AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と異常の森



 始まりの草原


 さて、途中であまりに脱線したが──話題は今居る場所に戻る。

 海での冒険を一時中断した彼女たちは、なぜか初心者のフィールドでもある『始まりの草原』へ足を運んでいた。
 ……まあ、ギルドハウスはそこにあるから仕方ないんだけど。


「……恥ずかしいです」

「クラーレ、気をつけなさいよ。ああいった言動は誤解を招くわ」

「うん……それもこれも、メルが悪いんですから。メル、反省しなさ──」

「反省するのはアンタよ、クラーレ」

 ゴツンと鈍い音が辺りに響く。
 魔法も使うがシガンは戦闘職、回復職であるクラーレの防御力など容易く超える。

「アハハハッ! いい気味だー! そうやって、何時間も言葉攻めにしてー。逃げようとしても霊呪で縛った恨み、私は忘れないからなー!」

「……シガン、あれも殴ってくださいよ」

「無理よ。自分が悪かったんだと反省する、イイ材料になるじゃない」


 うん、途中まではそれまでのテンションの残滓もあって平常でいられたんだ。
 けどさ、少しずつ通常モードの思考に回復するたびに理不尽さに疑念を抱いていき……今に至ると。

 えっ、いろいろと説明が足りない?
 そりゃあクラーレに何かを言われること自体には、何も問題ないんだ。
 彼女の意見を聞き入れ、俺では考えつかない発想を手に入れられるかもしれないし。
 他者から得る情報というものは、財宝以上の価値がある場合もあるというぞ。


「ふっふっふ、何より問題は一方的過ぎたということだよ。私の発言をいっさい許さないというのは、さすがに異常だったね」

「……少しだけ、反省してますよ」

「シガンお姉さん、もう一発」

「それも駄目よ」


 まあ、別に問題ないんだけどな。
 クラーレのSっ気が少しでも現れる頻度を減らしてくれるなら……それまでは霊呪、これ以上渡さない方がいいかもしれない。





 さて、話題がまた逸れてしまっていたが、もう一度本題に戻してみよう。


「ますたーたち、ここへ何をしに?」

「草原も広いですし、そこから繋がるエリアの散策してみようかと」

「……そんな場所、あったっけ?」

「この世界の夜にしか現れない洞窟などがあるみたいですよ」


 たしか、そんな話を『ユニーク』の誰かがしていたっけ?
 そのときはやることがあってすっかり忘れていたが、今記憶をダウンロードして思いだした。


「ふーん、でも今は昼だよね」


 ちょうど太陽が真上で輝くお昼頃。
 部分的に夜へ世界を改変する魔法もあるにはあるが、そういうことではないだろうから放っておこう。


「メル、そういった場所が一つだなんて、誰も言ってませんよ」

「あ、そうだったね」

「発見された数はそう多くありませんが、一度行ってマップを埋めてみるのも一興じゃありませんか?」

「みんなもそう思うの?」

「まあ、ゲーマーってことよ」


 うん、それなら俺も納得だ。
 あるものはコンプリートしたくなるのが、ゲーマーの意地しゅうせいというもの。
 一週目で向かえなかったエリアなど、確実に行くべき場所であろう。


「レベルはどれくらいなの?」

「そこまで強い魔物はいませんよ。ただ、少し厄介な能力を持つ魔物が多いそうです」

「へー、そうなんだー」


 その続きは直接見て、ということで──


  ◆   □   ◆   □   ◆

 異常の森


 名は体を表す。
 あちこちを巡ってきたわけだが……


「えぐいね、このフィールド」

「人気はあまりないみたいですよ。手に入る素材もそこまでレアじゃないので、耐性や鑑定系のスキルを上げるために使われた、と情報にありました」


 状態異常に関する素材や、コソコソと不意打ちを狙う魔物たち。
 状態異常は豊富で隠蔽は常備、たまに罠作成系のスキルを持つ奴もいたな。

 ……そりゃあ、嫌われるしレベリングにしか使われないと理解できてしまう。
 特殊フィールドは隔離された環境だし、地続きというわけでもない。
 救援無しだから、ソロにもお勧めしづらいのがこの場所である。


「それにしても、こんな場所があるなんて知らなかったよー。ますたーたちは、こういう場所に来たことは?」

「少しありますよ。ただ、クエストに誘導されて、ということが多かったですけど」


 魔物の殲滅以外にも、どうやら特殊フィールドへ向かう条件があったようだ。
 たぶん、殲滅すれば別のフィールドが開かれるんだろうな。
 強者はいないだろうが、それなりに強い魔物が守護する何かがあるだろう。


「マップは埋め終わった?」

「まだグルグル巡っただけですよ。奥地に居る魔物を倒してお仕舞いです」

「その魔物は判明してるの?」


 人型で無いことは、確認済みだ。
 神眼を使わずとも、サーモグラフィーのような機能を目に付与すればいいからな。


「あらゆる状態異常を使いこなし、分身もできるという魔物がボスです。倒しても素材は残さず、魔石だけがドロップします」

「あらゆるかー、空腹とか酩酊も?」

「はい、なんでもです」


 つまり、即死もあるのか……。
 抵抗できないとは思わないが、瘴気纏いにでもなっていれば厄介だな。
 温度でしか調べていないので、ボスがその状態なのかは分かっていない。


「ますたーたちは、魅了されないように気をつけてねー」

「もちろん、向かう前に対策はしますよ」


 対状態異常用の魔法をいくつか施す、彼女たちはボスの居る奥地へと向かっていった。
 ──まあ、俺に状態異常なんて関係ないんだけどな。


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