AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色のスカウト その02



「──はい、到着っと」


 二人を連れて、国へ飛んだ。
 この説明から異常を検知することは、まあ難しいだろう。


「ちょ、ちょっとメルスさん!?」
「あ、アンタねぇ!」


 だが、二人は驚き怒り、通常のものではないだろう。
 さて、それはなぜか。


「ようこそ、俺の街『紅蓮都市』へ! そしてその全貌を初めと明らかにできる、二人の少年少女に乾杯!」

『きゃぁああああああ!』


 もちろん、喜んでいるわけではない。
 自分たちの状況を正確に把握し、そろそろ叫ばないとやってられなくなっただけだ。


「安心しろよ。こっちの方で最低限のバックアップはしてあるから死にはしない。それよりほら、絶景が見えるじゃないか」

『死ぬぅぅぅっ!』


 そう、上空からのスカイダイビングで観光の始まりを執り行わせてもらったよ。
 命綱もパラシュートもなく、翼も無い二人には少々酷なことをしたかもしれないな。


(──“無重力ゼログラビティ”)


 仕方ないので重力魔法で速度をコントロールして、ゆっくりふわふわと二人を地上に降ろすことにした。


「……けほっ、こほっ。し、死ぬところだったじゃないですか」
「こんな場所に連れてきて、いったいどうするつもりよ!」

「まあまあお二人さん。せっかくの遊覧飛行なんですし、一度下に意識を向けてくださいよ。風のブレは無くなったでしょう?」


 そういって、景観を見ることを促すと──


『うわぁぁぁぁ!』


 先ほどの悲鳴とは別の、感嘆の息を漏らすような声が聞こえてくる。
 ふん、都市の配置に関しては俺がある程度絡んでいるからな。
 生産神としての力をフルに使えば、余裕で黄金比並みの美しさで街を建てられる。


「この並び……魔法陣ですか? 効果はよく分かりませんけど」
「魔力徴収による結界の維持、ぐらいなら分かったんだけど……本当に意味があるの?」

「そりゃあるさ。だけど、いくつあるかは自分で調べてくれよ。話を呑むってんならヒントを出すが、それでも答えは言わない。結界は周りに教える用に見せてるだけだしな」

「あの複雑なものが、ですか!?」
「くっ、たしかに完璧と言いたくなるわね」


 解析班とスーによる、魔法陣型結界だし。
 想定しうる最悪に備えるため、彼女たちが必死に考えた壁の一つだ。

 残念なことに、その耐久度はドMな銀色のドラゴンに負けてしまうのだが、それでも核兵器程度なら耐えられる代物となっている。
 ……いったい、どこまで硬くしてから仕込むつもりなんだ。


「あれを見て覚えても、ほとんど意味ないと思うけどな。魔力伝達効率のいい素材をふんだんに使った上で、大量の人々から魔力を集めてようやく展開できるんだぞ? 聖女候補とはいえ、人一人で使えるはずがない」

「……それもそうね」
「メルスさんなら、なんだかできそうですけど……」


 そりゃあな、(他称)人外枠でもあるし。
 これを数重でも発動可能だし、俺専用のより強固な防御魔法もあるぐらいだぞ。


「と、まあこれが街の外観だ。……ほれ、さらにその奥を見てみろよ」

「あの……急に暑くなってきたんですが」
「“耐熱付与エンチャント・レジストヒート”。……でも、ダメみたいね。魔力消費が早すぎる」

「止めとけ止めとけって。降りるまでは少し時間をかけてるし……そうだ、これを飲んでおけばいいだろう。体温を自動的に調整してくれる飲み物(高温用)だ」


 そういって、“空間収納”からクーラーなドリンクを二つ取りだして渡しておく。

 いつまでも保護しておくとナーラの方にバレそうだったので、少しずつ解除していた魔法版(快適調整)がちょうど解除された。
 そして、どうせならとストックが余っていた二本のジュースを飲ませたわけだ。


「味はまあ保証する。改良に改良を重ねた、絶妙な味だ」


 飲んだ二人の表情を見て、そこは満足しておく。
 もともとの味は、ホ°カリに独特の苦さが混ざったような味だったからな。
 美味しくなるよう、研究を重ねたよ。


「暑さが無くなりました。凄いポーションですね、これ!」
「……信じられない。一本だけで、こんなに効果があるなんて」

「あの都市だとこれが、100アーカほどで販売されている。外だといくらぐらいになっているか知らないけど……材料費が安いからな、特に困らないぞ」


 全部異世界産のアイテムで作ると、あとで困るのでこっちの世界のアイテムだけでどうにかやりくりしてみた。
 幸い、この世界にも涼しい場所があったので、そこで生えていた薬草を繁殖させて使用することでドリンクは完成したぞ。


「──と、ここまで街の外から街のことについて説明してきたわけなんだが……どうだ、行きたくなってきただろう?」

「ここまで盛り上げられれば、行きたくもなりますよ」
「オウシュがそういうなら……私も、行ってあげなくもないわね」

「はいはい、ツンデレ乙。それじゃあカップル一組、紅蓮都市へご案内!」


 後ろでギャアギャア言いだした奴は、もう一人が宥めてくれているので問題ない。
 ゆっくりと落ちていた彼らの上から優しく風を送り、移動速度を速めていった。



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