AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色のスカウト その03



 空から人が落ちてくれば、当然注目を浴びてしまう。
 こういったとき、気が利く偽善者は隠蔽工作を行ってくれるぞ。


「誰も気づいてない……」
「というより、視覚でしかアンタたちを確認できなくなったんだけど」

「共有しているから見れるんだよ。それに聴覚だって、やらないと危ないからな」


 俺の場合は眼が特殊なのであらゆるものを看破できるが、片方はともかくもう片方が適応できるか分からない。
 簡単に言えば──細かいことを考えるのが疲れたので、最低限の偽装だけで済ませたってわけだな。


「さて、ここからは俺のガイドで街を練り歩くわけだが……どこか行きたい場所って要求はあるか?」

「えっと、何があるんですか? メルスさんに無理矢理連れてこられたので、そもそも分からないんですけど」
「むしろ、どうしてそこで要求できるの?」

「普通の都と大して変わらんぞ。ギルドはあるし、教会には聖堂も置いてある。そりゃあ城に連れてけって言われたら少し悩むが……可能な限り、案内はするつもりだぞ」


 現代っ子ならこんなとき、迷わず休んでいられるフリーWi-fiスポットに案内するよう指示するだろうな。
 そういった点でも、彼らは純粋で微笑ましく思えてしまうのか。


「それなら……あの、誰か武術を教えてくれる人の場所をお願いしたいです」
「オウシュがそういうなら……私は、ついででいいからさっきの魔法陣のことを知っている人をお願い」

「──それ、両方とも俺になるけど」


 少し、静寂が場を支配する。
 そもそもオウシュには適当なことではあったが、形だけも戦い方を教えた。
 結界に至っては、先ほど俺が説明をしていたのを忘れたのか。


「まあ、別の奴でもいいけどさ。ほれ、俺がいいか別の奴がいいか……選べ」


 二人は迷うことなく──別の奴を選ぶ。
 そのことに若干涙腺が緩くなりつつも、条件を満たす者たちが居る場所へ移動する。



 その場所は、都市の中央にあった。
 この都市のどこよりも赤く、そして紅く朱い建物である。


「──はい。正面に見えますは、この都市に建てられた城である『セッスランス城』でございます! 非常時の際は、ある魔法陣が発動しますが……まあ、たぶん使う日が来るのは訓練の時だけでしょう」

『…………』


 目を奪われる、とはこのことか。
 口をポカーンと開いたまま、呆然と立ち尽くす村のリア充カップル。

 ふっ、上から見ているとはいえ下からの景観も完璧だろう。
 しっかりと、仰ぎ見た際の見栄えもよくなるように工夫したのだからな。


「さて、それじゃあ入りますか。あ、二人が要求したのはこの国の姫様と天使様だから、挨拶は大切だ──」

『ちょっと待(ってくだ)(ちな)さい!』


 軽い雰囲気で城に向かおうとしたが……なぜか肩を掴まれ、彼らの居る場所まで引き戻されてしまう。


「えー、いったいどこにツッコむ要素があったんだよ。何もおかしいところなんて無かっただろ? なあ!」


 最後の部分は城の前で待機する衛兵さんに向け、大声で言った。
 その言葉の意図が分かったのか、二人居た衛兵さんの内一人が、手に持った魔道具へボソボソと口を動かし始める。


「メルスさん、普通の人でいいんです! わざわざお姫様に教わらずとも、ボク程度であれば限界に達しますから!」
「て、天使って……あの、伝説の!? こ、この国に天使様が居るの!?」

「……過剰な反応ありがとう。二人が俺よりも、上に見ている皆々様のことがよく分かって参考になるよ」


 ふ、ふん! 俺の方が、ご主人様なんだからね! ……たぶん、いちおう、メイビー。
 仰ぎ見ているその偶像は、どっちも俺の配下なんだから俺の方が偉い!
 うん、そういうことにしておこう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 しばらくして、俺は一人体育座りの状態で蹲っていた。
 衛兵がオロオロとしているが……本当に、そっとしておいてほしいです。


「──天才というわけではないが、鍛えればどこまでも伸びるな。愚直なまでの修練を重ねたとき、君はその真価を知るだろう」

「は、はい!」


 視界の右側では、剣士同士が闘いながら教授とかしてるし──


「私も結界を防御に使いますが、流動できるようにすることが大切ですね。それに、柔と剛──受け流す力と拒む力を瞬時に切り替えることで、より効率の良いものに仕上がると思いますよ」

「あ、ありがとうございます!」


 左側は左側で、結界の運用法で盛り上がっている。


 ふんだっ! 俺なんかいなくとも、お二人はさぞ楽しそうでござんすね!

 いいんだ、別に。
 今回のスカウトは二人に満足してもらうのが目的であって、俺がちやほやされたいわけじゃないんだし……。
 さ、寂しくなんかないもんね!


「あの……メルスさんですけど──」

「気にするな、君も分かっているだろう。半分は構ってほしいという演技だ」


 ウィー、半分じゃないから。
 九割九分九厘、純粋な寂しさだよ。


「さすがの私も、あれはほっとけなくなるんだけど……」

「ご安心ください。メルス様には後ほど、あのような思いをすっかり忘れてしまうような喜びが訪れますので」


 レミルさんや、押しつけの喜びって案外本人が喜べない場合があるらしいぞ。
 サプライズを事前に知っておきたい奴とかがいるように、俺だって毎度毎度ドッキリだと対策に疲れるんだ。


 結局この後、応援に現れた眷属に慰めてもらうことで回復するのだった。



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