八感知覚>が、どこかで大きな魔力反応を感知した。
翼を使って急げば間に合うが、すでにその反応は近くの小さな反応と接触している。
「固有パターンの波長が、前に見た奴と似ているな。オウシュが戦ったって奴とも類似性が見受けられるし……そういうことか」
またもや関わることになりそうだ。
カカの代理で働いているとはいえ、それは公式じゃないし本神も苦悩している。
ならば俺がやることは一つ──何も考えずにその場へ急行し、救われるべき者へ手を差し出すことだけだ。
「それじゃあさっそく……って、ん? これは……」
すぐさま向かおうとしたのだが、また別の場所を<八感知覚>が感知した。
「……ふむふむ、なるほど。そういう展開でござんしたか。結局やることに関しては変わりないだろうけど、それなら少し演出を混ぜといた方が偽善者らしいかな?」
なんでもかんでも救っているだけでは、偽善者として成り立たないだろう。
時に善を協力し、時に悪に加担する……それこそが、私欲のために動く偽善者の有様というものだ。
「そのために、俺がすべきことは……うん。今回はここが分岐点だな」
翼の角度を変え、方向転換をする。
進路が変化し、それに伴い運命が新たな道へ分岐していく。
それこそが、俺の望む展開だ。
◆ □ ◆ □ ◆
少年は今、絶体絶命の危機に陥っていた。
立ちはだかる壁は堅固にそびえ、少年に市の運命を押しつけようとしている。
『弱い、弱いぞ人間。その程度の力で、この俺様に刃向かうのか』
「……お前は、街を襲うだろう……」
『ああ? んなもん当然だろ。邪神の力があるんだからよぉ、暴れてやりたいことをヤってくのが義務ってもんだろぉよ』
それは、巨大な獣だった。
それは、鋭い牙と爪、角を生やしていた。
それは、爛々と殺意に満ちた瞳を燃やしていた。
『アイツらは! 俺様からすべてを奪っていきやがった! 挙句の果てにこんな場所に閉じ込めやがって……くそっ! 思いだしただけで腹が立つ。絶対ェに殺してやる』
「だからこそ……ぼくは、立つんだ。お、お前が、街を破壊すると言うのなら……」
『やってみろよ、クソガキ。一度たりとも俺様を傷つけてねぇってのにな!』
巨躯に似つかわしい俊敏な動きで、獣は少年の近くに移動する。
これまでの戦いでその動きを知っていた少年は、どうにか体を動かそうとする──
『遅ぇんだよ!』
「カハッ……!」
が、獣の動きはそれをはるかに凌駕する速度で行われていた。
軽く払われた前足が、暴風を生みだす。
抗いようのない突風に煽られ、少年は洞窟の壁に叩きつけられる。
『おいおい、いい加減にしてくれよ! 俺様は一度たりとも直接手は加えていないぞ! それでも死にかけるテメェに、いったい何ができるって言うんだよ!』
「……んを」
『ハ?』
「時間を、稼げる。たしかに、ぼくにお前は倒せないだろう……けど、他の誰かがここに来るまでの時間は作れる。だから諦めないんだ。きっと、お前が負ける」
弱りながらも、必死に綴った宣告。
少年は共にこの場所で冒険をした仲間たちが、救援を連れてくることを信じていた。
だからこそ、希望を捨てずにちっぽけな抗いを続けている。
──抱けぬ願いほど、辛く諦めやすいものだと知っているから。
『クッ、ククク……クハハハハハッ!』
「何が……おかしい」
『テメェのそういった馬鹿な考えがだよ! ああそうさ、俺が本気を出せばテメェなんかすぐに殺せるさ! じゃあなんで殺さなかったと思う? どうしてあの瞬間、息でも吹きかけて潰さなかったと思うんだよ!!』
獣が笑い声を上げるだけで、洞窟の中が激しく揺れ動いていく。
パラパラと天井から砂埃が降り注いでいく中、獣は少年に告げた──
『聞こえたんだよ! テメェらが洞窟の中に入ったそのときによ! アイツが邪魔だ。アイツを殺そう。いけ好かないガキの前で、大切にしていたアレを嬲ろうってな! ケヒャヒャヒャヒャヒャ! 馬鹿みてぇ! 今頃ソイツは、テメェの大切なお仲間って奴に犯されてんのかもな!』
「…………」
呼吸が、止まった。
少年の意識は一瞬で白に染まり、膝と手を地面についてしまう。
『阿保だよな。テメェも、テメェの仲間も。どうせすぐに死ぬのに、意味もなく喚いて騒いで……。安心しろよ、テメェは少しだけ生かしてやる。俺様も見てみてぇからよ、アイツらが何をしたかったかをよ』
「…………」
『チッ、だんまりかよ。それはそれで、意識が戻った時の演出が盛り上がるんだからいいけどよ。……さて、コイツを連れてとっとと街を滅ぼしますか』
少年の首根っこに爪を引っ掛け、天井まで跳ね上げる。
「ごぶっ……!」
『おおっ、意識が戻ったか。なら、いっしょに来てもらうぞ』
「ど、どこに……」
『決まってんだろ』
獣が何かしたのか、答えを聞いた途端少年の意識はプッツリと途絶える。
その様子に満足しながら、獣は天井を突き破って外へ出るのだった。
『──悲劇を観るんだよ』
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